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三十九話「さぁさぁキミも僕も変われるよー」

 結構リアルに、驚いたりした。多そうだとは思ってはいたが、まさか4ケタとは。いくら城みたいに大きな建物だとはいっても、4ケタもいては窮屈ではないのだろうか?

「キミも、一緒に勉強したくはないかい?」

「イヤ別に?」

「くっ!」

 嘘偽りなく本心をさらけ出したつもりだったのに、なぜか竜苑寺は頭を下げて肩を震わせ――ツボっていた。

「くっ、くくく……いや、いいだろう。うん、いいな。そうでなくては。青春とは、頑ななモノなのだから」

 いったい、なにが?

「か、かたくな?」

 一瞬硬くなるの? と惚けようかとも考えた。だがあまりにも露骨すぎると、思い直した。

 なにをどう取り繕おうとも裏目に出そうだったから、ここは素直にリアクションした方がいいようにも思えたし。

「そう、頑なだ。大人が訳知り顔で近道を指し示そうとも、一顧だにせず茨の道を行く。訳知り顔の大人は言うだろう、無様で、愚かで、処置なしだと。だが、それがいい。そのようなこと、実際大人になり社会に飛び込めば二度と出来ない。選択肢がそもそも無いからね。会社の利益、すべての効率化、ひとの、歯車化。くだらない、実にくだらない。だが動けない。がんじがらめなんだよ、食う為に稼がねばならない、立場がある、家族がいる、メンツもある、アレも立てなければ、コレも立てなければ、そちらも、あちらも――」

「お、オジさん?」

「オジさんは、やめてくれないかなぁ?」

 どうもヒートアップしているようで、それが正直なんだか怖くなってきて声をかけたら、ほんの0,1秒のラグも無く、普通に返事をされた。

 そっか。

 そういえば、オジさんは嫌だって言ってたっけ。

「うん、おにーさん、ごめんね、オジさんって言っちゃった」

「あれ? パパじゃなかったの?」

「ていうか、パパじゃないしね。おにーさん、そんなにオジさんじゃないし」

「ありゃ、そうなの?」

「うん、おにーさんって感じ。もしくはおにーちゃんって感じ」

「――――ハ?」

 初めて、竜苑寺が困惑顔になった。

 それがなんだか、神仔は嬉しかった。

 だから、まくしたてていた。

「うん、おにーちゃんっていうか、お兄ちゃん、うん、お兄ちゃんって感じだねっ」

「…………どうした? お嬢ちゃん?」

「あ、お兄ちゃんも呼び方戻ってる」

「あ、あぁ、そうだね……というかなんかキャラ、変わってる?」

「んーん、そうだね」

「んーんって、その、どっちかな?」

「どっちでもいーよ。そんなことより、わたし、なんだかお兄ちゃんの言いたいことわかってきたよ」

「ん? またわたしって言ってるけど?」

「うん、わたしだからわたしでいんだよ? でもなんか、お兄ちゃんの言ってること、わたし、少し、共感できるっていうか、理解出来るっていうか、うん、わかるよ」

 それになにか、竜苑寺はピンときた。

 直感に近いものだと、いえばいいだろうか。

「そうか、うん、それは良かった。では荒川くんを、迎えに行こうか」

「うんっ」

 そして、神仔は考証を終える。一応結論らしいモノは出ていた。

 同時、部屋のドアがノックされる。

「はい、どうぞ」

 いつもの平坦な調子で、神仔は返事をする。

 それにギィ……と不気味な音を立てて、そのドアが開かれる。

 中から顔を覗かせたのは、お兄ちゃん。

「お嬢様、」

 ではなく、荒川くんさんだった。

 

 燕は色々考えながら、絶賛お仕事中だった。広くて長い廊下に掃き掃除、拭き掃除、部屋のひとつひとつに掃除機をかけて、洗濯機を回して、干してたものを取り込んで、畳んで、そして無駄にデカい食卓を磨いて、乾きたてのテーブルクロスをかけて、紅茶をたてて、カップに注ぎ、ティーコゼーにて保温し、お茶うけにクロテッドクリームを添えたスコーンを用意して、馨しい香りが立ち昇る、ぴかぴかのカップの表面が窓からの陽射しを反射し、埃ひとつ舞っていない清浄な空気のなか、静々と燕はカップに口をつけた。

 おいしい。

 言葉には出さず、燕は口だけ動かした。燕にはそういった癖があった。静かに、優雅に、表情や言葉にはあらわさず、しかし日々の想いや憂いや感動は、溜め込まず。そういった在り方を志し、そして齢17を数える頃には完成するに至った。それから二年。その在り方を決して変えることなく、揺らぐことなく、メイドだった。

 燕はメイドであり、雨音燕という個人や十九歳の女性であるという前に、メイドだった。それはもうなによりも燕自身がそうと感じ、思っているからこそ、そうだった。

 僅か十八年ではあったが、幾星霜もの考察を繰り返した末での結果が、そうであったのだから。

 もはや疑問も差し込む余地は、なかった。

 というより、辿り着いた末の、天職。楽園。理想郷ユートピアだとさえ、言えた。

 なんて。

「…………フフ」

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