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四十九話「ヘイ、Come on!!」

 なんという反抗的な態度。

 これが俗に言う反抗期か?

 と案外結構本気で暁成は思って、そして改めて冷静に戻った。

 厳めしい、父親の顔に。

「……神仔、なにを言ってるんだ? いや、違うな。そもそも大体が、それはお父さんに遣っていい言葉遣いじゃないだろう?」

「そだね」

 おかしい。というかおかし過ぎる。現実が歪められているとしか思えないほどに。

 なんだ?

 なんなんだ、これは?

 自分が今まで行ってきた、完璧なる社員教育を応用した子育てが、そして育ってきた完璧なる娘が、しかし今のはどこかでエラーでも発生したのか?

 理解できないことなど、起こり得る筈がないというのに。

「――神仔」

「なんですか、おとーさん?」

「うむ、良い返事だな。お父さん安心したよ。神仔が、少し、その……」

「なんですか、おとーさん?」

「いや、なんでもない。単なる気の迷いだな。それより神仔は、いま……いや、それもいい」

「いいんですか?」

「あぁ、いい。そんなどうでもいいことよりも、神仔」

「なんですか、おとーさん?」

「さっき、そこの竜苑寺と、なにか、合図というか……まぁ、端的に言って……今のウインクは、なにか意味があったのか?」

「うん、安心してって」

 また言葉遣いが――と思いかけたがそれよりも圧倒的に気になる単語を、我が愛娘は吐いていた。

「……なにを、安心しろと?」

「お兄ちゃんドラゴンだから、安心しろって」

 またもまったく意味がわからない単語の羅列だった。まるで日本語を成していない。こんなに出来ない娘だっただろうかと、一瞬眩暈を起こしかけた。

「大丈夫ですかな? 暁成公」

 それよりもなによりも、このフザけた闖入者の始末の方が先だった。

「――もう細かい事は言わん。性に合わんしな。単刀直入に、言わせてもらおう。お前娘に、なにをした?」

「簡単な話ですよ」

 言葉遣いが元に、そして姿勢も、態度も、元の掴みどころがない青年へと戻っていた。

 通常ならば、歓迎すべき事態。

 しかし暁成は、眉をひそめて次の言葉を待ち――

「私は暁成様に引けを取らないぐらい強いから、安心して好き勝手していいよって、伝えたんですよ」

 驚天動地とはこの事か、と暁成は目を丸くした。

「……ほぉ。強い、と」

 やっと絞り出すように、暁成はそう呟いた。

 それに竜苑寺はかつてないほどニコニコ笑って、そしてそのまま何も語ることはなかった。まるで従順な執事が控えているようだったが、しかし実際はまるで逆の、それはそれは酷いモノだった。

 暁成は数秒考え――そして、"諦めた"。

「……いいだろう。確かにお前は、脅しても無駄な類の人間のようだからな」

「お判り頂きまして、光栄の至りでございます」

 竜苑寺は右腕を胸に当て、腰を直角に折った。瞳を閉じて、左手は腰に添えて。

 次の瞬間、竜苑寺は仰け反った。

 そして先ほどまで竜苑寺が頭を下げていたスペースに――高速でなにかが、駆け昇っていった。

 一瞬遅れて、竜苑寺が片目を開ける。そこには笑みが、張り付いていた。

 その眼の前では、同じように暁成が上半身を逸らせ、膝を伸ばし、拳を天に突き上げた――アッパーカットの格好を、決めていた。

 その口元が、緩む。

「……くっ、ふふふ。よく避けたな、小僧」

「不意打ちとは、やっていただけましたね……この、糞ジジイが」

「やれ」

 もはや言葉は無用とばかりに。

 暁成は、右手を上げた。


 同時、八方から男たちが殺到した。


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