相思花
『花は葉を思い、葉は花を思う』
彼岸花はいろんな名前で呼ばれているね。
死人花 幽霊花 地獄花 毒花 天蓋花 痺れ花 狐花 狐の松明 捨て子花
そして……『相思花』
彼岸花はね。花が咲いている時は葉が出て無くて。
葉が出る頃には花は散ってしまう。
だからこの国では『相思花』って呼ぶんだよ。
互いに思い合っても決して出会う事が出来ない。
まるで僕達の様だね。
会う事が許されない。
僕達にとっても似ている。
そう言って笑ったのは私の双子の兄だった。
私達は双子の兄妹として神聖アミューズ皇国に王族として産まれた。
私達の母は私達を産むとすぐに身罷られた。
隣の国の姫で元々身体が丈夫な方では無かったと乳母が言っていた。
父はアミューズ皇国の王太子で母とは政略結婚だった。
父には学園に通っている頃から好きあっていた人がいた。
男爵令嬢で精々側室にしかなれない身分だった。
父は母と結婚して初夜で私達を授かった。
男爵令嬢と父の間には子はできない。
魔力量に差がありすぎると子ができにくいのだ。
男爵令嬢の母はメイド(平民)で魔力が無い。
男爵令嬢も貴族としては多い方だったらしいが王族とは相性が悪かったのだろう。
王太子妃である母が身ごもると段々男爵令嬢がおかしくなってきたと乳母は語る。
乳母は再三父に男爵令嬢を城から出すように訴えたが。
父は聞く耳を持たなかった。
そして……事件が起きた。
嵐の夜男爵令嬢が私達が眠る部屋に忍び込んだのだ。
護衛の騎士は男爵令嬢に買収されていた。
乳母は魔術で眠らされていた。
男爵令嬢はベビーベッドに近寄ると兄にナイフを振り下ろした。
男爵令嬢は直ぐに悲鳴を聞きつけてやって来た騎士に取り押さえられた。
兄は虫の息だった。
直ぐに皇王(お爺様)と王太子(お父様)が私達の部屋に駆けつけてきた。
皇王は直ぐに禁忌の魔術をおこなった。
兄が死ねば、母との国で戦争が起きるだろう。
ただでさえ母の死は早すぎて、父が母に毒を盛ったと陰で噂されていたのだ。
男爵令嬢の命と買収された騎士の命を使って兄の魂を私の体に移したのだ。
「これは私の罪でありお前の罪でもある」
お爺様は父にそう言った。
男爵令嬢の遺体を抱きしめる父。
男爵令嬢と騎士の体はボロボロと崩れ去る。
禁忌の魔法に使われた者は死体も残らない。
こうして……
兄は私になった。
私は兄になった。
私達兄妹は一日ごとに入れ変わった。
一日ごとに男の子になったり、女の子になった。
記憶は引き継がれることはなかった。
一日ごとに記憶が無いのを不思議に思っていたが。
兄が私の夢に出てきたのだ。
「こんにちは。リーゼロッテ。僕は君の兄のメデアスだよ」
私は直ぐに理解した。
ベッドのある部屋の左側は男の子の部屋で男の子の服やおもちゃが置いてある。
右側の部屋は私の服やぬいぐるみが置いてある。
「私達は神に背く存在なのね」
私がポツリと呟くと兄は否定した。
「僕らに何の罪があると言うんだ?」
では誰に罪があると言うのだろう。
勿論、兄を殺した男爵令嬢に罪はある。
では……愛しているからと男爵令嬢を城から出さなかった父に罪は無いのか?
男爵令嬢は父の子を抱くことはできない。
しかし、城から出して、他の者と結婚して母になる事を父は許さなかった。
それ故に男爵令嬢は嫉妬に狂いあの狂行の及んだ。
男爵令嬢を父は失い。我儘の報いを受けた。
お爺様とお婆様は私達を愛してくれた。
憐みからだったのかも知れないが。
やがてお爺様とお婆様は亡くなり。
父が皇王になった。
国が荒れた。
兄は何度も父に意見したが父は受け入れなかった。
そしてとうとう私達は塔に閉じ込められた。
嵐の夜だった。
父が剣を携えてやって来た。
その日は兄の体の日だった。
私には何が起きたのか分からなかった。
ただ夢の中に兄がいた。
「兄様‼ 血が‼」
兄は疲れた顔で笑った。
「父上を殺したよ」
「そんな……嘘でしょう。お兄様。嘘だとおっしゃって‼」
「嘘だったらどんなに良かったか……」
兄は何かを決意した顔をした。
「さよならだリーゼロッテ」
「お兄様?」
「この躰をお前に返す時が来た」
「お兄様? 何をおっしゃっているの?」
「一つの躰に二つの魂。無理があった。リーゼロッテお前も気が付いていただろう。この躰が軋んで壊れ始めていることに……」
「それは……」
リーゼロッテもそれは感じていた。時々体中が針を刺したように痛み高熱や悪寒に苛まれていた。
「丁度父と護衛騎士の遺体がある。もしもの時の事を考えてお爺様が禁忌の魔法を私に授けていてくれた。ありがとうリーゼロッテ。本当なら赤子のうちに殺されていたけれど。リーゼロッテのお陰で幸せだった。僕のお墓には相思花を植えてくれ。割とあの花好きなんだ」
兄は笑って消えて行った。
もう二度と私の夢に現れることはなかった。
私は皇王となり国を治めた。
夫は私を支えてくれ、子供にも恵まれた。
戦争も無く、国は豊かに栄えた。
『花は葉を思い、葉は花を思う』
相思花。
「伯父様のお墓の花はいつもこの花なのね」
幼い下の娘が赤い花を墓に備える。
「お兄様はこの花が好きだったのよ」
私は下の娘の手を引いて霊廟を出る。
赤い花が風に揺れている。
~ Fin ~
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2020/1/25 「小説家になろう」 どんC
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~ 登場人物紹介 ~
★ リーゼロッテ
皇国の皇女。主人公。いかれた男爵令嬢のせいでえらい目に遭う。
兄を愛していた。
★ メデアス
皇国の皇子。いかれた男爵令嬢のせいで死ぬ。
皇王(お爺様)の禁忌の魔法で助かる。
ただしいもうとのからだに強制同居。
妹の体がやばくなってきたので殺しに来た父親と護衛騎士をぶち殺して禁忌の魔法を解き。妹に体を返す。シスコンか?
彼岸花が好き。
★ 王太子
男爵令嬢を愛していたが。幸せにも子供を授けることも出来ない。
ある意味無能。まともな双子を嫌い塔に閉じ込め殺そうとするが息子に返り討ちにされ禁忌の魔法の材料為される。ある意味国民共々無理心中しようとしたはた迷惑なおっさん。美形。
★ 男爵令嬢
王太子の子を産むことも出来ず(側室の仕事は王の子を産むこと)だからと言って城からも出してもらえず。段々病んでいく。
★ 王太子妃
隣の国の姫。双子を産むと直ぐ亡くなった。体が弱かった。
王太子が毒を盛ったと噂されたが。王太子は無実。
★ 皇王(お爺様)
双子の祖父。メデアスを助ける為禁忌に手を染める。
その為か早くに亡くなる。
孫好き。もう少し生きていたら息子を廃嫡して孫に皇位を継がせていただろう。
花の辞書の彼岸花を見ていて思いついて勢いで今日かき上げた作品。
因みに赤い彼岸花の花言葉は『情熱』『独立』『再会』『あきらめ』『悲しい思い出』『転生』とあります。うわ~~~この話にリンクする言葉が多いな。色によって花言葉が違うのも面白いですね。