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三話「オジさんじゃないけど走ることには自信があるよ」

 さて、食事はどうするか?

「それで、お嬢ちゃんは学校には行かなくていいのかい?」

「…………」

 なぜか女の子は上半身を屈めたまま、やはりじっとこちらを見つめて動く様子は無かった。なんだろうか、やはりホームレスとかが珍しいのだろうか? 箸が転げても笑う年ごろというやつだし、まぁよくわからないが。

 とりあえず、放置しておいてもいいのか?

「……じゃあ嬢ちゃん、オジさん行くけど、遅刻するなよ?」

「――オジちゃん」

 ん?

「オジちゃんって……まぁオジさんよか、いいか? で、なんか用かい?」

「お家、ないの?」

「あー……ハハハ」

 いやーこんな子供にだけは心配されたくなかったなー、と竜苑寺はさらに遠い目になった。

 それはとりあえずと竜苑寺は女の子の頭を撫で、

「いやまぁ、イイ子は学校行こうねー」

「お家、ないの?」

 マズイ、やはり会話が不可能な対象だった。だがまぁ、子供の扱いなら竜苑寺は慣れているつもりだった。

「そ、そうだねぇ……お家、ないかもねぇ」

 コソコソ答えながらしれっと手を離し、カニ歩きで徐々に距離を取り始める。会話が通じないのなら、長居は無用。さっさと戦線を離脱し、食事と寝床の案件を解決せねば――

 とん、と誰かにぶつかった。

 竜苑寺は慌てて振り返り、

「っと、失敬。当方、やむにやまれぬ諸事情により、前方不注意でして……」

 少し、驚いた。

 なんか体格がゴッツイ、黒スーツに黒ネクタイでクルーカットのサングラスがそこには立っていた。

「…………」

ていうかこれって、SPじゃないのか? と身に覚えのある感じに竜苑寺はじりじりと後ずさる。

「…………」

 動かざること山の如しなそれに、半笑いしながら徐々に徐々に距離をあける。まったく、下界は忙しいなと竜苑寺は思った。いやいや俗世離れはするものじゃないな、会社に戻ったら定期的に一般人の生活を送ってみるかと竜苑寺は結構真剣に考えたりしていた。

 じろりと見られながらも、後ろ歩きでなんとか公園の入口まで辿り着く。さて、こんな妙な状況なんかさっさと脱して、素晴らしき自由空間へと戻――

 そこでまたも、背中になにかが当たった。なんだ、やたら障害物がある公園だな、と竜苑寺は振り返る。

 黒い壁みたいなのが、視界いっぱいに広がっていた。

「って、今度はロールスロイスか?」

 なにかがおかしい。さすがにスルーしてなんとかしようという考えを竜苑寺は諦めようと思い始めていた。SPにロールスロイスとくれば、どこかの要人か金持ちといったところか。

 そんなのが、たまたま偶然こんな公園にお忍びで来ているか――

 もしくは"この自分"を、連れ戻しに来たか。

「――まくか」

 一言呟き、反転。

 一気に竜苑寺は、走り出した。

「あ、おい……!」

 SPのものらしき野太い声が聞こえたが、竜苑寺は構わず突っ切った。あとはもう、風の音しか聞こえない。100メートルを11秒ジャストで走ることが出来る竜苑寺に、追いつける者などいなかった。

 砂場を駆け抜け、茂みを飛び越え、降り立った歩道を竜苑寺は爆走した。昔は一日10キロ走っていたものだった。今日から時間は無限に近いくらいあるのだから、またトレーニングを再開しようかとか計画を立てる余裕さえあった。

 ふと振り返ると、既に追手はいなかった。当然だが。

「……ふぅ」

 そこでブレーキをかけ、竜苑寺は一息ついた。まったく、なんだかよくわからない事態に巻き込まれるようなところだった気がする。それこそよく、わからないが。

 さて、食料調達だった。

竜苑寺は再度歩道をいきながら、考え始めた。この都会で、狩りはさすがに難しいだろう。となるとまず、無難なところは食べられる野草とかそんなところだろうか。知識としてはあるから、その辺は問題は無さそうだった。

 さて、見つかるかな。

 まぁ二、三日飯食わないぐらいでどうにかなるようなヤワな鍛え方はしてないから、あまり深刻でもなかったが。

 というわけで、道路から探し始めてみた。が、そも雑草からしてそうそうあるものでもなかった。そのほとんどはアスファルトで固められており、なんだか日本の環境問題が心配になってきたりして。企業というものは自己の利益のみを追求すればいいというものではないと身を持って思い知る日が来るとは、まったく旅はしてみるものだった。話が少し逸れていた。

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