天才 一二三 和也
「ん…んん……」
起きるとそこは見慣れない天井だった、だるくなった身体をソファから起こすと
「お目覚め?ボクちゃん」
とシャツのボタンが乱れた茶髪のロングヘアのお姉さんがおかゆをもってこちらへ近づいてきた。
いきなり高校生を「ボクちゃん」扱いはさすがに酷いと思う。
あたりは、雑誌や本で散らかった部屋と奥にはキッチン、それと隣にはもうひとつ部屋があるのだろうか、扉がある。
「お姉さん誰?」
男の子がそう言うと、優香はこう答えた。
「あら、あんたが私の目の前で倒れたから介抱してあげたんじゃない。」
そう、彼は封筒を優香に押し付けて倒れた。
「それで、あの、中身……」
彼は少し恥ずかしくてモジモジしながからそう言うと…
「えぇ、見たわよ」
と、あからさまにニヤついてこちらを見つめてきた。
ドキッとした自分の不覚さにまた恥ながら、1番聞きたかった質問をぶつけてみた。
「感想は…?」
「……とりあえず、お粥食べなさい?」
優香は彼をそうなだめた。焦っても仕方ないと感じた彼も
「はい、ありがとうございます。いただきます。」
「あっ、お姉さんが食べさせたげよっか?」
「自分で食べれます!!!」
その後からかわれてしまった。
「ーーそれで、あなたの作品…」
それまで、美味しそうに食べ進めていた彼のスプーンの手が止まる。
「全くダメね。」
優香は非情にも続けてこう言った。
「あなたはこの作品で何を読者に伝えたいの?確かにあらすじは面白いけど、キャラクターに気持ちがこもってないわ。」
彼女は言い過ぎたと思ったのか弁解しようと
「あらすじは面白いと思ったのだから後もう半ひねりくらいかしら?」
「あっははは!」
彼は思わず笑いだした
「お姉さん、僕それ昨日の夜ふらーって思いついたストーリーなんですよ?」
「え?」
彼女は固まった。
そりゃあそうだ。本を売り出す出版社に持ってくるような作品をたった一晩で書きそれを出しに来たのだ
……そして一晩で構成されたストーリーには思えなほどよく出来た物語だと思ってしまったからだ。
「まってあなたほんとにこれを一晩で?」
彼女が聞き返すと、彼はニヤっとまるでさっきまでの優香のような余裕を見せた表情で……
「四時間」
そう答えが返ってきた。
そして彼はこう言った
「僕をあなたの出版社の専属ライターにしてください。」
優香は驚きを隠せなかった。そして優香にそんな権利は無い……この少年をうちに入れる方法……
そこでふと思い出す、自分の担当している仕事、今受け持ってる仕事。
「ー妄想に生きる祭ー(アマチュア・ビギナー編)ー」
年に二回行われる新ライトノベル作家や絵師さんが集い大企業出版社に名前を知らしめる大きなイベント。
「あなたこれに出なさい。これに応募すればあなた、うちで小説かけるわよ。」
彼をうちのライターに迎える唯一の方法だった。
「あなたの本気で書いた作品ここで見せなさいそうしたら上はきっとあなたに興味を示すわ」
彼には当分燃えた言葉だったのか、
「受けてたちましょう。」
彼はおかゆをかきこんだ。
「そう言えばあなた名前は?」
「和也……一二三 和也です。」
少し名前を言うのに躊躇してからそう教えてくれた。
「そっか。じゃあ和也くんこれからよろしくね?」