1章 8
サトルと八月一日はトモを氷上に預けて、なぜか八月一日学園内に入った。日本の大学に入るのは、サトルにとって初めての経験であった。かしましい女子と楽しげな男子たちが入り混じり、青春そのものという印象をサトルは受けた。開放的な空間を羨望の眼差しで見ながら、メインであろう最も大きな校舎より更に裏へ行った所にある、とある施設内に入った。どの施設や校庭も豪華でモダンな作りだ。
しかしたどり着いた眼前の「園芸部」は、目立たない質素な作りをしていた。この部しか使わないのか、小さな施設だった。
扉を、当たり前のように八月一日は開いた。こんなところで自分は何の処罰や取調べを受けなければならないのだろうか。しかもよりによって休みの日に。かといって仕事の日にこのような出来事があってももちろん大変困るのだが。
「ここ?……公務、だよね。それがここで?」
表沙汰にできない件だけに、表沙汰にはできない何か罰のようなものが待ち受けているのだろうか。サトルはびくついていた。
「いいから」
入ると、かすかに腐葉土のにおいがした。ホームセンターの苗木を売るコーナーでしそうなにおいだ。確かに一見園芸部らしい。右奥には「保管庫」とあった。ガーデニングの用具を仕舞うには厳重なパスワード式の扉を開け、文字通り保管庫に足を踏み入れる。電気がないので、薄暗かった。読んで字のごとく材料を保管している倉庫であるようだから、当然机やいすがない。自分はどうなるのだろうかと、サトルは心底不安に思った。ドアが重たくバタンとしまった。と同時にオートロックが掛かった。そこで八月一日は振り返った。
「僕は何色に見える」
相変わらず疑問文に聞こえない口調で、静かに彼はサトルに問うた。何のことを言っているのかと最初は戸惑ったが、すぐに察しがついた。「非科学的犯罪」を取り締まる青年の言うことだ。ここは正直に言っても引かれはしまい。
「水色」
「正解」
それでもサトルは心底驚いた。このような話をする相手がよもや現れようとは思いもしなかったのだ。八月一日は続ける。
「ではあんた自身は」
「え」
あまり自身のオーラに気を使ったことはなかった。周囲には見えてないと思ってきたから、人を囲むように見える色を見過ごすだけの毎日だったからだ。自分のことならなおさらどうでもよかった。サトルは正直に答えた。
「わからない・・・・・・」
「知っておかなきゃ。危ないよ」
サトルは無意識に口をあんぐりとあけた。彼が自分のオーラを自分同様に見えているとして、ならばあの氷上という少女にも見えているのだろうか。その間、電気のスイッチを入れるような動きをしたかと思うとカチリと音がした。なぜか存在する本棚に取り付けられたレバーをまわすと、なんと扉が現れた。
ドアを開けられ、通された先には階段。降りるとそれは豪華な大部屋が現れた。