五十話「参、点、穿ち」
最初から室内にいた男たちだけではない。おそらくはザワザワやっている陰で密かに連絡を取っていたのだろう。集まったのは、約30人ほど。学校でいえば1クラス分ほどはいるだろうか?
周囲360°、全てを包囲して、雪崩れ込んでくる。
一言も、脅し文句なく。よく訓練された、私兵たちのようだった。
だから竜苑寺も、何も発さなかった。
発さずに――
「!」
思いっきり、蹴りあげた。
そこにあった、マホガニーの机を。
轟音が、巻き起こった。
『ぐわあああああ!?』
初めてまとめて、いくつもの声が上がった。
蹴り上げられたその机は、勢いそのまま天井に叩きつけられ、轟音を立ててハマり込んだのだ。その猛烈な勢いにパラパラと砕かれた天上の破片たちと、蛍光灯がガチャン、と落ちてきていた。その物凄まじい勢いに、周辺にいた7,8人がぶっ飛ばされていた。
そして周囲がスッキリしたところで、竜苑寺は身なりを整え、外していたネクタイを付け直し、シャツの裾を入れ直してとジャケットのボタンを留め、埃を払って上着の裾を伸ばして、呆然と天井の机と埃とそれと圧倒的ギャップを持った竜苑寺とを見比べている黒服の男たちを見回し、
「さて、やるかい?」
それにハッ、と気づいたような顔をした男が3人、改めて殺到する。
オラァ、などという漫画なんかの三流悪役のごとき安易な雄叫びをあげないところに、好感を持てた。勝てる勝てないで判断しないで任務に命を賭けているところにも、敬意を表すことが出来る。
だからこそ、竜苑寺も手心を加えなかった。
掛け声も無く。
予備動作も無く。
音も無く。
裏拳、横蹴り、そして肘打ちの、最低限三つの動作だけで――地に伏せる。声さえあげられず。それぞれはコメカミ、鳩尾、眉間の急所に的確に食い込んでいた。
その勢いのままその場で一回転し、改めてネクタイを締め直し、裾を叩く。
「他は?」
さすがに全体の半分くらいに動揺は見られたが、残りの半分は連携を考えているようだった。同じ愚を繰り返さず、計画的に事を成そうとしている所も実に理に適っていた。
闇雲に突進せず、陣形を作った。それは一見して堅い代物だった。なるほど、それは同時に意思の固さをも思わせるものだった。
それは心地いい硬さだった。
それに竜苑寺は、構えを取った。左手を下げ、右手を掲げ。半身を切り、軽くステップを踏み。
それはボクシングの、モハメド=アリ・スタイルだった。
竜苑寺は、手招きする。
「きな」
そして一気に、男たちは――
「待て」
ピタリ、と静止する。
それに竜苑寺はせっかく作っていたファイティングポーズを解き、肩を竦めて振り返る。
「なんですか? 藪から棒に」
「もう充分だと、言ったのだ」
いつの間にか暁成は、本革張りのオフィスチェアに、深く腰掛けていた。既にマホガニーの机は無くなっていたので、格好だけはつかなかったが。
そちらに向かって竜苑寺は、慇懃無礼に一礼する。
「と、仰られるということは?」
「オレと一戦交えるか?」
「御希望と、あらば」
「冗談だ」
笑い声を、初めて聞いた気がした。
それに竜苑寺が顔をあげると、暁成は既にいつもの仏頂面で腕と脚を組んで、こちらを睥睨していた。
「いやいや、これは一本取られましたね」
「若いのによくやるもんだな」
明らかに、空気が変わっていた。先ほどまで死せる覚悟で殺気だっていた連中も、頭を下げ、控えている。
そしてお嬢様は、やっぱりニコニコしていた。
そしてずっと影が薄かった仁は、やはりというか呆然とした顔で口をポカンと開けていた。
竜苑寺は再度、暁成と向き合う。
「それで、お嬢様と仁くんの件は?」
「好きにしろ」




