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169:鎌首を擡げるは死神の如く



■ドミオ 妖魔族(ミスティオ) 男

■???歳 【天庸十剣】第三席



「私の大事な侍女服を傷つけた代償は大きいですよ?」



 目の前の彼女はそう言いました。

 私の【魔剣グラシャラボラス】、その姿と特性を前にして、よくぞ前に出られたものだと感心します。

 尻尾を巻いて逃げ出したとしても、何もおかしくはありませんからね。



 【魔剣グラシャラボラス】は斧槍型の魔剣。

 魔剣である以上、アダマンタイトを超える強度・硬度は当然あります。

 そこへ持って来て、魔力を流せば穂先の刃には闇の魔力が纏わりつく。


 闇の魔力が引き起こすのは″腐蝕″の効果です。

 武器と打ち合えば、相手の武器を錆びさせ、腐らせ、ミスリルであってもボロボロと崩れます。

 盾や鎧でも同様。金属であれば″腐蝕″の対象ですし、魔物素材でも腐らせます。


 では服やローブならばどうか。それは彼女の御覧の通り。

 布の繊維も、魔物素材も、同様に腐れ落ちていく。



 つまりは防御不能。


 受けることも逸らすことも出来ない。

 触れれば……いえ、刃に触れなくとも闇に触れただけで″腐蝕″するのですから。


 ならば避けますか? 避けながら戦いますか? 私を相手に?

 残念ながらそれは無理です。



 私はヴェリオ様の改造に加えて『狂心薬』でさらに強化されています。

 ついでに言えばスキルの付与もありますし、『神樹の葉』により神聖属性耐性も得ています。

 これまでの動きを見るに、彼女が私の攻撃全てを避け、尚且つ私に勝つという事はありえません。



 私は彼女が多肢族(リームズ)だから、非戦闘系種族だからと侮る事はしません。

 彼女の言った「侍女長」という肩書きだけで、あの【黒の主】が目にかけている事が窺えます。

 報告にあった【黒の主】の「仲間に対する強化」。それは彼女にも当然施されているのでしょう。


 侍女長という事を考慮すればミーティア王女や闇朧族(ダルクネス)竜人族(ドラグォール)といった報告を受けた面々よりも強くされている可能性すらある。


 私は本来、虚弱で臆病な妖魔族(ミスティオ)ですからね。

 それくらいの気持ちで挑みますとも、ええ。



「参ります」



 彼女は前傾姿勢で向かってきます。

 手には四本のハルバード。それは恐ろしい速度で、中距離から連撃を放ってくる彼女ならではの武器。


 うち二本は私の″腐蝕″を受けていましたが、未だ形を保っているところを見ると、なるほどかなりの業物なのでしょう。

 ミスリル以上なのは確実。魔物の素材で打たれたものかもしれません。


 とは言え、そう何度も打ち合えないはずです。

 数回私が受けるだけで、それは簡単に折れるでしょう。


 つまりこちらは防御に専念すれば―――





 !?





 目の前に迫った彼女が振り上げたのは二本(・・)のハルバード。


 そして左右、下の手に持っていたハルバードは消え―――いつの間にか二つの黒い小盾(・・・・)を装備していました。


 マジックバッグを使っての換装!? 速いッ!



 ―――ガィンッ!!!



 彼女は私の魔剣にわざと盾をぶつけて来ました。

 ″腐蝕″に当てられた小盾がかすかに(・・・・)煙を上げます。



「ふむ、これならば多少は持ちますね。しばらく(・・・・)は二つだけ(・・)で良いでしょう」



 魔剣の″腐蝕″がほとんど効かない!? 何ですかその盾は!


 咄嗟に盾を分析しますが、私の頭にあるどの鉱物にも当てはまりません。

 魔物素材? いや、こんな硬質な岩のような素材を持つ魔物など……私の知る限り存在しません。


 混乱している暇もなく、彼女の攻撃が苛烈になります。


 今までの速度が様子見だとでも!? 

 一体どれだけの強化をされていると―――



 ―――ギンッ! ギンッ! ギンッ!



「くっ……!」


「やはりミスリルソードでは数発が限界ですか。これ以上は折れますね。では変えましょう」



 振られたのはハルバードではなく、いつの間にかミスリルソードに変わっていました。

 何とか受けますが、間合いも速度も先ほどとは変わっています。


 さらにそのミスリルソードを仕舞ったかと思えば……今度はミスリルスピアですか!

 少し離れたと思ったその距離が、すでに適正距離。左右二つの矛先が向かってきます。



「ぐっ! 貴女はッ! 一体……ッ!」


「では次はミスリルの大剣を」


「があっ!!!」



 一体、どれだけの武器を持っているのか。


 どれだけ速く換装するのか。


 なぜどの武器も使いこなせるのか。


 混乱に拍車が掛かります。



 体勢を整えなければ、そう、私の有利は背中の翼にあります。

 上空からの攻撃に終始すれば、彼女がいくら戦闘技術が高かろうが、それは対空攻撃のみになる。

 隙を縫って距離をとり、私は空へと舞い上がr―――



「させませんよ」



 私の足首には鎖が巻き付いていました。

 いつ投げた!? いつ持ち替えた!?

 抗う私の足の腱が、ブチブチと嫌な音を上げます。



「ぎぎっ―――がああっっ!!!」



 さらに襲い掛かるのは何本もの投げナイフ、鎌、ハンドアクス。

 次々に襲い掛かる凶器に、たまらず私の力が抜けました。

 そして、その容姿からは想像できない力強さで、私は無理矢理地面へと叩きつけられたのです。



 ―――ズガァァン!!



「ぐあああっ!!!」



 吹き飛びそうな意識を何とか持ちこたえ、虚ろな目で彼女を見ます。


 コツコツと靴音をたて、彼女は倒れた私の元までやって来ていました。



「な……何者、ですか……貴女は……ッ!」


「言ったでしょう。私はセイヤ様にお仕えする侍女長、エメリーです」



 何とかしなければ……彼女はここで倒さないと……!

 その一心で身体を動かします。


 右手に持った魔剣を……ない……私の魔剣はどこに……?


 叩きつけられた時に手離したのか……!?














「さて、()は″腐蝕″するのですかね?」



 見開く目に映る彼女。

 その手には私の―――



「侍女の服を破いたお客様には退席して頂きます」


「あ、なた、は―――、……か―――」









 ―――ザシュッ










 最期に見えたのは禍々しい、黒いハルバードを振り下ろす彼女(死神)の姿でした。




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読んでもらって感謝! 今後ともよろしくお願いします!


エメリーさんの戦いを書くといつもつい興が乗ってしまう。そういう病気かもしれない。

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↓こんなのも書いてます。
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― 新着の感想 ―
[一言] エメリーさんすげぇ ナムカプのアーサーみたいだ
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