五話「お嬢ちゃん捕まえたら世界が大回転」
なんか聞き捨てならない台詞に気配を察して後ろを見ると――なんか開いたドアから黒服がぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ……ってどんだけいんねん。
ざっと、15人出てきた。これ、ロールスロイスだからって乗れる人数越えてるよな?
「じゃ、いっちゃえー」
可愛らしい指さし号令と共に、黒服どもが黒山の人だかりよろしく殺到してくる。
それを見て、竜苑寺は考えた。三択だな。自慢の足に任せて逃げおおすか、獣の如く暴れて駆逐するか、だがどちらもスマートとは言い辛いから、第三の――
「お嬢ちゃん?」
「ん、なに?」
「ちょっと、ごめんよ?」
「ふぇ?」
ひょい、と脇に手を差し入れ、女の子を抱きかかえた。なんか柔らかかった。
そのまま黒服どもの、正面に立つ。
『!?』
一斉に、黒服どもは慌てた様子で急ブレーキをかけた。そして戸惑い、ざわつき、行動を躊躇う。ふむ、とりあえずはこれでよしと。
身長190センチの竜苑寺に身長推定160センチいかないくらいの女の子は抱っこされた形のまま、
「……オジちゃん?」
「なんだい?」
「これ、なに?」
「んー、人質ってやつかな?」
「……マジ?」
「ていうか、嬢ちゃんの方こそどういうつもりだい? いきなり連れてって、とか?」
「だってオジちゃん、可哀想だから」
グサッ、とキタ。心の、一番やわかいとこに。自分で選んだこととはいえ、無職だとか可哀想だとかは他人に言われたくはなかった。なんか、切なくなるから。
竜苑寺は極めて平静を保ちというか装いながら、
「いや……オジちゃん、別に可哀想じゃなくて――」
「お家、ないんでしょ?」
「いや……それはあくまで家はというか、なんていうかわざとというか、別方面の……」
「どういう意味?」
我ながらわけわかんない言い回しになっていた。というか、そこはもういい。とりあえず、離脱が優先。こんなわけのわからん状態でもう喰い物も寝る場所も青春もないってなものだった。
「じゃ、じゃあとりあえず……少し、お付き合い願えるかな?」
「ふぇ?」
女の子を抱えたまま、じりじりと後ずさっていく。黒服が飛びかかろうとするたび、女の子を抱えて上げて威嚇。そしてじりじりと30メートルくらい距離を取って後ろの信号機が青なのを確認した横断歩道まできたところで、
「お付き合い、ありがとうございました」
「いえ、どーいたしまして」
うん、子供は状況よくわかってなくても返事がよくてよし。というか本当にキミは何歳なんだろうな?
まあ二度と、会うことはないだろうけど。
「じゃあ、またね」
「ふぇ?」
ストン、と女の子を地面に着地させて、身体を反転――ダッシュ。途中振り返り、爽やかにシュタッと片手をあげて、スマートに最後の挨拶。
決まった、これでオジちゃんじゃなくて、大人なお兄さんだ。
「あ……」
寂しがるな、少女よ。出会いと別れは、表裏一体。出会いがあれば別れもあるし、その逆も然り。この可哀想な――じゃないんだよ? ホントは? オジちゃんとの――といってもまだ二十代だけどね? まああと2ヶ月で地獄の30だけど……との別れも寂しいのは一時で、次にきっともっと素晴らしき楽しい出会いがあるさ。
「そう、きっと楽しい出会いが――」
「あぶな」
「え? なにが――」
ガン、と物凄い衝撃で視界がぐるぐると、回った。
あとのことは、よく覚えていない。
気づけば全身、包帯ぐるぐる巻きだった。
「――――」
そして更に、見覚えのない部屋だった。
「…………」
というかそれは、なかなかに豪奢な部屋だった。寝てるのは天蓋付きベッドだし、床には最高級っぽいペルシャ絨毯だし。うむ、無駄に贅を尽くしているな、と竜苑寺は感心。
立ち上がろうとしたが、身体が動かなかった。うむ、これは、アレか。事故ってしまったか。よそ見して道路に飛び出すとは、我ながらやってしまったな。確認した時は青点滅のタイミングだったかと、ひとり反省。
動けないなら、仕方ない。
時間の無駄は良くないからと、今できる精一杯である就寝をして体力の回復と、怪我の治療に努めることにしよう。と眠ることにかけては自信がある竜苑寺は、決めて2秒で眠りに落ちた――
「あ、起きましたか?」
声に敏感な竜苑寺は、即座に目を覚ました。
極めてゴッツい扉の前に、ひとりの"メイド"さんが立っていた。
「あ、どうも」
ニッコリ笑われた。
「いえいえ、こちらこそ」




