四話「世代差は時間軸にまで及ぶか…」
さて、ならばどうするか。確かテレビで見たホームレスは炊き出しに助けられたり、独自のネットワークで手に入れた期限切れのお弁当を頂戴していた。やはりこの世知辛い世の中、金銭もなしで誰とも繋がらずに生きていくことは相当に難しいことのようだった。
仕方ない。
犬を参考に、今日は残飯でも漁るか? だがそれも以前見た映画では縄張りとかがあった気がする。ふむ、と竜苑寺はいざ空手で生きる厳しさが身に染みていた。
とりあえず、馴染みにしているA5ランクのステーキを出す夜景も見える六本木の超高級レストランの残飯でも、と考えていた。今いるのは、ちょうど板橋区だった。5時間くらいかければ、行けないこともない。どうせスケジュールは真っ白だ。どうせならトレーニングがてら走っていくか。それなら1時間強もあれば辿り着けるだろうし。
じゃあ、よーい――どんっ。
竜苑寺は、駆け出した。
目の前に、車が飛び出してきた。
「う!? を、アッ!!」
慌てて竜苑寺は、急ブレーキをかけた。つんのめりながら、なんとかかんとか目と鼻の先3センチにロールスロイスのエンブレムが迫って、停止。
あと少しで、轢かれるところだった。
まったくまだ会社を出て二日目だっていうのに、こう何度も大変な目に遭うとは。
「あっぶねぇ……って、またロールスロイス――」
文句のひとつも言おうとしている最中、その後部座席のドアが、開かれた。
そこから――先ほどの女の子が、現れた。
竜苑寺は目を、丸くする。
「お、お嬢ちゃん?」
「お久しぶり、オジちゃん」
といってもせいぜい10分ぶりぐらいのものだったが、やはり若い娘との感覚は違う――ってそうじゃない。
「ひ、久しぶりだねお嬢ちゃん……どうしたんだい?」
「オジちゃん、お家ないんでしょ?」
「い、いやぁ……」
「ないんでしょ?」
いつの間にか質問から、それは詰問に変わっていた。どういう状況だ、これは? なんで30前のオジちゃん――と自分で認めるのは非常に心苦しいそんな自分が、その半分くらいの年齢の女の子に問い詰められているのか?
竜苑寺は頬を引き攣らせながら、
「あー、まー、無いこともないんだよ?」
「あるの?」
「人間、ここが立派ならどこでだって生きていけるんだよ?」
胸を親指でつついて、爽やかに笑いあげた。ここまで完全勝ち組な自分が言うんだから間違いない、と竜苑寺いは思っていたりして。
「それはつまり、お家は無いってことだよね?」
最近の若い子は確信しか突かないよな、とゲンナリした気分になる。
竜苑寺は苦笑いで頭をガリガリやってから、
「…………あー、まー、そうだね」
「やっと認めたね」
「ではお嬢様、」
「うん」
「――――は?」
なぜか突然、いつの間にか後ろに立っていた先ほどの黒服男が女の子となんらかの確認を取り、そしてなにかが決定していた。
そして竜苑寺は――なぜか拘束されていた。
「って、おいおい?」
「では、このまま?」
「うん、連れていって」
「は? ちょっと、なにいって……?」
竜苑寺はなぜか黒服に後ろから羽交い絞めにされたまま、ズンズンと車へと運ばれていた。なんだ、この事態は? と一瞬は戸惑いかけたが――
「よっ」
「がっ!?」
頭を後ろに振り、黒服の鼻っ柱を強打。鼻を押さえてこちらの両手が自由になった隙に、肘を脇腹に。蹲ったところでダメ押しに踵で顎を跳ね上げて、ノックアウト。
黒服はバタンキューよろしく、地面に大の字になった。
竜苑寺は髪をかきあげ、ニヒルな笑みを浮かべる。
「ふっ、他愛も無い」
「……マジ?」
少女はひと回りは体格が違う黒服を瞬・殺! で仕留めた竜苑寺に、さすがに目を丸くしていた。
竜苑寺は屈んで女の子と目線を合わせて人差し指を立て、
「お嬢ちゃん、ダメだよー? こういう、相手が嫌がってることやったら? 大人になったら嫌でもそういうことやらなきゃいけない時がくるんだから、子供の時はいいこといっぱいしないとね? わかる?」
「そうなの?」
「まー、ショクシュにもよるけど」
自分みたいなのにでもならない限りは平気だろうか? しかし世のなか大なり小なり相手の陣地を――って、またも悪癖発動だった。なかなか未熟で計算なしのガムシャラな青春時代を目指すというのは難しそうだった。
「でも、まだまだいるよ?」
「へ?」




