五十三話「仁がじんじん、ジンジンジン~♪」
「自分に、じしんがありませんっ!!」
本音過ぎた。
「……なんだ、それは?」
暁成は、明らかに不興を露わにしていた。どうしたらいいのか、もはや仁はまったくわからなかった。だからもはや言われたままに包み隠さず本音を返すだけのことしか出来なかった。
仁はある種、極限だった。
「こ、言葉通りの、意味であります! じ、自分は自分に、じしんがありませんっ!」
「そんな無能な者にSPを任せ――」
「SPの業務に関しては自信がありますっ!!」
必死だった。見限られることほど恐ろしい事は無い。見限られたくない。見捨てられたく……ないっ!
「SPの業務に関してなら、絶対に誰にも負けない自信がありますっ! 生まれてから16年間――いえ、物心つくかつかないかの3歳からの13年間、ただただずっとSPとしてただただ業務の邁進に勤めてきました。いつもその工夫と効率化に努めてまいりました! ですから、だから――」
「ならば今の言は、どういう意味だ?」
「私は、じしんが……自身――自分の意思が、そしてこの生き方以外の一切の自信が、無いのですッ!!」
本音だった。竜苑寺を探しに外に出た時、それは実感として湧いたものだった。元々違和感らしきものはあった。だがこれほど自分が、片手落ちな人間だとは思っていなかった。
外の世界に、行かないのだと思っていた。自分は自分の選択で。SPとしての業務のみに邁進すること以外は無駄だからと。そう、考えていた。
しかし初めて自分の意思で外に出て、そして理解してしまった。
自分は、ただ、出られなかっただけだ。
外の世界を、恐れて。
「なかなか、よい」
少しつまらなげに、暁成は言った。
自分の必死さに対してそれはつれない言い草だったが、しかしそれでも褒められたようなその物言いに、仁は少しだけ安堵した。
「そ、そうですか?」
「うむ、余分なもののない、まるで精巧な機械のような在り方。聞いていて、心地が良いぞ」
「そ、それは、ありがとうござ――」
「正直いえば最初にキミを見た時、田舎育ちの純朴な少年だと信じて疑わなかったよ」
いきなり割って入ってきたその言葉の主が誰か、仁は一瞬判断できなかった。
「……え? あ。りゅ、竜苑寺……様?」
呆然と名前を呟かせたその主は、しかしこの非常事態に置いてその在り方を本当に全く腹立たしいぐらいにこれっぽっちも、変えてはいなかった。
ただ気だるげに、自身のネクタイを締め直して――というより、弄っていた。
「感情の入っていない瞳で、俯き加減に淡々と、仕事をこなすさま。なによりその短い髪、化粧っけの無い顔、キチンとスーツを着込み過ぎたその服装。この私でも、最初は見抜けなかったくらいだよ」
「? ?」
ナニが言いたいのか、まったくわからなかった。だからこの場面、なにをどうしたらいいのかわからなかった。下手に動けば、自己のアイデンティティーの喪失に再び晒されそうで。
竜苑寺はただ、なんかつまらなそうにネクタイを弄り続けた。
「色々と考えていたよ。なぜそんな在り方が出来るのかと。そして申し訳ないが、調べさせてもらったよ。キミのことを。そして判明したよ。キミがキミであるその、理由を」
そして竜苑寺は明日の天気が晴れだとか、そんなノリで言った。
「キミの御両親を探してあげよう」
心に、亀裂が入った気がした。
瞬きを、繰り返す。心がついていかない。心が理解できない。いや、しようとしない。
現状を。
その言葉の、意味を。




