五十四話「ドラゴン、ファイヤー!!」
「青春には友情や恋愛のほかに、親との様々な交流が不可欠だ。反抗期だとか、それを乗り越えて感動の和解だとか。異性を連れてきてそれは誰だの嬉し恥ずかしハプニングだとか。と、言うわけです、暁成公。私は貴方のお嬢様とこの可憐な執事を皇武舎総合学園に入学させた後、仁君の御両親を探し出し、引き合わせ、感動の再会と凍てついた心の解放と向かわせたいと思うのですが?」
「好きに――」
「……やめてください」
再度暁成が許しの言葉を吐こうとしたのを、ここまで来て初めて――いや、"生まれて初めて"、遮った。
人の意見を、捻じ曲げた。
それは考えての行動ではなかった。咄嗟に、発作的に起こした行動だった。
それに、暁成は――しかしなんのリアクションも起こさなかった。
起こさず、そして事実としてなにも起こらなかったかのように、
「……好きにしろ。もはやお前に、どうこう言うつもりはない。好きにやってみろ。その結果、楽しみにしていよう」
「はい、そのお言葉恐悦至極に存じ上げます。というわけで、仁君。御両親のことは私に任せて、キミはお嬢様と今まで散々遅れてきた学業友情恋愛学園祭含めたひと括りにしてしまえば青春に邁進――」
「……やめてください。自分はそんなこと、望んでいません」
「してくれればいい。いいぞー、青春というモノは。キミはまだ経験もしたことがないだろうし、どうやらクールジャパンも把握していないだろうから、初体験ということになるか……おぉ、羨ましいな。初体験の青春……甘酸っぱくて、嬉し恥ずかしで、それはもう昇天しそうなほど――」
「両親なんて、必要ありません」
「楽しくて苦しくて恥ずかしくて死にそうで、でも生まれ変わりそうなほど衝撃的で、もうそれはそれは――」
「青春なんて、必要ありません」
「必要不必要という問題ではないのだよッ!!」
ガッシリ、両肩を掴んでいた。そして先ほどのドラゴン並みの猛烈な勢いで、仁に迫る。
だが、しかし。
「――――」
仁の瞳は、氷のように凍てついていた。
「…………」
それに神仔は気づき、視線を送っていた。その胸中は、様々な想いで満たされていた。そして暁成もまた、肘かけに頬杖をついてつまらないものでも見るように様子を見つめていた。
そのなかで、ただ一人。
「わァかるかァ仁くんンンンン!? いやァ、わからんだろうなァ! ひとはみな、その掛け替えのない時にいる間はその価値に気付かず、無為無駄無謀に過ごしてしまうものなのだよォ! だが、ダメだ! 一度しかないその時をキッチリと体験せねば、その時は二度訪れず、同年代と話も合わないし、思い出話で花を咲かすことも出来ず――それになにより失ったその貴重な時間はどんだけ金があろうが地位を得ていようがなんでも出来ようが時を遡ると言った魔法みたいな手でもない限り手に入れることは決して出来んのだよォォォオオオオオオオオオ!!」
まったく空気読まないドラゴンが炎を吐くように熱弁をふるっていた。
その瞳を、溶かしてやるぞと言わんばかりに。
それに仁は、口を開いた。
心を、開いた。
「わたしは、もう、二度と……自らの愚かさで失ったその絆を、喪失ないたくはないんです」
紛れも無い、本心だった。それが、自分にさえ欺いていた。偽らざる、ソレだった。
施設に預けられたのは、両親による虐待が原因だった。
「いいじゃないか? 失敗したって。それが青春、それが若ささ! あぁ素晴らしい!!」
「ふざけるなッ!!」
生まれて、初めて――パートⅡ。
仁は、喉の奥から迸るばかりに叫んでいた。
それに神仔は目をパチクリさせ、暁成は片眉を上げ、そして肩を掴む竜苑寺は――笑った。
キタ、という感じに。
「……ふざけてないぞ? いいと思ったから、いいと言ったまでだが?」
どうしようもないほどに、青筋がブチキレるほどな怒りが、キタ。
「いいわけあるかァ! わ、わたしの何を知ってそんなこと言ってるんだ? わ、わたしが味わってきた苦しみや、辛さ、それに我慢も知らずにそんな、簡単に、て、適当に……!」
「よく考えての、人生の先輩としての助言のつもりだったのだが?」
カッ、とキタ。




