二十九話「迷って悩んでドタバタ、さて楽しんでおられるかな?」
「……お嬢様に関しては、特には」
『ならば、竜苑寺様に関しては?』
他の3人のSPが、同時に詰め寄る。
それに一拍ほどの躊躇いが、本人が気づかないレベルで生じていた。
「竜苑寺様とは……少し、お話をさせていただきました」
「ほぅ……どんな話だ?」
目を細める三ツ石。それは初耳といえた。その真意は竜苑寺と言葉を交わしたという意味ではなく、この生真面目で堅物な人間が、外部の人間と接触した、という事実に対してだった。
若干の興味は、湧いていた。
「……大した話では、」
「内容は問わん、話し給え」
三ツ石の眼は、既に執事ではなく暁成に仕えていた時のそれに戻っていた。既にそれは、詰問に近かった。他のSPは、それに緊張感を取り戻す。燕はただ笑顔で、その行く末を見守っていた。進行役は三ツ石に返した、といった体だった。
「青春がどうのと……それと、理想郷が、なんたらと……」
「端折りが過ぎるぞ、詳しく話せ」
「ハッ……?」
望まれれば是非もないが、しかし意義がわからない作業ではあった。
そして話した。荒川は、竜苑寺とのやり取りの一部始終を。それを5人は、黙って聞いていた。
そして話し終え、三ツ石は口を開いた。
「――燕、どう思う?」
丸投げかよ、と他の三人のSPは思ったがツッコミはとどめておいた。
燕は手を重ね佇んだまま、
「おそらく――お二人は、なにかを試しておいでではないかと」
「なにをだ?」
早ぇよ、と三人ほぼ同時に心のなかでツッコミを入れた。危うく手と口が出る所なのをなんとか抑えた。
「率直に申し上げまして、荒川さんを」
「のなにをだ?」
『いや訊き過ぎだろ執事っ』
遂にSP三人に加えて燕までもがツッコミを入れてしまった。それに三ツ石は、
「お、おォっ!? なんだね、キミたちは?」
「――自分のなにを、試しているというのですか?」
ひとり。
深刻な顔をしている荒川に燕は、
「あなたの……おそらくは、心を?」
ピンと指を立て、それを荒川に突きつけた。
荒川はますます、混乱していく。
「自分の……心、ですか?」
「はい、おそらくは」
「……申し訳ありませんが、少々意味が、わかりかねますが?」
「それはそうでしょうねぇ」
少し愉快そうに笑って、燕は手を引いた。そのままススス、とさらに引き、先ほどと同じ手を前の佇むモードに移行した。
それを荒川は見送り、そして三ツ石は仕切り直すように咳払いをした。
「――して、肝心のおふたりの所在は?」
「さっぱりですわ」
『なんじゃそりゃっ!』
今度は三ツ石、荒川まで加えての五人でのツッコミだった。それに燕は愉しそうに笑って、
「なにしろ、なんの手がかりもありませんもの。でもしばらくは、放っておいても大丈夫かと存じますわ」
「――どういう意味だ?」
聞き逃せないその言葉に、三ツ石の目が窄まる。緊張感が、かつてないほど高まる。だが燕は暖簾に腕押し柳に風の顔つきで伏せたまま、
「竜苑寺様には、少々お考えがあるようですので、神子お嬢様が傷つけられるようなことはないか、と」
その言葉に三ツ石はハッとしたように目を丸くして、ガシガシと頭をかき、その動きにSP3人はハラハラして、その後さらにタメ息まで吐いてから、
「……間違いないんだろうな?」
「御門さんは、どう思われますか?」
三ツ石は額を押さえつつ、
「――残念ながら、私には竜苑寺様の器量は計りかねておってな。なにひとつとして断言できるものはなく、そして私はこの屋敷を取り仕切る執事として、暁成様にご報告する義務があってな」
そしてスタスタと皆の後ろを横切り出す三ツ石――の襟首をガッシ、と微動だにせず笑顔で燕は掴む。それに三ツ石はつんのめるが動揺せず、
「――夕食までに、戻らなければ」
パッ、と離し、そして三ツ石は襟首をただし、そして部屋を出る。それに続き一礼して、燕も部屋を出た。その状況に動揺しながらも、SPたちも各々がそれぞれの持ち場に戻っていった。そして最後に残されたのは誰に話しかけられることもない、荒川だけになる。
ずっと、考えていた。
竜苑寺様と神仔お嬢様が、どこにいるのかを。
どうしてこんなことをしたのか、その意図を。
自分が鍵になりそうな事だけは、理解しかけていた。




