幕間 ガールズトーク
前回、主人公の生誕についてのほら吹きを描写します、と予告したのですが、思ったよりも長くなりそうなので、先にこちらを投稿します。
なるべく早く続きを投稿するようにしますので…すみません!!
顔を青くしながらも、無事に航海を終えた聖月騎士団の面々は、2時間の小休止のあと、集団魔法『聖女の帳』を展開していた。如何に体調が悪かろうと、集中力を切らすことなく、上級集団魔法を行使できるのは、彼女たちが非常に優れた魔術師であることを示している。
「「「我ら、神聖にして清廉、純潔の守護者にして擁護者!!悪しき者は去れ、目に見れば、これを潰し、音に聞けば、耳を貫く!!我らが敷く帳は善き者のみを暖かく包み込む!!展開、聖女の帳!!」」」
結びの詠唱が終わった瞬間、彼女たちを淡い光が包み込んだ。この結界によって、彼女たちを虎視眈々と狙っていた魔物達は、痛烈な苦痛と圧力…まるで上位の魔物と遭遇してしまったような、言いようのない焦燥感…を感じて、足早に逃げ去って行った。周囲に満ちていた敵意が消失したのを確認すると、レオナは全体に号令を告げた。
「全体、休め!!『聖女の帳』を展開していられるのはおよそ5時間!!その間に、我々が以前建築した砦へと向かい、嫌忌剤を使用する!!彼の黒騎士殿はその砦の前に佇んでいた…恐らくではあるが、その周辺にお住まいになっていると推測される!!帳の内にいるとはいえ、ここは暗黒大陸だ、絶対に気を抜くな!!それでは、行軍開始!!」
短く、要点のみを告げた。本来なら号令を告げる時には、士気を鼓舞するような気の利いたセリフも用意するのだが、この暗黒大陸において、そうしたものは贅肉である。そんなものに時間を使うくらいならば、迅速に行軍し、任務を達成したほうが良い。
レオナの号令に、武器を構えることで応え、聖月騎士団は行軍を開始した。ガルフレイクの開拓団が以前に築いた砦…ドーラ砦は小休止を挟みながら行軍したとしても、3時間もあれば到着できるだろう。森を切り開きながらであれば、その倍はかかっただろうが、以前の開拓によって道が作られているので、それに沿っていけば容易に到達できる。
「黒騎士殿、もう少しだけお待ちくだされ。もう少しでお迎えにあがれますゆえ…!!」
ガッ、と拳を握りながら、油断なく周囲を警戒するレオナ。団員たちはそんなレオナを日向で寝ころぶ猫を見るような視線と感情で見つめるのだった。ちなみに、このレオナの『清い恋心』と団員達の『見守る心』が『聖女の帳』の性能を底上げし、本来なら回避できないような強力な魔物との戦闘を回避せしめていたことは、誰も知らない。
「どうやら、黒騎士殿はこの砦を拠点にしているようだな…」
「そーみたいねー。すっごく強いヒトの香りがする」
ドーラ砦に辿り着いたレオナとシロディールは、元は隊長室であった部屋を探索しながらそう呟いた。レオナは毛布や蝋燭の痕跡などからそう推測し、シロディールは部屋に充満した『自分の遥か格上の存在』の匂いを嗅ぎ取ることで、そう理解した。
「うーむ、ここにいないという事は、今は巡回か何かの最中なのだろうか…だとしたら、もう少し待っていれば、帰ってくるだろうか?」
「うーん、どーだろーね?レンジャーやスカウトは寝床をローテーションするらしいし、今日は別の場所に帰るのかも?」
シロディールがなんの気なしに、そう答えると、レオナの表情があっという間に曇った。その様子を見て、シロディールは慌てて言葉をつなげた。
「いやいや、でもこれだけ濃く匂いが残ってるから、ここをメインの寝床にしているのは確定的だと思うよ!!今日帰ってくるかは分からないけど、またすぐに戻って来ると思うよ!!」
その取ってつけたような言葉は、果たしてレオナには効果覿面であった。まるでお気に入りのドレスに泥水をぶちまけられたようだった表情が、意中の人に花束をさしむけられた淑女のような、華やかなものに染まる。
「そうだよな!!すぐに帰ってくるよな!!」
瞳に星を映しそうな、夢見る表情。さすがにここは多少の苦言…というか忠告っぽいものをしておくべきか。シロディールは、苦笑を浮かべながら、言葉を続けた。
「でもさー、レオナ?まだ会ったことのない人に、夢中になりすぎじゃない?まーさ、恋人のいない私が言っても説得力ないかもだけど。過度な期待を込めすぎるのはどちらの為にもならない、ってこの間お芝居でやってたよ?」
「む…確かにそうだが…しかしだな、なんだか、私はあの黒騎士殿が他人という気がしないのだ。どこかで、会ったことがあるような…そんな気さえするのだ…」
恐らく黒騎士の寝所であろうベッドに腰掛け、指をいじいじさせながら、レオナはそう答えた。その返答に、シロディールはあちゃー、といったリアクションをとりながら、机に腰掛けた。
「レオナー。もしかして『前世の頃から縁があったの』なんて言うんじゃないでしょうね?幼年部の女の子なら、ほほえましいけど、貴女今年で19でしょう?しょーじき、あいたたた、って感じだよ?」
「うるさいな、私だってそれは自覚してるさ。だけど、そう思うものは仕方がない。こんなの初めてだけど、理性で切り貼りができないんだ、これは。…それに、私と黒騎士殿が懇意になれば、国益にだってなるし、いいじゃないか」
「…レオナ。その国益が云々、とかは黒騎士殿がいるところじゃ絶対に言わない方がいいよ。利潤を目当てに近寄ってくる女は総じて蛇より疎ましい、って恋愛小説に書いてあったから」
「本当にお前の情報元はそればっかりだな…まぁ、私もああいったものは好ましく思っているが…」
偵察、という任務を一時忘れて、恋話に花を咲かせる2人。そんな、和やかな時間を中断させたのは、あまりにも強大な魔力の揺らぎであった。台風のように暴力的なのに、荘厳さすら漂わせる、偉大なる魔力の波動。このような魔力の波動を放つ生物は、天上天下に1つのみだ。龍、である。
半ば反射的に窓の外をのぞきこむと、そこには遠見の水晶越しに見たあの龍が、中庭に向かって飛翔してきているのが見えた。その背には、まごうことなき黒騎士殿を乗せている。あの巨体が、翼もなしに、飛翔している。まるで燃え滾る氷を見ているような気分に2人は陥った。ありえない。あの人はどこまで、常識というものを破壊すれば気が済むのだろうか。そんな共通した感想を抱きながらも、2人は隊長室を後にしたのだった。
女子会ってどんなこと話しているのかしら、と思いつつ書いたエピソードです。色々とアドバイスをするシロディールですが、ソース元が創作物オンリーということもあって、説得力が皆無なのでした…