はじめてのボスバトル
サブタイトルの通りです。そして、おや?ヒロインの様子が…
どうもあの大目玉は自分の力を誇示するために、適当な場所に光弾を撃ち込んでいるらしく、着弾地点に規則性を見出すことができない。しかし、こちらの存在に気が付けば、恐らく攻撃を仕掛けてくるだろう。
さて、どうしたもんか。運もある程度必要だろうが、今ならまだ逃げ隠れることができると思う。だがそれは、あくまで俺だけなら、という但し書きが付くかもしれない。
「くぅーん…」
ディノは視線を大目玉に向けたまま、獅子に遭遇してしまった小型犬のような声をあげている。あの大目玉は、恐らくディノの遥か格上の魔物なのだろう。あぁ、もうかわいいなぁ。見捨てるつもりなんて、ハナっからなかったけれど、こんな仕草をされたら、意地でも守りたくなる。
「大丈夫だよ、ディノ。お前は俺が守るからね」
俺はディノの角をなでてやりながら、そう呟いた。あんな魔物にその辺を浮遊されたのでは、落ち着いて読書もできないし、眠ることすらできない。あの大目玉がどのような存在なのかはわからないが、俺にとっては敵だ。倒そう。そう決めた俺は、深呼吸をしてから、その場で体をほぐすように体操をした。大目玉までの距離はだいたい10km程度。浮遊している高度は30mといったところだろうか。あれぐらいの距離・高さなら、見つからないように慎重に進んだとしても、10分程度で到達できる。
「ディノはここで良い子にして待ってるんだよ。あんな目玉野郎は、俺がすぐに倒してくるからね」
不安そうな瞳をしていたディノだったが、俺の不敵な笑みを見て、少しだけ闘志を取り戻したようだ。しかし、なにやらしきりにうんうん、と頷いている。うーむ、ここで待っててね、って伝えているんだけどちゃんと伝わっているんだろうか?
流石に正面切って戦うのは無謀すぎると判断した俺は、大目玉の背後に回り、奇襲を仕掛けることにした。大目玉に気付かれないよう慎重に、しかし素早く森を駆け抜ける。幸いなことに深く生い茂った木々と、黄昏時という時間にも助けられ、気付かれることなく無事に大目玉の背後に回るができた。
ちなみにディノだが、やっぱりついてきてしまった。初めのうちはその巨躯故に、大目玉に気付かれやしないかと心配だったのだが、それは杞憂だった。得意なフィールドということもあるのだろうが、地に伏して進むディノは気配も音も消し去り、俺以上に見事な隠業をやってのけたのだ。
その上、地に伏せて、尻尾をひょこひょこさせながら進む姿は鼻血が出そうなくらいかわいかった。あとで、なでくり倒した後に誉めてやろう。しかし、これだけ見事に気配が消せるなら、あそこまでおびえなくても大丈夫なんじゃないか?
大目玉は相変わらず、ゆっくりと進みながら、思いついたかのように光弾を発射し、森を吹き飛ばしている。光弾の着弾地点で森林火災が発生していないところを見ると、熱エネルギーによる爆発ではなく、なにか魔力的なモノで、着弾地点に強力な衝撃波を発生させているのだろうか。
閑話休題。はてさて、戦いを始めよう。俺はその場で屈伸をした後に、クラウチィングスタートの体勢を取った。息を整えてから、一気に走り出す。走りながら、中空に向けて右手を掲げ、塀の一部を足場として作成する。そしてそれに飛び乗ると、次々と足場を作成していき、ついには大目玉と同じ高度まで飛翔した。ハルバートを全力で振りぬけるように、腕に力が込める。殺れる。そう確信した。しかし、その確信は次の瞬間、恐怖へと変わる。
大目玉がぐりん、とこちらを向いたのだ。ハルバートが大目玉に食い込むまではあと数秒かかる。しかし、俺の姿を認めた大目玉の瞳は既に赤くおぞましい光を帯び始めている。間に合わない。俺の体がどれほど頑健なのかは分からないが、あの光弾の直撃を食らって、五体満足でいられるだろうか。総身を、死の恐怖が舐め回す。
不意に、大目玉の下部が爆炎に包まれた。それは大目玉に致命傷を与えるようなものではなかったが、光弾の軌道をずらすには、十分だった。光弾が、明後日の方角に飛んで行く。こんな千載一遇のチャンスを逃す訳にはいかない。俺は、ハルバートを抉りこむように瞳のど真ん中に叩き込んだ。
目玉に食い込んだハルバートを鉄棒のように使い、逆上がりの要領で大目玉の頂部に降り立った俺は、次々に剣や斧、槍や槌を作成して、大目玉を蹂躙した。斬る、抉る、叩く、潰す。死の恐怖から解放された反動もあったのだろう、ほとんど忘我の境地で武器を振るっていたのだが、不意に大目玉の浮力が消失し、地上に墜落を始めた。俺は、すぐさま足場を作成しつつ、階段を下りるように着地した。
大目玉は上半分がミンチよりひどい状態になっていた。あえて形容するなら、ひき肉でつくった針山といったところだろうか。これでは生きていられないだろう。俺は、勝ったのだ。
「いよっしゃあああああああ!!!!」
思わず勝利の雄叫びをあげると、その横でディノもまた、咆哮をあげていた。口元からは炎がくすぶっている。どうやらさっきのアシストはディノの仕業だったらしい。ディノ最高や!!俺は一人なんかじゃなかったんや!!
ディノをなでまわしながら、奇妙な舞踏を踊ったり、大目玉の死体を指さして『ざまあああ!!』と大笑いをするという奇行を一通り行い、賢者モードになった頃には、日が沈みかけていた。日没なんて、この世界に来てから何度も見てきたはずなのに、今日の日没は今までで一番美しく見えた。
「よーし、ディノ。食べていいよ」
大目玉から武器を引き抜き終わった俺がそう言うと、ディノは喜びに満ちた咆哮をあげた後に、大目玉にかぶりついた。その食べっぷりを眺めながら俺は、今日の夕飯は目玉焼きとハンバーグにしようと思ったのだった。
『ムグゥ…オイシイヨ、オニイチャン』
えっ。声がした方向…つまり大目玉を食べているディノを思わず見つめる。するとディノは『ん?』といった感じに首を傾げて
『ドウシタノ、オニイチャン。ダイジョウブ?』
ディノは一時、大目玉に貪りつくのを止めて、こちらを心配そうな目で見つめ返してきたのだった。
戦闘描写は難しいですね。私の頭の中では、どのように戦闘をするのか明確に完成しているのですが、それを文章に出力するのがとても難しいです。
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