202:相変わらず忙しい日々
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
本部長に言われた事はその日の夜のうちに皆に注意しておいた。
まぁ俺も知らなかったから強くは言えないんだけど。
採取担当だったミーティアは、俺が怒られた事について、非常に申し訳なさそうに謝っていた。
いい機会だから娯楽室の教本で、みんなで勉強しようかという話しもしてみた。
せっかく買ったんだし、組合員なのに組合員の事を知らないってのも、Sランクとしてどうかと。
聞けば二階層探索の前にも食料とかの件で一応は勉強したらしい。リーダー三人のみ。
しかし時間的にも全てに目を通せるわけもなく、結局は行き当たりばったりになってしまったとか。
なるほどね。まぁ次に活かせるようにみんなで頑張りましょう。
それはそれとして、全員集合した我がクラン【黒屋敷】は相変わらず皆忙しく動いている。
迷宮でのCP稼ぎも相変わらず行ってはいるが最低限だ。屋敷中心でやる事が多い。
ヒイノは訓練場でさっそく<パリィ>の練習をしている。
シャムシャエルは【聖剣アストライアー】のお試し。
少し見えて来た【聖剣】の感じとしては、神聖魔法の触媒としての効果・神聖魔法の威力上昇・MP回復速度の上昇が分かっている。
剣としての攻撃力は【魔剣】に劣るらしい。【ドラゴンソード】とどっちが上かと言われると悩むレベルだとか。
ならば神聖魔法を使う上でも【聖剣】にすべきだろうと、シャムシャエルの装備は【聖剣アストライアー】に固定した。
それに伴い、ジイナの盾造りが始まっている。
白い【聖剣】に黒い【炎岩竜の中盾】は似合わないからな。なんか嫌だ。
ジイナが悩んだ結果、どうやら風竜の牙を使うらしい。あれなら白いしな。一本の牙から盾を造るにも、大きさは十分ある。
「どうせなら【聖剣】にあわせて彫刻でも掘ってみたら?」
「恰好は良いですけど、実用的じゃないですよ。受けても削れそうですし、逸らすとか絶対無理ですもん」
そっかー。やっぱごちゃごちゃ掘られた盾ってのはファンタジーの中だけなんだな……。
凹凸があると受けるだけならやりやすいらしい。ただシャムシャエルの戦い方的には平面の方が良いと。
そう、うちの専属鍛治師が仰るならば何も言う事はない。
「あとこれジイナに聞くのも違うのかもしれないんだが」
「何でしょう」
「黒曜樹でマルティエルの弓って作れると思うか?」
黒曜樹で杖を作るのは決定している。俺の中で。
ただマルティエルの弓は何の変哲もないショートボウだから、それをどうにかしたいと。
「黒曜樹は堅いですからね……弓には不向きだと思いますよ」
「だよなー」
「二階層の【領域主】でいたエルダートレントで枝がドロップしてたじゃないですか。あれの方がいいんじゃないですか? 飾るのなら別ですけど」
あー、シャムシャエルたちが狩った【領域主】にエルダートレントがいたらしいな。
確かにその枝ならばある。飾ったところで見た目はただの枝だから、加工に回しても問題ないだろう。
南東区の弓職人にでも持って行ってみて、相談してみようかな。
そうしてジイナの鍛冶場を後にし、隣の建物へと足を運ぶ。
専属鍛冶師と同様に、専属錬金術師の方も忙しい。
二階層で採ってきた大量の素材をせっせと錬金している。
魔導王国に行く予定だからポーション関係は多めに欲しいからな。
「ほ、本当に失敗しないでどんどん作れちゃうんですよ……怖いです……」
「ふふふ……怖がっている暇はない……どんどん作らないと……」
「は、はいっ!」
なんかいつの間にかアネモネの立場が上になってないか?
侍女としては先輩なんだろうが、前はユアがもっとフランクに接していたはずなんだが。
「ポーション関係もそうだが、自分の杖も作るんだぞ? 黒曜樹と四階層の魔物の魔石でな。火属性の魔物の魔石を使えば、ユアに適した火魔法用の杖も出来るんだろ?」
「で、出来ますけど……高価な素材ばかりで、使うのが恐れ多いと言いますか……」
「気にしない、気にしない。どうせ素材はいっぱいあるし、何本か試しで作る気持ちでいてくれ。アネモネもなるべく良い杖を作れるよう協力してくれ」
「は、はい」「はい……ふふふ」
黒曜樹が予想以上に優れたものだったら、みんなの杖を作り直してもいいかもな。
まぁそこまで期待するのは酷だから言わないけど。
さて、俺は俺で、エントランスの飾りつけを終わらせたい。
魔導王国に行く時には仕舞っちゃうんだろうけど、形にはしておきたい。
そんなわけでエメリー他数名の侍女をお手伝いにし、せっせと展示をしている。
「展示する数が一気に増えたからレイアウトを考えないとな」
「やはり展示品同士をくっつけて壁際に並べる感じでしょうか」
「それと赤絨毯の脇にも置いて行くかな。それでも狭く感じるかもしれないが」
「<アイテムカスタム>でエントランスを広げてはいかがでしょう」
おお、俺より先に<カスタム>の使用を思いつくとは……! さすがエメリー!
「恐縮です」
どれどれ、早速確認してみよう。
……うわっ、とんでもねえ量のCP使うな。これはちょっと……。
「ダメでしたか?」
「エントランスを広げる代わりに他の部屋が狭くなっちまう。外観自体を広げれば問題ないが、CPの量がとてもじゃないが足りないな。それにさすがに外観は弄れないだろ。すぐにバレちまう。屋敷の裏側……第一防壁側に伸ばすのなら大丈夫だと思うが」
いずれにせよ、ここまでCPを使うのであれば止めておこう。
だったらみんなの<ステータスカスタム>と侍女服の<アイテムカスタム>をした方が良い。
現状のスペースでどうにかしましょう。
となればさっき言った通りに並べて見て、置ききれないやつは娯楽室に並べるか。
正面は亀と風竜の魔石。これは譲れない。
強い魔物をエントランスに集めたいが、強い魔物は総じてどれも素材が大きいんだよな。
風竜とか鱗一枚も牙一本、爪一本もかなりデカイ。それだけでスペースを使う。
ヘカトンケイルの【単眼巨人王の眼】とか人の頭サイズの目ん玉をホルマリン漬けみたいにしてるんだが、やはり場所を食う。
五首ヒュドラの蛇皮とかどうしよう……畳むか? もったいないけど。
二階層の【領域主】は多いなー。
ケルピーとかクイーンワスプとか、俺見たことないけど。居るんだな、こんなの。
そんな相談をしながら、台座を作ってもらいつつ、黒い布を貼ってもらいつつ、ジイナにもプレートを頼み、ガラスケースで封をしていく。やっぱこうやってまとまっていると気持ちがいいな。
「はぁ~、私の苦労の結晶が形になったわね! 壮観だわ!」
手伝っているラピスがうんうんと頷いている。
そうでしょう、そうでしょう。組合員としての探索の成果って感じで良いでしょう。
ただ二階層が終わったから次は三階層だ! とは言いたくないけどね。あそこは色々ときつい。
とりあえず展示はこんなもんかな。
あとは……あまり近寄りたくないあそこか。
「お邪魔しまー――うおっ!」
「あ、ご主人様でござる! どうでござる? 立派でござろう?」
「今さっき内装を終えたばかりなのでございます」
屋敷一階の東側の大部屋。元パーティーホール。現マイムマイム会場、もとい総合神殿。
パーティーホールらしく暖かみのある色使いの絨毯と壁紙に囲まれた部屋は一変していた。
床板が剥がされ石材のブロックが代わりに敷き詰められている。その上には通路のように青い絨毯。
壁と天井にもグレーの壁紙が貼られ、やや暗く厳かな印象になっていた。
神像の配置もされており、絨毯から少し離れた壁際に等間隔で並べられている。
窓側の中心には一回り大きな女神像。そこから順々に手をつなぐその姿はまさにマイムマイム。囲んでないけど。
「すごいな。見違えたわ」
「あとはそれぞれの神様の祭壇を飾るだけでございます。それは皆さんにお任せしようかと。私が女神様以外の祭壇を弄るわけにもいきませんし」
だな。そもそも奉じる神が違えば飾りとかも違うだろうし。
侍女全員でやったほうがいいだろう。
ただ……
「窓はそのままなのか? 遮光とかしないのか?」
元がパーティーホールだから窓も大きいんだよな。
そこから外の光が入り過ぎて、暗めにしたはずの雰囲気がとても明るい。
神殿っぽさがないと言うか何と言うか。
「実は悩んでいるんでございます。神殿にカーテンというのもどうかと……」
「確かに見ないな。じゃあステンドグラスとかは?」
「「すてんどぐらす?」」
ああ、ステンドグラスは存在しないのか。そういや北東区のガラス屋でも見なかったな。
せっかくだから教えておこう。採用するかどうかは別として。
「なるほど、色ガラスを組み合わせて絵のようにするのでございますか」
「ほぇ~、それが出来たらすごく綺麗っぽいでござる」
「やるとすればガラス屋に発注する事になると思うけど、そうしたら金は出すからな。ミーティアとエメリーと相談して決めてくれ」
「「はいっ!」」
やるにしても魔導王国に行くまでに完成はしないだろうな。
でも試してみるのは面白い。好きにさせよう。
どこの地区の商業組合もすでに復活していると聞く。
長らく停滞していた流通が動き始めていると。
少しくらいガラス屋に無茶な注文しても大丈夫じゃないかとは思うが、どうかな。
いずれにせよカオテッドの復興がほぼ見えて来た今、いつでも魔導王国に行ける状態にはしておかないとな。
出発までにやり残した事がないようにしておかないと。
そろそろメルクリオから話しが出るかもしれないしな。
……どんな所かねぇ、魔導王国。
……国王に謁見とか、本当に勘弁して欲しいが。
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第八章完ッ! 登場人物紹介を挟んで第九章、魔導王国編へ!




