1章 5
近場の大型ドラッグストアだから我慢出来るだろう、とサトルは長袖のTシャツの上から厚手のパーカーを羽織り、スウェットを履いて出かけた。
大型ドラッグストアでは案の定暖房が十分にきいていた。かえって不快になりそうなくらいだ。何故夏と冬になると日本人はこうまでエアコンを過度にきかすのかと、サトルはいつも考えては首を傾げるのだった。今日もそうしながら、洗剤売り場のプラカードを見上げ、目指す。
気分転換に香りを変えてみようか?しかしボトルごと新調する必要がある。誘惑に囲まれて、楽しい迷いの中に考えを巡らせていた時、サトルはふと横の人通りが視界に入った。
「トモちゃん…!?」
本来生徒であっても「君」、「さん」と呼ぶべきだが、彼女ほど通学歴の長い生徒はいなかった。それほど講師側も馴染みのある娘が、そこに居るのをサトルは見た。二人の見知らぬ男女に連れられて、涙目である。手には「混ぜるな危険」と書かれたボトル。
「トモちゃん…?」
本来講師は、学校教育者ではないので街でもあまり親しげに話すものではない。が、今はそのようなことは頭になかった。彼女が誰と、どこに行くのか、果たしてそれは安全なのか・・・・・いや、涙目であるから、安全な筈はないだろう・・・・・不安が次々と頭をもたげた。
少女たちは声に反応してこちらを向いた。はじめに目のあった青年には、キッときつい視線を送った。
「・・・・・何してるの、トモちゃん」
「サトちゃん」と言おうとしたであろう彼女を、若い女の冷静な声が遮った。
「すみませんが、妨害は控えて」
「何の妨害だ!」
サトルの怒りは頂点に達していた。思わず声を荒らげていた。
「こんな危ない薬品まで買って・・・・・何をこの子にさせるつもりだ!」
「何の妨害だって?」
周囲の目がサトル達に向き始めていた。サトルの叫びに反応しての事だろう。そこで青年が静かに口を開いていた。
「公務だよ」
「・・・・・は?」
薬品を半泣きの少女に買わせることが公務か?と、サトルは呆れと怒りをまぜこぜに、口を丸く開いた。
「この子、万引きしたんです。・・・・・私達、取り締まっているところです」
そして女性はポケットからパスケースを取り出し、差し出した。警視庁認定証と、表記がある。そして肩書きには、「非科学的犯罪取締係員」とあった。
「そんなわけで」
ひどく落ち着いた男女に、サトルも同行を命じられた。
父さん母さん、あんまりです。