五十五話「駆け引き? からかい? 夢のあと(笑)」
胸から駆け昇るこの凶暴な想いをなんと表現すればいいか、仁はその時知らなかった。
「わたしはっ!」
それはめいっぱいの。
「両親なんていらないッ!」
魂からの、咆哮だった。
「青春なんてクソ喰らえだっ! 学校になど頼まれたって行ってやるものか! 女性という性別すら捨てたわたしは、もう、もう――!」
「いかんな、実にイカン」
「え」
それは先ほどの、焼き増しの逆。
吠え、猛り、迫る相手を一顧だにせず貫く在り方。
「見目麗しい若い女性が、性別を捨てただの、学校に行かないやら、青春なんてクソくら……とまぁ、それはその価値を知らぬ故、仕方のない事か」
その場で左腕を胸に当てる形に直角に曲げ、その上に乗せる形で右腕で頬杖をついている。その姿はまるでどこぞの偉人かもしくは誰かの考える彫刻のようだったが、しかしその実態は――
「だがその見苦しさも、愛しき青春そのものといえばその通りだな。うむ、ビバ痛い告白」
なかなかにアレなソレだった。
もちろん沸騰寸前な仁には、ダイナマイトにフレアブレス。
「っ……クッ、笑うなら、笑ったらいい! どうせわたしなんて、なにも知らない、出来ない、どこにでもいるその辺のガキよりもさらに下等で無能などうしようもない小娘で――」
「いや笑わないね」
あまりに会話が噛み合わなくて、仁は異次元にいる――というより、ソレに自分も巻き込まれ、浸食されたような心地を味わう。
「え? な、あ……?」
「何度でも言おう。今キミは、世界の誰よりも貴く、美しい時の中にいて――そして、気高いのだ。それをキミは、自覚すべきだ」
まともに付き合っていたら、なんだかだんだんとバカバカしくなってきた。
だって――
「……少年だと言っていたくせに」
矛盾だらけのその理論。
「見た目がどうした?」
すぐに反論。
「ですが、実際先ほど……」
「そんな低俗なことを気にする者は、放っておけばいい。人間、ここが最も大事で、そして重要で、評価されるべき点なのだ」
ドン、と自身の胸を叩く。それにうわ、オヤジくさ、と思わずな正直な感想を抱いてしまった。考えてみれば事実として年齢は一回り違うのだが、その事実を知るすべはなかった。
「…………なぜ?」
色々考えて、色々思い返し、そして自分なりに――世間知らずでまるで子供な、未熟な自分なりに消化して、理解して、そして、言葉にしてみた。
「なにがだい?」
自分如きがこの百戦錬磨のドラゴンの心を揺らすことなど、後100年は出来そうになかった。
「わからない。わからないんです、考えても。なぜ自分のことを、そんな風に言ってくれるのか?」
今まで出していた素の自分とは、少し違う。どちらかというと、これは今まで培ってきた、SPとしての自分だと仁は思う。だが考えてみれば素の自分よりSPとしての自分の方が長く、そして身についているのだから、ある種こちらの方が本当の自分と言えるかもしれなかった。
だから言葉がスラスラと綴られていく。
「理由は、なんですか? どう考えても自分にそんなことを言ってくれるメリットが、ひとつも思い浮かばないんです。見た目がどうした? と仰っていましたね? でしたら自分には女性的な魅力は乏しいということになります。もちろん一SPに過ぎない自分の経済力など、竜苑寺グループの創始者にして会長の竜苑寺様の財力には足元にすら及びません。わかりません。あとは、なんでしょうか? もしくは、と、あくまで可能性の提示で、そして大変失礼ではあると存じ上げますが、一般庶民の、下々の者を弄んで愉しんで――」
「あったまいいな、キミは」
カカカカっ、と快活に竜苑寺は笑った。
その評価も、仁にとっては無耳に水なものだった。物言いに心得があるのは、散歩以外ではひたすら家に籠もって読書に勤しんでいたからに過ぎなかった。
「いえ、自分はそんな……」
「だが、頭が固い。しかしそれこそ青春の――いや一旦止めておこう。高ぶる気持ちは抑えられないが、しかし話も進まないからね。それで、なに? メリットかい?」
「はい」
「ンなもの無いな」




