五十九話「ネコ猫ねこ子」
ああ、青春だなー、と。
しかし当人は、それどころではなかった。
「ワケわかんなくないですよかってにきめないでくださいだいたいなんでいきなりおとうさんとおかあさんがいるんですかあらかじめよんでたんですかそれともきゅうにつれていやそんなことできるわけないですよねふたりがどこいるかとかさいしょからしってるわけないですしならわたしのこととかおもってることとかぜんぶつつぬけとかそういうこといいたいわけですかえーえーどうせわたしはこどもですよばかですよむぼうですよだけどだからってそんなこといわれたくないですよわたしっだってせいいっぱいいきてるんですよそれなのにせいしゅんだとかなんとかでひとまとめに――」
「ストップ」
止めたのは、竜苑寺ではなかった。
止めたのは、暁成ではなかった。
止めたのは、その他大勢の男性たちではなかった。
止めたのは、神仔だった。
「……かなこ、お嬢様?」
「すっごいね、仁ちゃん」
なにがスゴイ?
ただみっともなく、どうしようもなく恥さらしで、哀しいほど子供なだけだ。
「うん、すごいな」
竜苑寺様、そりゃあ貴方は特殊な趣味を持っているからそうでしょうが。
「いやまったく、大したものだ」
その意見には、意表を突かれた。
「――暁成、さま?」
見つめる――その双眸からは、透き通った水分を零しながら――先にはおわす暁成のその姿は、いつも通りに傲慢に映った。
「くっハハハハ、いやいや大したもんだなSPくんよ。まさかオレ以外に、この男とそうまでやり合える婦女子のひとりもいたとはな。まったく、くくく……猫被りだな、竜苑寺が気に入るわけだ」
「! ね、ネコなんて被ってません!」
「くっハハハハ……被ってるではないか、うわはははは」
「ッ! 被ってませんってばっ!!」
「うわハハハハっ! いやいや確かに竜苑寺よ!」
立ち上がり、なぜかスタスタと、竜苑寺のところまで歩いていき、そして背中をバンバンと叩いていた。わからない。外は混沌。以前と同じ感想に至る。歯痒い。なにがかがわからないのが、また――
「……なにが、おかしいんですか?」
「ほら見ろ竜苑寺よ? 泣きながら笑っているぞ? いやいや、まったく不可思議にして稀有な生き物だな。面白いものを見つけたモノだなー、なあ竜苑寺よ?」
「すっかり馴れ馴れしい様子ですな、閣下?」
「閣下とは、なかなか悪くない言い回しだな。ならオレはなんと呼ぼうか?」
「お好きなように」
「なら、ドラゴン。うむ、ドラゴン。燃えよ、ドラゴン!」
「どっちかっていうと、萌えよ、って感じですが」
「わからんな、アッハッハ!」
「いっ痛いですよ、閣下」
仲良くなっていた。それがすごく、気に喰わなかった。こっちはこんなに、苦しんでいるっていうのに。
「しかしドラゴンは笑っとらんな。お前が仕掛けたことだろ、笑えよ」
「ははは」
「笑うなッ!」
どん、と仁は竜苑寺の胸板を叩いた。
それに誰も――言葉を発さなかった。
しかしニヤニヤ顔も、変えてはいなかった。
無性にどうしようもなく、腹立たしかった。
だから――
「笑うなっ!」
叩いた。
「笑うなっ!」
叩いた。
「笑うな」叩いた。「笑うな」叩いた。「笑うな」叩いた。「笑うな」叩いた。「笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな」叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた。「笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑――!」叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた叩いた――




