1章 7
八月一日が向かったのは、監視カメラのモニターだった。
先ほどサトルとトモの会話中、警察官と店主と三人でモニターを触っていたから、ここになにか証拠となるものが移っているのだろうか。サトルは視線をモニターへと向けた。
洗剤売り場に制服の少女がやってきたのが映し出された。見慣れた姿・・・・・・トモだ。周囲を見回してから、洗剤のボトルを手に取った。ボトルを裏返して説明書きを読んでいるようだ。特にこれといっておかしな挙動はない。サトルは文句を言おうと口を開いた。
「特におかしなところ、無いと思うんだ、けど・・・・・・」
そしてサトルは次の瞬間、驚嘆して息を呑んだ。彼女の指先がボトルの蓋に触れた。なんと次の瞬間、ボトルと蓋の継ぎ目から、その薬品が漏れ出したではないか。しかもそれは球体のように形を保っており、指先に吸い寄せられるようにして浮いていた。彼女は左手でその球体を保ったまま、右手でボトルを棚に戻してからポケットから小瓶を取り出し、そのキャップをあける。そしてその球体を小瓶の中に入れた。小瓶に入った球体は、その姿を液体へと戻していた。
「どこがおかしく無い」
特に責め立てるような語調でもなく、抑揚のない口調で八月一日はそういった。トモが俯く。
「やろうと思えば彼だって、できるんですよ」
「え!?」
サトルはさらに驚嘆した。周りの人間はみなおかしな体質だったというわけだ。そして、もしかすると変なものが見える自分もその類かもしれない。そう考えると、気が遠くなりそうだった。
「問題はこの能力を犯罪に利用したことにある」
八月一日はそう言い、トモを一瞥した。
「トモをどうするつもり?」
「僕らの施設へ、まずは更正に。闇属性の魔術がこの子に発現するとまずい」
端的に、短く、そして静かに、八月一日は言った。続いて氷上が問う。
「どうしてこんなことしたの?」
俯いたトモの目からは、本物の涙が零れ落ちていた。
「少しずつ持ち帰って、嫌いな友達の、嫌がらせに・・・・・・」
ああ。
サトルはようやく得心がいった。だからオーラが黒かったのか、と。
「私、友達に嫌がらせされてたから、仕返し、したかった・・・・・・」
「ねえ」
おもむろにサトルは口を開いた。そして、トモの肩に片手を置いた。
「どうして仕返ししようと思った?」
トモの姿勢は変わらない。
「私の気持ち、思い知らせたかった・・・・・・」
そっか、と一度相槌をサトルは打った。そして「でもさ」とまた言葉を紡ぐ。
「もう友達ではいたくない、ってこと?・・・・・・ほんとかなぁ?」
サトルは思いのままを言葉にした。
「自分がいやな気持ちだったって、わかってほしかったんだよね。もうしないでって、言いたかったんだよね。・・・・・・仲良しでいたかったんだね」
トモは、堰を切ったように嗚咽し、泣いた。氷上が寄り添い、背中をさすった。
「悪いことしたって、気づいてるよね。この不思議な力も、悪いことのためにあるんじゃないって、思うよね。一緒に、やり直しましょう」
トモはうなずいた。サトルの唇に笑みがこぼれた。
「じゃあ僕は、親御さんに連絡するから」
「フジオカさん」
空気を一変させるような、冷淡な声が響いた。
「それは僕らの仕事だ。あんたも僕らについてきて」
「なんで!?僕悪いことしてない・・・・・・」
「公務執行妨害」
「えええええええ・・・・・・」