二十八話「怪獣と可憐な花、うむ滑稽」
屋敷が、激震した。
それは衝撃として燕や各SPや荒川の間を駆け抜け、そして御門三ツ石で、爆発した。
「お嬢様が……姿を消しただと!?」
そのたった一言が、すべてを物語っていた。
それを、ロビーに集まった四名のSPとメイドの燕は、直立不動で聞いていた。
あの三ツ石が、顔を真っ赤にして、激昂していた。
「どういうことだッ! 貴様らSPが……四名揃って、雁首揃えて……なにをやっておったのだッ!!」
怒鳴りつけられ、三名のSPは顔を引き攣らせ、肩を震わせ、唇を噛み締める。皆、失態に対する屈辱と、猛省と、そして三ツ石の剣幕に怯えていた。
ただひとり、荒川を除いて。
「申し訳も、ございません……しかしまさか竜苑寺さまがあの一瞬で神仔さまを連れ去るなど――」
「言い訳、無用っ!!」
一喝され、昴はビクッ、と肩を竦ませ、そのまま押し黙る。
三ツ石の怒りは、生まれて以来の頂点だといえた。もうまともに考えも出来ない。そも、あの男が現れてから今まで積み重ねてきた実績も、プライドも、なにもかも愚弄し、打ち砕かれてきて、そのうえお嬢様まで――
「なにを考えておられるのだ、あの方はっ! ぐ、ぐ……ぐがおおおおおおおおおおッ!!」
「まるで怪獣ですわね」
「なんですとォ燕よォオオ!」
呟きに大いに三ツ石は反応。それに三人のSPはビクッ、と身を竦ませるが、燕はまったく頓着しなかった。
というかむしろ、肩を竦ませていた。
「落ち着きなさいな、御門さん」
「御門さんと呼ぶなァァアアアア!!」
「いつものことでしょうが」
取り乱す三ツ石とは対照的に、燕はまったくいつも通りの平静さだった。動揺が、微かにも表れていない。それに三人のSPは、ただオロオロするだけだった。
二人だけの空気が、そこにはあった。
「少し、落ち着きなさいな御門さん。この場の司令塔であるあなたがそんなに慌てては、収拾できるものも出来ませんよ」
諌める声に、三ツ石は頭を抱え、呻き、のたうち――そして止まり、頭を上げた。
そこにはいつも通りの、冷静沈着な三ツ石がいた。
「――失礼、醜態を晒してしまいましたな。それではSPの各々がた、なにか心当たりはありませんかな?」
突然の豹変に、みな驚き、慌てた。そしてなんとかかんとか言葉を紡ぎ、それぞれ状況の説明を始める。それにだいたい10分程費やされたが、しかしどれも要領を得られるものではなかった。
そして改めて、ふたりに向き合う。
「燕、お前はなにか心当たりは?」
「んー、そうですわね……お嬢様の姿を見失ったのは、僅か休憩時間の十分ほどの間のことなのですよね?」
問いかけられ、SPその3である酒井忍24歳は動揺を必死に抑えながら、
「あ、ハッ、そう、窺っております」
「と、言うと?」
「み、見張りは二交代制で、二人行っておりまして――オイ」
肘でつつかれ、SPその4である館林稜27歳はいきなり水を向けられ慌てて、
「あ、あぁ、はい、そうでして……自分が最初お嬢様の在室を確認し、その後酒井が引き継いだ、という流れです」
「んー、そうですか……ではあなたは、なにか知っていることはありませんか?」
三ツ石が訊くより先に、燕が尋ねてしまった。それに三ツ石は苦虫を噛み潰したような顔になるが、燕はむしろ愉しそうに鼻を鳴らしていた。
そしてお鉢が回ってきた、荒川だった。
「自分は……特には、なにも」
「それはほんとぅ?」
押し黙った荒川の、燕は顔を覗き込んできた。笑顔のまま。それに荒川は少し圧され、
「いや……本当、ですが?」
「あなた、なにか、隠してることがあるんじゃなくて?」
荒川は静かな瞳をいつもと変わらず湛えたまま、
「いえ、特には」
「本当かね?」
それに三ツ石まで参戦してきた。その様子に、他の三人のSPも直立不動を解いて、振り返り注目を注ぐ。
それでも荒川は、仏頂面を解かない。
動揺する理由が、自分にとっては無さすぎた。
「はい、特筆すべきことは」
「なら、特筆すべき以外のことは?」
楽しげに、燕は追求してきた。それに、荒川は少し悩む。特筆すべき以外のことを? それを望む理由が、荒川はわからなかった。そんなこと、無駄ではないのか? もっと核心や、効率を――と心の底では考えたが、それはほぼ一瞬で、実際は淀みなくそれに答えていた。




