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僕の名前が室井あきのり  作者: 室井あきのり(@ryoki1208)
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僕の浮気相手はめめこさん

 今日はまだ6月の中旬だというのに、まるで真夏のような暑さだ。

 福岡空港から出た僕は、さんさんと頭上に輝く太陽をあおぎそう思った。

 

 おかげでママにユニクロで買ってきてもらった、新品の990円のTシャツが汗でびしょびしょだ。


「アトピーがかゆい~、かゆいよぉ~、めめこ~背中叩いて~」

 

 そう、あきのりは博多に浮気相手のめめこと会うために出向いたのだ。

 

「いやよ~汚い。粉がつくけん」

 彼女は自分の丸い顎に垂れてきた汗を、ハンカチで拭いながらそう言った。


「そうそう、今日は私がご飯作っちゃるけん!楽しみにしとって!」

 弾むような満面の笑みを浮かべながら、彼女は僕としゃべっている。

 

 めめこは僕がなみと付き合っているということを知らない。

 

 『罪悪感』はないかって?


 そりゃあ全くないと言えば嘘になる。

 だが皆が想像しているほどではないだろう。


 なぜなら、僕は女の子が好きだからだ。

 それ以上の理由もそれ以下の理由もない。

 持って生まれた『持病』のようなものだ。




 その夜はめめこの提案通り、めめこの自宅で手料理をいただくことになった。

 メニューは、トンカツのようだ。


(ちっ!俺が欲しいのは豚の身体の肉じゃなくて、あんたの身体なんだよなぁ……)


 あきのりは心の内ではそう思いながらも、1か月消費期限が切れた肉を使ったトンカツを「おいしい、おいしい!」と言いながら頬張った。

 

「そういえば、めめこって猫飼ってるんだよね?たしか名前はとろろだったっけ?」


「うん!見しぇちゃるけん、少し待っとって」

 めめこはとろろがいる玄関にサンバするような足取りで向かった。


「なにこれ?とろろの脚になんかついとー。あきのり君がやったと?」

 

 当然、僕はそんなことはしていない。

 

「いや?ちょっと貸してみ」


 ただの紙切れが偶然、脚についたのだろうと思い、めめこからとろろを受け取りよく見ると、これは偶然などではない、明らかに何者かが故意につけたものだと分かった。


 時代劇で果たし状などが、矢に結び付けられて飛んでくるシーンを見たことがあるだろうか。

 まさに、あのような感じでとろろの脚にしっかりと結び付けられていた。


 僕は、やや不審に思いながらも、ここは家の中である。

 物語の中の出来事を現実で遭遇したワクワク感を残したまま、その紙をおもむろに開いた。


 そのワクワク感は、『紙の中の文字』を見た瞬間、どこかに吹き飛んだ。


 紙一面に血の文字で『銀河の果てからメテオに乗って室井あきのり参上!w銀河の果てからメテオに乗って室井あきのり参上!w銀河の果てからメテオに乗って室井あきのり参上!w銀河の果てからメテオに乗って室井あきのり参上!w銀河の果てからメテオに乗って室井あきのり参上!w』と殴りかかれていた。


「うわぁ、あ、あ、あ、あ、あぁ!!」

 僕は思わず紙を投げ捨て、後ろにあった100均のごみ箱を壊すほどの勢いで腰を抜かし、床に座り込んだ。


 2週間前の僕の部屋での『出来事』がなければ、こうは驚いていなかったはずだ。

 めめこのイタズラなんだろうと、見た瞬間は高をくくっていたに違いない。


 呼吸を整え、冷静さを取り戻すと、僕は黙り込んで考察を始めた。

 

 この二つの出来事は同一人物の仕業に違いない……


 僕のあのメールアドレスを知っているのは、両親と妹となみとめめこ。


 ママとパパが僕の体たらくに嫌気がさしてこんな嫌がらせを?

 いや、嫌気がさしているのは確かだが、こんな手段に出ることは絶対に考えられない。

 それは妹も同じ。


 じゃあ、やっぱりめめこがイタズラを?

 

 いや、ないだろう。

 今のめめこの反応を見ても、とても演技だとは思えない。

 それに、めめこがそんなことをする人物だとは到底思えない……


 それじゃあ……、やっぱり……。

 

 僕は信じたくなかった。


 大切な数少ない友人であり、恋人でもある彼女がこんなことをしていると。



 「今夜は独りにしてくれ」

 

 僕はめめこにそう言い残すと、むねむに2倍で請求しておいたレゴランドの入場料のあまりを使って、独り博多のカプセルホテルで寂しい夜を過ごした。

 

 

 


 

 

 


続く……

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