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第五十一話「はてさて”自分”は、どーなりますかねー?」

 仁は一瞬、耳を疑った。そして目を見開き、元々開けていた口を大きくして、全身を強張らせた。

 竜苑寺は頭だけを上げ、片目を閉じた。

「と、仰られるということは?」

「言葉通りの意味だ。二度言うつもりは無い」

「と、いうことは?」

「わからんのか?」

「確認させていただいてるだけですよ」

 目を細めるほどニッコリ笑い、そして竜苑寺はお嬢様の方に向き直った。

「なに?」

 お嬢様の反応は、早かった。

 竜苑寺は、手早く用件だけ告げた。

「お嬢様は、これからどうしたいですか?」

「青春したい」

 暁成をじっと見つめていた仁は、その表情の僅かな揺らぎを見逃さなかった。

 そしてお嬢様の矢継ぎ早の言葉に、視線を移さざるを得なかった。

「学校行きたい。友達作りたい。お勉強をみんなでしたい。遊びたい。旅行行きたい。好きに生きたい。オジさんと、生きたい」

 やっぱりオジさんなのか、と思ったりした。

 そして竜苑寺は、やっぱりニッコリ笑ったあと――少し、頬を引き攣らせた。

 そして苦笑いのまま肩をすくめ、暁成に向き直った。

「と、いうことらしいですが?」

「――神仔、」

 暁成は極めていつも通りの様子で、声をかけていた。だがやはりどちらかというと、それは微かにだが努めてのようにも思えなくはなかった。

 神仔は――やはり天真爛漫に、笑っていた。

「なに、パパ?」

「そうしたかったのか? 前から?」

「うんっ」

「ならなぜ、言わなかった?」

「パパ、望んでなかったし、言えば困る人いっぱいいたし、叶わないのわかってたから、だから意味なかったから、言わなかった」

「そうか」

「うんっ」

「だったら、彼といくといい」

「うんっ、パパ、今までありがとうっ!!」

 そして神仔は振り返らず、竜苑寺にしがみついた。

 それに竜苑寺は、苦笑いを浮かべていた。

 そして暁成はややだが疲れた顔を浮かべ、

「そして、お前はどうするか?」

 遂に自分に、お鉢が回ってきた。

 言葉を出そうにも、出なかった。それが出なかったのか出せなかったのかは、自分でもわからなかった。そして自分の意思も、なぜこのような状況に追い込まれているのかもまったくこれっぽちも理解することは叶わなかった。

 仁は生まれてからずっと、他人の意思の元に動いてきた。3歳には幼稚園には入らず、SPとなるための英才教育を受けた。世間で生きていくための最低限の知識と教養は、それと同時進行で受けることになった。そして8歳にてこの結橋家の勤務が決まり、あとはずっとひたすらに上司である三ツ石からの指示に沿う従順なSPとして生きてきた。

 すべて、決めてもらった人生だった。後見人に。雇い主に。上司に。レールどころか、車輌さえ用意してもらってきた。選択というその概念さえ、意識したことはなかった。仁にとって人生とは、そういうものだった。

 なのに。

 それなのに。

 なぜ事ここに至って突然、そんな人生の岐路を迫られなくてはならないのか?

「じ……自分、でしょうか?」

「他に誰がいる?」

 そんなことこそわかっていたが、しかし他にどう言えというのか?

 時間を、稼がなければと思っていた。しかしたとい十年の猶予を渡されようとも、それが一切救ってくれる問題ではないと理解した。

 助けて欲しいと、初めてに近く思った。今までもSPとして危機も窮地も味わってきたが、しかし誰かを頼りたくなったのは初めての経験だった。

 手持ちの武器が、一切無い。手ぶらで銃撃戦の最中に放り込まれたような心地だった。まさにどうせよ? という気分だった。

 だが――相手は決して、待っていただけるような相手では、なかった。


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