ディノとお散歩
肉食系妹ヒロインとのお散歩回です。ディノには出来ればカタカナで喋って欲しかったのですが、激しく読みにくかったので、やむなく没にしました。
「なるほどね。つまりディノは食べれば食べるほど、強くなって、様々な能力を手に入れることが出来るってことなのかな?」
『うん、そうなの。オニイチャンと、お話出来るのも、オメメを、食べたから』
大目玉を討伐した俺は、突如としてしゃべり始めたディノと一緒に帰路についていた。次第に会話というものに慣れてきたのか、片言のような言葉使いは収まってきている。色々と話してみたいこともあったし、何より人恋しかった俺は、道すがら様々なことを話した。
ディノが言うには、彼女はディノタイラントという種類の亜龍だったらしい。ディノタイラントは、成龍になると親元を離れる。そして親元を離れて1か月ほどの間に捕食した魔物の特性や能力といったものを取り込んで完全成龍となるのだそうだ。しかし生存競争の激しい暗黒大陸において、完全成龍になることができる個体はそう多くない。ディノもそうした例に漏れずに、捕食される側へと回ってしまった。もうだめだ、もう少し生きたかった。そう思いながら死を覚悟した時に、俺が助けてくれた、ということらしい。
それだけでなく、オニイチャン…つまり、俺なのだが…は倒した魔物を惜しげもなく分け与えてくれた。しかもその魔物はこの暗黒大陸でも上位に位置する個体ばかりだったらしく、彼女は通常ではありえないほどの膨大な魔力をその身に蓄えることが出来た。お蔭で、彼女は亜龍という垣根を越えて龍へとランクアップを遂げることができたのだそうだ。言語能力はその特典といった感じらしい。
「なるほど。しかし、ディノは物知りだね。ここに生まれた魔物は、それなりの知識みたいなものを持って生まれるのかな?」
まさか、魔物が本を読んで自分がどういった存在なのかを勉強しているという事はあるまい。亜龍がどうだとか、龍となったことで言語能力をうんぬんといったことは、どこで知ったのだろうか。
『違うの。分からないけど、何だか、わかるの』
どうやら知識が急に身に付く理由に関しては、本人にもよく分からないらしい。龍に進化する、というのは理屈で測れない領域の出来事なのだろうか。
「そっか。わからないなら、大丈夫だよ。あ、そうだ。そういえば、一つお願いがあるんだけど…明日辺り、この大陸がどんな感じの場所なのか、案内してもらいたいんだけど、いいかな?」
『うん、分かったの』
あの大目玉には随分と肝を冷やされたけど、お蔭でディノとちゃんと意思疎通ができるようになったというのは素直に喜ぶべきだろう。そういえば前に読んだ本で、龍は様々な超常現象を引き起こすことが出来る、という記述を見た覚えがある。魔術と違って、魔力や詠唱といったコストを全く必要としないその超能力は龍を超越種たらしめている理由の一つなんだとか。
「ねぇ、ディノは何か特殊な能力とかは身に付いたりしたのかい?前に読んだ本にはそんな事が書いてあったけど」
『うん、なんだか、飛べるようになったの』
そう言いながら、ディノはまるで風船のように空に浮かびあがった。その堂々たる体躯がふよふよ、といった形容が似合うように浮いているのは確かに超常現象だった。まぁ、正直なことを言うと、ちょっと想像とは違ったけどね。なんというか、イメージとしては炎とか氷とかを自在に操る、みたいなのを想像していた。しかし、これから島を探索して回るのなら、そうした火力重視の能力よりも、空を泳ぐように飛べる能力の方が有用かもしれない。
「すごいね、ディノ。お前は本当にかわいい上に、頼りになるやつだ」
『えへへ、オニイチャン、嬉しいの』
ぐるる、と喉を鳴らすディノ。ごめんよ、ディノ…お前はこんなにかわいいのに、能力が若干予想と外れていたってだけで少し残念に思ったりして…
『あのね、オニイチャン、私に乗ってみない?』
少しだけ、自己嫌悪を覚えつつ歩いていると、ディノがそう提案してきた。願ってもないことである。龍に乗って空を駆けるなんて、国民的なRPGの主人公でもなければ、経験できないことだ。
「うん、ぜひお願いしたいかな」
『うん、ディノに、おまかせなの』
そう返した後、俺はディノの背中へとまたがった。俺が棘を握ったのを確認すると、ディノはうんうん、と頷いた後に空へと飛び立った。翼による飛翔ではないせいか、上下のブレが少なく、酔ったりすることはなさそうだ。月の光だけで照らされた暗黒大陸は、とても神秘的で美しかった。海を越えて、遥か遠くには、まるで宝石のように輝く街の明かりが見える。推測だが、多分あれがガルフレイク亜人商業連合なんだろう。
「なぁ、ディノ…この世界って、とても美しいものなんだね…」
『そうだね、オニイチャン…』
少しだけ涼しさを含んだ風を頬で感じながら、俺たちはしばし空の旅を楽しんだ。
一夜明けて、俺たちはまた暗黒大陸の空を駆けていた。突き抜けるような碧空と、森の水気を含んだ風の香りを楽しみながら、周囲の様子を見て回る。どうやらこの大陸は海沿いは日本の森のような自然環境だが、中央に近づけば近づくほど、アマゾンのような密林地帯めいた様相を呈するようだ。動植物の類もがらり、と変化するようで、たまに空から垣間見えるそれは大きく変化している。具体的に言うと、海沿いは鹿や熊のような、日本でも見たことがあるような動物が多いのだが、中央部は巨大な象や草食恐竜のような生物が多く生息している。
それと空を飛ぶようになって初めて気が付いたのだが、この大陸には火山があった。俺が拠点としている砦の丁度反対側の海沿いで、今も元気に火を吹いていらっしゃる。火山周辺はちょっとした砂漠地帯になっていて、サボテンが歩いていたり、アロサウルス的な生き物が闊歩しているという点を除けば、普通の砂漠だ。
全体的な印象としては、アマゾンとハワイとオーストラリアを足して2で割った感じか。まぁ、所々異世界風味のエッセンスが添えられてはいるが…。そういえば、この前、ディノが赤い宝石のような物を持ってきてくれたけど、あれはなんだったんだろうか。やはり、火山地帯とかでは沢山採れる類の物だったりするんだろうか。
「そういえばディノ、この前ディノが持ってきてくれた赤い石ってなんだったの?」
『あれは、すごい石。食べると魔力、強くなるの』
単純にして明快な答えだが、分からん。
「どこで沢山採れる、とかあるのかい?」
『森を、歩いてるとたまに見かけるの』
なるほど、鉱石といった物とはまた違う物質のようだ。魔力が強くなる、ということならもしかしたら空気中の魔力が凝縮した、とかそういった代物だったりするのだろうか。
この世界における魔力とは、魔術を行使する際に必ず必要になるエネルギーだ。魔力は生物の体内には必ず存在しているが、この魔力量では初級魔術を行使するのにも全く足りていない。そこで、魔術師は空気中のマナ、と呼ばれる魔力を自らに取り込むことで大規模な魔術を行使する。
この変換効率が、魔術師としての強さのバロメーターになるのだそうだ。ちなみに、亜人は一般的に人間に比べて、この変換効率において若干劣るらしく、そうした点をあげつらって、亜人を差別的に扱う人間も少なくないらしい。
何故かは分からないが、この大陸では空気中のマナが結晶化する、という自然現象が発生するのかもしれない。他の大陸ではなぜ、そうした現象が起こらないのか不明だが、もしも向こうの大陸に行く日が訪れるのなら、調べてみてもいいかもしれない。
それと、一応このことは秘密にしておいたほうがいいだろう。この世界における魔術とは、兵器と同義である。それをインスタントに強化できるような宝石が見つかったとなれば、争いの火種に発展する可能性も十分にある。
「さーて。この大陸の自然環境はある程度は確認できたし、そろそろ砦に戻ろうか」
『うん…あのね、オニイチャン。その前に、あれ食べたいの』
ディノの視線の先を見てみると、そこにはクワガタとトリケラトプスを合成したような魔物が重量感のある足音を立てながら歩いていた。
「もう、しょーがないなぁ、ディノは。よーし、ちょっと待ってろよー。すぐに刺身にしてやるからな!!」
『うん、オニイチャン、大好き!!』
言うが早いか、ディノから飛び降りた俺は、落下の速度を全て乗せたハルバートでクワガタトプスの頭を串刺しにした。貫通した部分と持ち手を握り、バルブハンドルでそうするように、ひねる。何か、繊維質のものを引きちぎったような感触が手に伝わり、目の前の生き物が完全に絶命したことを実感した。この高さから落下してもなんともないとか、いよいよもって人間辞めてるなー、とか魔物を殺めることにも抵抗がなくなってきたなー等と思いつつ、俺は嬉しそうにこちらに降りてくるディノに向けて手を振るのだった。
ディノの食事が終わるのを待ってから、砦へと戻る。この大陸は中央大陸に比べれば、かなり小さいとはいえ、それでも大陸である。夜明けと共に探索を開始したというのに、砦に帰り着くころには、もう既に夕暮れ時になっていた。俺は煌めくような夕暮れと、海向こうの大陸に灯る明かりの美しさを楽しんでいたのだが、不意にディノが声をかけてきた。
『ねえねえ、オニイチャン。お家にだれかいるよ?』
ディノのその言葉に、まさか、と思いつつ砦の中庭に目を向けた。そこには、確かに何人かの武装した兵士がおり、香草のような香りがする煙を焚きながら、テントを設営していた。テントに刻まれた紋章は『槍と貨幣袋を持つ獅子』だった。あれは確か、ガルフレイク亜人商業連合の紋章だったと思う。
「うーん。引きこもり隠者生活終了のお知らせ、かな?」
俺はディノに中庭に着地するように指示すると、背伸びをし、来るべき邂逅に備えるのだった。
この次の回から、物語は大きく展開していくと思います。
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