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二十七話「若さは拙く、頼りなく、そして眩しく羨ましい」

 なぜかその煮え切らない返答に、竜苑寺は気炎をあげていた。

 そして瞳を真っ直ぐに――射抜き、

「きみは私のパートナーとなる素質、十二分のようだ。ぜひともこれから、私の『夢物語』探しの旅に付き合ってはくれまいか?」

 どう。

 どう答えるべきかが、今までの経験をどう踏まえても出てこなかった。というか答えが必要なのか? いや本気で言っているのか? 意味があるのか? 仕事なのか? いやこれは――

 なぜか目の前に、四指が開かれた右手が差し出されていた。

 意味は、わかる。

「握手を、させてもらってもよいかな?」

 だから、答えていた。

「なぜ、自分なのですか?」

「なぜ、君だと疑問が?」

「自分でないとイケない理由が、ひとつも思いつかないからです」

「君は実直だね」

 竜苑寺は笑い、右手を引いてナプキンで口元を拭いてからおもむろに立ち上がり、

「まず、ひとつひとつ行こうか。なに、チェスは得意だ。個人的には将棋の方が好みだがね。羽生先生には一度お会いしたいものだよ。いやコネを使ってならば可能だろうが、それならば心を開いての対談など不可能だろうしな。と、話が逸れたね。とりあえず今言いたいのは――」

 なぜか竜苑寺はそのまま荒川の隣をすり抜け、

「今すべきは王を動かすより、まずは角道を開ける歩の一手だ」

 振り返りもせず、そのまま食堂を出ていった。



 神仔は、外を見ていた。窓からずっと、頬杖をついて。髪を撫でつける風が、気持ち良かった。湿度は70%前後。もうすぐ雨が、降るかもしれない。

「…………」

 神仔は幼少の頃より、こんな風にして日々を過ごすことが多かった。それは本人が望んでのことではなかった。齢12でしかない自分だったが、そこに自由というものは希薄だった。

 両親と暮らした思い出は、物ごころついた頃から7,8歳まで。

 それからはずっと、この別邸で過ごしてきた。理由はわからない。両親はおろか、執事もメイドもSPも誰も、教えてはくれなかった。

 寂しくなかったといえば、嘘になる。

 それでもなお神仔は、自身を守るため、子供になるしかなかった。

 それも神の仔のような、完璧な子供に。

「……神仔お嬢様」

 不意にドアが、遠慮がちに開かれる。ノックの音は聞こえてていた。ただ、返事をしなかっただけ。だって、返事をしようがしまいが、そこに意味も何もないのだから。だからこそ、返事をするという無駄なカロリー消費を選択しないという選択肢を神仔は選択していた。

 振り返りもしない。

 その肩に、手が掛けられた。

「…………?」

 疑問符が浮かぶ。今までにない展開。それに思わず、振り返っていた。

 今の声は、確かに三ツ石だったはず。

 しかしそこに立っていたのは、なぜかニコやかに笑うおにーさんだった。

「おにー……さん?」

「神仔お嬢様。ご機嫌、うるわしゅう」

 驚いた。その三十路前の口からは、初老、還暦を思わせるしわがれた声が紡ぎだされていたのだ。どういうことなのかわからず、正直混乱する。

「おに、い……じい?」

「残念、私だよ」

 いきなり声が、おにーさんのものに戻る。

 ピンときた。

「……声マネ?」

「カッコよく言えば声帯模写っていうんだけどね」

 正直、結構本気で感心した。すごいなと。なんでも出来るなと。まるでテレビのヒーローみたいだなと。

「……仮面ライダー?」

「今はオーズだったかな?」

「ウィザードだよ」

「あぁ、魔法使いだったか」

「よく知ってるねー?」

「ある程度世のことは頭に入れておかなくてはね」

 無駄な会話だった。

 そして神仔は片手をあげて、

「おにーさん、よっス」

「うむ、元気のよい挨拶だね」

「ありがとうおにーさん」

「いやいや」

「それで……なんか用?」

 神仔は尋ねた。なにしろ現在、神仔は自室にひとりでいたのだから。

 今はちょうど家庭教師の、休憩時間。あと五分もすれば、次の理科の教師がやってくる。

 そんな隙間時間に、なぜ?

 だいたい、お仕事の方は――

「いやなに、ちょっとね……」

 と呟きながら、おもむろに掴んだ肩を、引き上げた。

「ふぇ?」

 突然のそれに、神仔は目を丸くする。おにーさんの意図が、まったくわからなかった。今までもわからないことはたくさんあったが、それにしてもだった。

 竜苑寺はそのまま神子を肩に乗せ――

「神仔ちゃんを、誘拐させてもらおうかと思ってね」

 ウインクなんて、初めて見た。


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