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COLORFUL  作者: 本多 樹子
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1章 6

 通報により一度警察官が来たが、わずか数分言葉を交わし、何か差し出された書類に署名をされたかと思うと、すぐに彼は帰ってしまった。

 その警察官によってすんなりと通された店の事務室は、男女二人によって人払いが行われていた。

「先生、なんで来たの」

 その間手持ち無沙汰なサトルとトモは、小声で会話をしていた。トモが憮然とした態度で沈黙を破ったので、サトルは即座に答えた。

「だって、大事な生徒だから」

「うそつき」

「え?」

 トモのぽつりと放たれた言葉に、サトルは驚いた。そして困った。要するに彼女は、自分が善悪どちらの意味でもサトルによってマークされていたことに気がついていたのだろう。しかし、サトルは本当のことを答えるのをためらった。オーラが黒かったからだなんて、口が裂けても言えない。どこかおかしな人だなんて、思われたくない。それに、こんな答えを望んでいるわけではないはずだ。考えながら、サトルは納得してもらえそうな・・・・・・つまり無難な言葉を恐る恐る紡ぐ。

「ええと・・・・・・それは、最近キミ元気がないっていうか、空元気っぽかったっていうか、」

「お話中申し訳ないですが」

 突然女性の声が割って入った。サトルとトモが並んで座っているその真向かいに、男女が腰をかけるところだった。若い女・・・・・・氷上 雪代は非常に大人びた口調で話し出した。

「私は非科学的犯罪取締係員の氷上(ひかみ) 雪代(ゆきしろ)と申します。彼は同僚の八月一日(ほずみ) (ひじり)

 先ほどパスケースから出されたものとはまた別のカードを氷上から差し出された。裏表に印刷がある。表は先ほどの取締係員であるという旨の肩書きと顔写真、氏名、そしてその組織を現すものであろうエンブレムが立体的に施されていた。サトルはカードを裏へ返して驚いた。それはなんと、学生証だった。

「え、キミ・・・・・・学生・・・・・・?」

 カードには、八月一日学園大学人文学部とあり、彼女がまだ一回生の十八歳であることが記されていた。サトルは大人びたその振る舞いとのギャップに驚いて、つい尋ねる。

「はい。私も彼も・・・・・・彼は二回生ですが・・・・・・同じ大学の生徒でもあります」

 「彼」と言われた青年は机の上で指を組み、わずかに会釈をした。ように見えた。

 八月一日学園といえば、国内でも有名な学校法人である。保育園、幼稚園から大学院、大学病院、看護学校、専門学校、通信教育まで手広く経営を行っている。受験をして入学すれば、そのままエスカレーター式で進級できる高偏差値、高額な教育機関であることは塾に勤めるサトルの知るところであった。しかし、「非科学」な「犯罪」を「取り締まる」組織など、聴いたことがない。サトルはにわかには信じられなかった。自分の非科学的な体質を棚上げしていることはともかく、そのような組織が存在していることをすんなりと受け入れることは難しい。しかし、サトルの頭の中で、わずかに引っかかるものがあった。本当にこの組織が存在するとして、ひょっとして自分の体質を理解するにふさわしい場所ではないのか、ということである。そしてもう一つ、そこになぜトモが関わるのか、だ。頭の中で渦巻く疑念を整理すべく、彼は口を開いた。

「生徒が、取り締まるの?」

「いえ、生徒でない者もいます。医療やそのほかの知識をもってしても解決できない体質を持つ者を守る意味でも、大々的に明かしてはいなくても存在しているんです。警察の方も、鑑識などはやはり科学の面からしか見られませんから、稀な体質を悪用している人がいないかどうか、そしてそれによって困っている人を守るのが私たちの役目です。係員たちは有志で集っているので、学生も社会人も立場は関係なく籍を置くことができるのです。かく言う私たちも、そういう体質に悩まされてきた人間です」

 サトルの疑念は、更に深まる。

「そこに、彼女も関係していると?」

「ええ。そして、あなたも、ではないですか?」

 ぎくり、とサトルは思わず身を引いてしまった。なぜわかったのだろうか。サトルは答えあぐねた。「まあいいです、今回の主な話はあなたではありませんから」と氷上は言うと、サトルたちに改めて向き直った。

「今回のことについて、お聞きしたいことがいくつかあります。正直に答えていただけると助かります」

 大人びている、というか、事務的と言ったほうがよいだろうか。清廉潔白であると自身に言い聞かせつつ、サトルは無機質な声に訝しげな表情で応えた。

「まず男性のあなた。身分証か何かお持ちですか?」

「・・・・・・ええ」

 サトルは保険証を差し出した。丁寧な礼とともに、書類は彼に返された。同様に、トモにも同じ行為がなされた。

「前園 朋美さん。ありがとう」

「いいえ」

 さて、と氷上は二人に向き直った。

「フジオカさん。あなたはこの女子高生と知り合いなんですね」

 サトルは言われた通り、正直に答える。緊張で、筋道立った日本語が出てこなかった。

「はい。僕が先生で、この子が生徒でした。塾の」

「塾?」

「はい。僕、英語科を担当してて」

 一度口を開くと、次第に慣れてきたのか、言葉がスムーズに出るようになった。

「すごく素直で明るい子だったから、涙目で危ない洗剤握ってあなたたちと居るから、何かさせられてるんじゃないかと思って、それで」

「声をかけてきたわけですね」

 サトルは氷上に向かってうなずいた。氷上はそれに応え、重ねて尋ねる。

「そして、あなたはなぜここに?」

「今日は休みで、食器の洗剤を買いに来てたんです。でも、なんでトモちゃんがここであんな危ないものを?」

 そう尋ねたところで、青年が突然立ち上がった。何事かとサトルとトモは驚いて身構えた。

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