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ちぇんぢ!!  作者: 草加人太
暗黒大陸編
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ガルフレイクからの使者

 遅くなってすみません!!年度の最初はどうしても忙しくなってしまいますので…


 そのかわりと言ってはなんですが、5000字オーバーになっておりますので、生暖かく見守っていただければ幸いです

 慌ただしく作業を行っていた女騎士たちは、こちらの存在…主にディノの存在に気が付くと、一斉に手を止めて、片膝をつくような姿勢をとった。ありゃ、もしかして、また開拓するために、こちらに戻ってきた訳ではなくて、俺が目的なのだろうか。そうでなければ、こんな所作で迎えられたりはしないだろうし。


 女騎士たちの元に向かって歩いていると、ガタン、と砦の扉が蹴破られるような勢いで開いて、中から二人の女騎士が出てきた。彼女たちは騎士たちの前に立つと、やはり片膝をついた。うーん、俺ってこんな歓待を受けるようなことしたっけか?勝手にこの砦を占有していた訳だし、怒られる事こそあれ、こんな対応を受けるような事はしてないと思うのだが。


 「お初にお目にかかります。私どもはガルフレイク亜人商業連合所属の使節団でございます。此度は『破滅の果実』討伐を独力で果たした武勇の誉れ高き、貴方様に感謝の意をお伝えするために参りました!!」


 先程、砦から飛び出してきた女騎士の片割れが、こちらに面を向けながらそう言った。『破滅の果実』ってなんだろう…あー、はいはい、なるほど。昨日討伐した大目玉の事か。昨日討伐して、今日こうしてお礼を言いに来るなんて、随分とフットワークが軽いな。流石は商人の国、ってとこだろうか。


「なるほど、貴女方がどういった存在なのかは分かりました。どうか、楽にしてください」


 そう返しながら、兜を脱ぐ。その対応に、一瞬意外なものを見たような反応を見せた使節団だったが、すぐにそうした色を隠して、恭しく頭を垂れた。いや、楽にしてくれ、ってのに。


「ありがたきお言葉、感謝いたします。しかし、国難をお救い頂いた相手に、礼を失する対応をしたとあっては、騎士の恥にございますれば。どうか、このままの対応をお許しいただけませんでしょうか?」


 騎士ってのも大変なんだなー、と思いつつ、俺は了承を伝える為に頷いた。


「貴女方がそう仰るのでしたら、そのようにしていただいて結構です。ですが、こうして外で会話をするというのは外聞もよくはありませんし、危険です。ですので、まずは砦の中に入りませんか?」


 俺がそう伝えると、彼女たちは目に見えてほっ、としたような表情を浮かべた後に、かしこまりました、と頷いた。さっき焚いていた香草のようなものは、嫌忌剤だったらしく、その作業が終わるのを待ってから、俺たちは砦の中に入った。まぁ、ディノが中庭にいる状態で乱入してくる命知らずな魔物なんていないわけなのだが。


 ちなみに、彼女たちにとった態度に関しては、一応考えがあってのものだ。誰かがここを再度訪れる、というシミュレートは結構前に行っていたので。最初は、なんというか、魔王みたいな尊大な口調で話すべきだろうか、とか考えたのだが、一人称に『我』を使っている自分に中二病時代の悪夢を見たので却下した。


 それに、この手の異世界召喚モノで尊大な態度で物事にあたっていると、本人がいかにチートな能力を持っていても、人間関係で思わぬ落とし穴にはまることが多いのだ。例えば、こんなくだらない事をあの人に報告したら怒られるかもしれない、と委縮させてしまい、結果として大きな損害…下手するとネームドキャラの死亡…みたいなものを被る破目になったりする。


 そんなことになるのなら、丁寧な態度で接していた方がいいし、日本人である俺にはそっちの方が性に合っている。だから、俺は異世界でもいわゆる『ジャパニーズ』としての態度を貫くことにしたのだ。


 食堂の椅子に座ると、彼女たちは俺の周囲に片膝をつく。自己紹介やら生まれに関しては、異世界召喚モノのテンプレを適当に継ぎ接ぎしておく。日本から召喚された、なんてパーソナリティはここで開帳してしまうと後々面倒なことになりそうだし。名前についても、ありません、何故ならここには私以外に人間はいませんからね、で開示を避けた。それと一応、彼女たちにも椅子を勧めてみたのだが、やはり断られた。


 しかし、改めてこうして並んでいるのを見てみると、この人たち、全員がおそろしく美人じゃないか?特に、先程砦の中から飛び出してきた2人にあっては、頭一つ抜けているような気がする。


 2人の片方…レオナ・ラインハルトと名乗った女性を見遣る。浅い褐色の肌と紅玉めいた赤い瞳、砂糖細工のような細やかさを持った長い金髪。人形のように整った眉目と、強い意思が同居した美しい面差しをしていて、ネットのお蔭で見たことのない美人、なんて形容詞が絶滅していた現実世界でも、見たことがないような美人さんだ。イメージとしては正しく凛々しい女騎士。あと、下世話な話だが、鎧の上からも分かるようなグラマラスな肢体は、正直とても素晴らしいと思います、はい。


 もう片方は、美人というよりもかわいい、といった印象だ。彼女…シロディール・キスメットは金髪碧眼で色白の肌。瞳は興味深げにこちらを見ている。今は真面目な表情をとっているが、もしも微笑んだのなら、どんな偏屈な人物でも頬を緩めてしまいそうな、なんというか、微笑ましさがある。そしてなにより、猫耳だった。まさか、現実に猫耳を目にする日がこようとは。いや、獣人系亜人の身体的特徴の一つだそうだから、いつかは目にするだろうとは思っていたけど、こうして実際に目にするとなんだか感慨深いものがある。


「それでは改めまして。此度は我が国の国難を払っていただき、誠にありがとうございます。臣民を代表して厚く御礼を申し上げます」


 彼女たちが、一斉に頭を垂れる。うわー、慣れないことされるとなんだかお腹が痛くなるな…流石にこの場で『いや、寝るのに邪魔になりそうなので叩き潰しただけですよ』とは言い難い。なので、鷹揚に頷いておく。


「いえ、あの魔物は私にとっても脅威の一つでありました。故に、討伐したまでのこと。確かに、貴女方の国に大きな被害が出るであろうことも考慮はしましたが、そこまで大きな謝意を与えていただき、こちらこそありがたく思います」


 椅子から立ち上がり、彼女たちに返礼した。気持ち的にはこちらも片膝をついて返礼したかったのだが、そうすると、かえって彼女たちに失礼になりそうなので、自重する。


「もったいないお言葉にございます…つきましては、我が女皇陛下から貴方様に、此度の英雄的行為の返礼を直接会見をもった上で行いたい、という親書を預かっております。受け取り願えませんでしょうか?」


 そういえばガルフレイクは権威の象徴である帝王、ないしは女皇を中心にまとまる議会政治の国なんだっけか。そういった国における女皇陛下、なんて最高峰の権威だ。そんな存在に直接招かれるなんて、なんだか話が随分と大きくなっている。そこまで凄まじい魔物だったのだろうか、あの大目玉は。


 …いや、そう考えるのは早計か。これは、もしかしたら断れない提案の類なのかもしれない。あちらからすれば俺は、国難とまで評される難物を独力で排除する『よく分からないが非常に強力な戦力』な訳だ。早めに面識をもって、可能ならば首輪をはめておきたい、という考えなのかもしれない。その為にも、断った相手にどうしようもない『無礼な輩』という属性を付与できる権威を持ち出してきている可能性がある。


「ふむ、それは素晴らしいことです。その親書、謹んでお預かりいたします」


 恭しく渡された親書を、一応貴重品を頂くような仕草で受け取った。さすがにここで『そんな大層なもん、いりませんよ』とは言えなかった。まぁ、俺を召喚した例のお姫様の意図が分からない以上、ここに引きこもり続けるのには限界があったから、ここらでよその国の事情を探っておくのは悪手ではないだろう。商人の国で、且つ中立的な立場ということなら、情報収集という面で有用だろうし。


「さて、貴女方と共に貴国に赴くことに不満はないのですが…私の相棒である龍…ディノはどのようにすればよろしいでしょうか?ここに置いて行け、というのであれば、そういたしますが」


 内心は大きな不満を抱えているぞ、とそれなりに表しながら、彼女たちに問うてみた。まぁ、この世界における龍は自立する台風みたいなものであるわけだし、多分連れて歩いたりはできないだろう。だとするなら、数週間に一度はここに帰ってこれるような契約を今のうちに結んでおきたい。長い間会えないのはディノが可哀そうだし、なにより俺の中で深刻なディノ成分不足が発生する。


「そのことにつきましては、問題ございません。此度の『破滅の果実』討伐は龍を友とする黒騎士によって成された、と既に民草にまで知れ渡っています。こちらに赴く際はあらゆる手段を用いて最速で参りましたが、帰りは貴方様に最高峰の船旅をお楽しみ頂く為に、1週間の日程を予定しております」


 ですので、貴方様が帝都に行きつく頃には、龍がいても誰も驚いたりはしないでしょう。そう語りながら、レオナは微笑んだ。うへぇ、年齢=彼女いない歴の俺には凄まじい破壊力だな、この笑顔。


 …おっと、危うくうやむやにするところだったが、これ絶対に、あえて民衆にまで情報流しただろ。俺がこのお誘いを断る理由を潰すだけじゃなく、断ったら普通の市民だって俺に対して良いイメージは持たないですよ、と言外に語っているのだ。


「なるほど、それは重ねて素晴らしい。貴女方の完璧な歓迎を、嬉しく思います」


 完璧な、の部分の発音をあえて強くしてみた。これくらいの当てつけは許してもらえるだろう。その当てつけに気が付いたのか、レオナはその微笑みを少しだけ深くした。シロディールの方は『?』みたいな表情で俺とレオナを交互に見つめている。もしかしてこの子、アホの子なのかしら。かわいい。


「私どもの歓迎を受け入れて頂き、望外の喜びです。さて、それでは出立は何時になさいますか?私どもは1週間分の嫌忌剤を持ってきてはおりますが…」


 30秒で支度しな、という言葉が聞こえた気がした。まぁ、こんな白亜紀めいた危険地帯、可能な限り早く離脱したいだろう。俺の方は特に準備は必要としていない。俺が能力で作成した物はインベントリのような不思議空間に収納できるので、準備と言えばせいぜい気に入った本を数冊持っていきたい、ってくらいだし。


 しかし、だからといって『それじゃあ、今から帝都に向かいましょう』なんて言ったら彼女たちがあまりにも気の毒な気がする。だって、あの大目玉が討伐されてから、今までせいぜい1日とちょっと、ってところだ。多分、不眠不休でここまでやってきたのだろう。空中から見た感じ、ガルフレイクまでは結構な距離があった気がするから、恐らく船酔い上等だが常識外の速度を出せる、商業連合ご自慢の高速魔術商船とやらで、ここまでやってきたのだろうし。この上で更に強行軍を重ねさせるのはご無体だと思う。


「では、明日にしましょう。見たところ、貴女方は相当にお疲れのご様子。美しい女性に、無理を重ねさせるのは男の努めから外れていますからね」


 自分でも『うっわ、きめえ』と自嘲してしまいそうな言葉を返した。俺みたいな、よく分からない存在にこんなこと言われたら、色々と危機感を憶えるだろう。襲われる、とまではいかなくとも、あとで酌くらいさせられるかも、くらいには。はっはっは、せいぜい俺の言葉の真意を読むために苦悩するといいさ。外堀を埋めまくった上で、交渉を成功させたと思い上がっているのなら、そうはいかんからな。


 我ながら小者感溢れる意趣返しだよなー、などと思いながら、彼女たちの様子を見てみると…あれ、なにそのゴクリ、みたいな反応は。えっと、あの…ドヤ顔で罠を御開帳したら、その罠で相手が強化されちゃった、みたいな空気をヒシヒシと感じるんだけど…


「…かしこまりました。出立は明日ということに致しましょう。シロディール、狼煙で船に詳細を伝えてください」


 レオナは隣のシロディールにそう伝えると、まるで宝石で出来た花を見るような、夢見がちな少女がするような恍惚とも言える表情で俺を見つめた。


「…本当に、貴方様は素晴らしいお方にございます…王とは、やはりこうでなくては…」


 えっ。あの、なんだか聞き捨てならない言葉を聞いた気がするのですが。なんか周りの娘達は『あーあ』みたいな表情をしているし。シロディールは『ですよねー』みたいな笑みを残して、外へと駆けて行った。


 翻弄するつもりが翻弄されていた。何をいっているのか、分からねーと思うが、俺も訳が分からなかった。狼狽える様な表情をどうにか封じ込める。彼女たちにはこの砦の空き部屋でどうかゆっくり休んでください、と言い残し、俺はそそくさと自室に退却するのだった。

 ちなみにガルフレイクはいい意味でも悪い意味でも『男女平等』です。女だろうと、ドブさらいをやらされますし、風呂の無い部屋で3徹で書類整理、とかも平気でやらされます。そうした社会に生きる女性に対してちゃんと『女性扱い』をする主人公はどう映るのでしょうか(笑)

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