第五十七話「青春のやり方ウィキペディアにもない」
「失敗し給え、若者よ。場の空気を読む必要など、まったくない。失敗して、恥をかき、後悔して、悩んで、迷って、苦しんで、そのうえで同じ失敗を繰り返すがいい。そして無為な時間を重ね、それに後悔して、次はしないと意気込んで、そしてまた全く同じ形で失敗して、少しも成長できない自分を憂うがいい。そして時間を24時間、余すことなく無駄に過ごすがいい」
言葉としてはこれでもかというくらい皮肉たっぷりなソレだったが、なぜか不思議な事にその時の仁には、その――底に流れる意味合いを、なんとなく感じとることが出来た。
長く付き合って、きたからだろうか?
「その日々に、一体なんの意味が?」
「無いさ」
そう言うと、思っていた。
「意味が無いのに、そんな日々の送り方をするべきなんですか?」
「すべき、というより、キミは、というより、私が、だな」
「竜苑寺様が、望むからですか?」
「その通りだ」
胸を張り、真っ直ぐにこちらを見つめるその姿に、仁は想いを告げていた。
「傲慢ですね」
「青春まっ最中だからな」
「30前のお人がですか?」
「歳が関係あるとは辞書にもウィキペディアにも載ってはいないぞ」
「若さが必要とお聞きしたばかりですが?」
「それは心意気の問題だ」
めっちゃくちゃだ。理屈になってない。その場凌ぎ以下と断言できる。
だが、きっと、そういうものなのだろう。
なんだか――
「……ハハ」
声に出して。
笑ってしまった。
はしたなく。
不格好に。
それに竜苑寺は、尋ねる。
「なにが、おかしいのかな?」
「だって、めちゃくちゃだから」
「そうか、めちゃくちゃか」
「はい、滅茶苦茶なのに、大人なのに、会長なのに、それなのに……!」
「そうか、大人なのにか? 会長なのにか?」
「はい、それなのに……なの、に……くくっ!」
「楽しそうだね、仁君」
「ハハ、ハ、ハハっ……はい、楽しいです、楽しいですね。本当に、竜苑寺様って、もしかしたらとは思ってたんですけど……ホンっとうに、めっちゃくちゃなんですね」
「滅茶苦茶というか、青春の王者とでも呼んでもらおうか」
「なんですかそれはっ、アハハハハハハハっ!」
それはいつ以来か。
仁は大声で、笑っていた。人目も憚らず。空気も読まず。先のことを考えず、前のことも考えず、ただ笑った。ただただ無為に無駄に無意味に、笑い続けた。
その時仁の頭は、真っ白だった。
えほんっ、と咳払いが聞こえた。
視線を向けた先には、暁成様が握った拳を口に当てていた。
少し、しゃっくりめいたリアクションを取ってしまう。
「あ、あの……し、失礼を!」「私のせいです、失礼をば」
「ああ、いいから」
仁に次いで竜苑寺も平謝りし、それに暁成はテーブルの無い寂しい椅子でひらひら手を振る。
こんなラフな暁成を見たのも、仁は初めてだった。
今日は本当にこれまで生きてきた世界が皮を脱いだかのような――革新的な日だった。
だから暁成に頭を下げたあと、竜苑寺の方を向いた。
「あの、」
「なんだい?」
「わたしは……」
「キミは?」
少し笑ったのが、自分の一人称の違いを感じとって――汲み取ってくれように思えたから。
「父に、母に……会いたいと願っても、いいのですか?」
「いい」
きっと、良い悪いではない、と言われると思っていた。
「親に会いたいと願ってはならない子が、いて――たまるかァ!!」
突然叫ばれたことにも驚きはしたが、しかしそれよりも胸打ったのは――
「いいン――でっ、スよ、ネ?」
自分の声が、ひっくり返っていた。
しゃっくりみたいで、聞き取りづらいものになっていた。
竜苑寺の笑顔が、ヒドく優しいモノに変わる。
「いい」
そんなに優しく、肯定しないで欲しかった。
耐えられなく、なるから。
「わた、し……おとう、さン、お母サっ、んに……お会いしたい、ト、考えてっ、も? いいンでっ、スよ、ネ……?」




