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ちぇんぢ!!  作者: 草加人太
ガルフレイク編
29/37

執務室にて

 投稿が遅れてしまって申し訳ないです。夏は忙しくなるだろうなー、と思っていたのですが、予想以上でした。秋口位まで、もしかしたら更新が不定期になったりするかもしれませんが、ちゃんと更新していきますので、これからも応援していただければ幸いです。

 地下倉庫を後にした俺とレオンは、彼の執務室へとやってきていた。レオナとシロディールは、聖月騎士団の仕事の引継ぎがあるそうで、別行動だ。無骨ながら、艶のある家具。壁には金糸で装飾された見事なタペストリーが掛けられており、中世を舞台にした映画の中に出てくる作戦会議室みたいだな、という感想を持った。部屋の中央には4畳くらいの大きさのテーブルが置かれており、その上には地図と凹凸状のコマがちらばっている。


「ちらかってて、すまんな。そこに腰掛けてくれ。……秘書にも片づけてください、ってよく言われるんだが、片づけると物の所在が分からなくなっちまうクチでなぁ」


 言い訳するように、後頭部をかきあげるレオンに、かなり親近感が湧いた。あるある。来客用と思しきソファに腰掛けると、その正面にレオンも腰掛けた。


「ノア、すまんが茶菓子を用意してきてくれ。内容はお前さんに任せた」


 かしこまりました、と頷いた後に楚々とした所作で退室するノア。これって多分、いわゆる人払いだよな。ううむ、少しばかり緊張してきた。一人での交渉にも、いい加減慣れていかないといけないとは思うのだけど、難しいもんだ。しかし、退室する際に、こちらに向けて頑張ってください、と唇の動きだけで伝えてくれたノアの優しさが、弱気になりかけた心を奮い立たせてくれる。おう、頑張るとも。


「率直に聞こう。クロノ殿は、流麗王国の争乱をどう見る?」


 流麗王国が、同盟を離脱しようとした国に最初の軍事介入を行ったのは3年前のこと。宣戦布告といった手順を踏まずに『これは懲罰である』という一方的な宣告から始まった侵略行為。これに対し、元々流麗王のやり方に不信感を持っていた諸国は大変に憤った。そして、それ以前に独立していた諸国も、流麗王による報復を恐れた。結果として、軍事介入の10日後には『共生派』と呼ばれる勢力が結成されるに至る。


 あまりにも早い反抗勢力の結成に、流麗王国陣営も電撃戦を仕掛け切ることが出来ず、以降戦況は、泥沼の様相を呈していく。ちなみに『共生派』の早期結成の立役者は、なんと流麗王の一粒種であるディアモンド・アヌビシア王子その人なのだそうで、流麗王国の争乱は人種問題だけでなく、王位継承問題すらその懐に抱え込む事となった。


 なんでも王子は、長らく外遊の旅に出ていたらしく、亜人の人々との協力こそが、化石めいた流麗王国を蘇らせる為の鍵になる、という考え方をしているらしい。また、噂程度の信憑性でしかないそうなのだけど、亜人の恋人がいる、なんて話もあるとか。その噂が本当なのだとしたら、随分とアクティブなロミオもいたものである。結ばれぬ恋なら国を覆せばいいじゃない、みたいな。


「そうですね……個人的には、流麗王国陣営に強い憤りを感じています。せっかく平和な領域が増えているのに、それに水を差すなよ、と。」


 それが偽らざる本音だ。完全な共存社会を目指せ、なんて無茶な事は言わないけど、せめて戦争にはならない程度に仲良くしとけよ、と思う。……まぁ、それが出来るのなら、この世は涙の谷、なんて形容はされないんだろうけれど。


「しかし、流麗王が何か別の目的のために動いているのでは、という疑念も捨てきれていません。真意が読めないというか、すっきりしないというか。と言いますのも、彼の行動には優れたものと、拙いものが混在しているように思えるからです。彼が風聞通りの賢王ならば、それは不自然ではないでしょうか」


 口さがの無い言い方をすれば、優秀なんだか、馬鹿なんだか分からない、といったところか。政治手腕と魔術技術、そしてボルトアクションライフルなんてものを作らせる先見性から鑑みれば、相当に優秀な指導者のように見える。しかしその一方で、亜人の人々をいきなり追い出したりしたせいで、多くの同盟国を失っているし、奇襲のような形で戦争を仕掛けているのに、誰あろう自身の息子にそれを阻まれている。


 そのため、俺から見れば失策の様に思える事象も、流麗王にとってはまぎれもない成功なのではないだろうか、という疑念が心中に燻っていた。流麗王に、被召喚者の影がちらついているせいで、彼を過大評価してしまっている、という可能性も十分にあるけれど。


「なるほどなぁ。俺達から見れば流麗王はいけすかねぇ野郎、っていう認識が先に立っちまうが、そうした先入観のないクロノ殿にはそう映る訳か。ふむ、参考になった」


 興味深そうにこちらをみつめながら、レオンは顎を撫でた。あ、やっぱりガルフレイク的には流麗王はいけすかないヤツなのか。まぁ、国民の大半が亜人と何らかの形で密接に関わっている国と、亜人を全て排斥した国では、仲が良いわけないか。争乱が勃発してからは、雀の涙ほどの貿易しか行われていないようだし、関係も急激に悪化していたりするのかもしれない。


「流麗王陣営は、ゴーレムや先程の銃器といった優れた兵器を次々と生産しているようですが、共生派は今のところ、大丈夫なのですか?」


「あぁ、共生派はゲリラ戦を展開しつつ、罠や波状攻撃、そして補給線の断絶と言った戦法で上手く立ち回っているようだな。それとディアモンド王子が直々に率いる近衛魔道兵団は、流麗王国陣営の宝玉兵団とも互角、って話だ。そして、その脇を各陣営からの援助金で雇い入れられた、有力な傭兵団が固めている。戦況の膠着状態はまだ続くだろうな、と俺は見ているよ」


 宝玉兵団は、流麗王直属の近衛兵団だ。攻撃的な性格の紅玉兵団、守勢に秀でる蒼玉兵団、そして前述の2つの兵団を補完、バックアップする黄玉兵団。それらの兵団と互角、と称されるからには、王子が率いる近衛魔道兵団は、よほどの実力をもっているのだろう。……流麗王としては、優秀過ぎる息子の活躍を、どんな思いで聞いているのだろうか。


「それに、3軍の長は相当に仲が悪いようでな。それぞれが軍の実権を握る為に、足の引っ張り合いを演じている、なんて『噂』が聞こえてくるくらいだ」


 『噂』ねぇ。意味ありげな微笑を浮かべるレオンに、苦笑でもって返す。


「ちなみにその3軍の長は、どういった人達なんですか?」


「そうだな……詳細に関しては、後で書類を迎賓館に送るとして。ザックリと言えば『いくさ馬鹿と腹黒と老兵』って感じかね」


 その後に続くレオンの言葉を整理すると、こういうことらしい。


 いくさ馬鹿こと、紅玉兵団団長ローズマリー・ロートアイゼン・シュバリエ。身体強化魔術と火炎系魔術を得意としており、れっきとした貴族位を持つお嬢様らしいのだが、華やかな舞踏会よりも、鉄火場めいた戦場を愛している。戦術的な勘に優れており『なんとなく』で多くの策略や罠を食い破り、また戦局の要を抑えることで、勝利を積み重ねてきた。敵対する軍勢には苛烈にあたる彼女だが、降伏した軍勢や、一般市民には寛大な一面があるらしく、悪い噂はあまり聞こえてこない。


 腹黒、こと蒼玉兵団団長ハンク・ブラウシュランゲ・ツァオベラ。氷結系魔術を極めた、とすら言われる最上位の魔術師だが、上昇志向が強過ぎるせいで、周囲からあまり信頼されていないらしい。直接的な戦闘を忌避しているきらいがあり、主に調略や工作活動といったもので活躍している。そうした傾向からなのか、ローズマリーから蛇蝎の如く嫌われており、彼もまたローズマリーを低能、と蔑んでいるとのこと。  


 最後に老兵ことリヒテル・アルトヒルフェ・フェルトナー。流麗王の元教育係で、今は執事と軍師という役職を兼務している、老いてなお盛んな人物。事実かどうかは分からないけど、ボルトアクションライフルを開発したのは彼だそうで、身体能力では並ぶべくもない亜人に、正面から戦いを挑んで打倒できる武器の開発にずっと腐心してきたらしい。年の功と、王の側近としての発言力を背景に、前述の2人をたしなめる立場にあるそうだけど、前述の二人からはうるさ方、として忌避されている。


 ちなみにゴーレムは、流麗王が開発したものであるそうな。……妙な話だけど、少しだけ安心した。どうやら彼らがマインドコントロール下にある様子はないようだし、革新的過ぎる技術に関しても、天才的な技術者が苦心した結果生まれたものである、と結論することができそうだ。もちろん、そうした情報に誤りがない、なんて断言することは出来ないのだけど。


 もしも流麗王国の争乱を『遠見の水晶』で覗き見ることが出来れば、色々な問題も解決するのだが。『遠見の水晶』は他の魔道具の使用や、魔術によって生じる魔力波…電磁波のようなものだろうか…の影響を非常に受けやすい物らしく、少なくとも覗き見る場所に、魔力波があまり存在していないことが使用の大前提となるのだそうだ。その為、戦場や都市部を覗き見ることは不可能であり、応用技術で作成された『平和の鍵』も地下深くに作られた、魔力波を遮断する部屋でしか使用することは出来ない。


 まぁ、捨てる神あれば拾う神ありと言うか。もしも『遠見の水晶』が問答無用で様々な場所を覗き見ることが出来る代物だったら、文字通りおはようからおやすみまで、各国の人々に熱い視線を注がれる破目になった訳で。……プライバシーもなにも、あったもんじゃないな。


「レオン将軍、ガルフレイクとしては、これからこの争乱にどのように関わっていくおつもりですか?」


 転じて、この一件に関して私に望むことはなんですか、という意味合いを含ませて聞いてみる。はたしてその真意は正しく伝わったようで、レオンは微笑を口元に浮かべた後、腕を組んだ。


「今のところは、静観だな。……こいつは独り言だが。お前さんは変に気を回そう、なんて考えなくてもいいんだぞ。どうしても協力してほしい、なんて事態にならないように、俺達おっさん連中は日々頑張っている訳だしな。お前さんは恋に恋して、美味い物食って、太平楽に過ごしてくれていても良いんだ。……その日が来れば、そんな日常は望むべくもなくなっちまうんだからな」


 無理に背伸びをしようとする子供をたしなめる様な、余裕と優しさが混在した独り言。その日、とは『大破壊』のことだろう。要するに、今のうちに遊んでおけ、ということだろうか。うぅむ、そうしたいのはやまやまなんだけど、召喚者の少女や、被召喚者の有無といった問題が解決しないうちは、そうも言ってられないんだよなぁ。


「これも、独り言ですが。そうですね、私もそのように過ごしてみたい、と思っています。ただ、私がこうした力を持ったことには、なんらかの意味があると思うのです。だから、私にしか出来ない事があるのなら、それを成したい。……どうかこの世界で起きている全てを教えてください。貴賤も、綺麗も汚いも区別なく」


 知っているからと言って、その全てをヒーローのように解決することなんて出来ないかもしれない。それでも。何も知らないまま、いつのまにか手遅れになっていた、なんてオチだけは絶対に承服したくなかった。『それ』を知ったことで、一時的に胸が張り裂ける様な痛みを感じたとしても。ハッピーエンド、なんて称することが出来る未来のためには、それらは必要不可欠なのではないか。そんな、確信めいた思いがあった。


「……いつの時代も若者ってのは眩しいもんだな。まるで散歩にでも出かける様な気楽さで、絶壁めいた道を往きやがる。あーあ、そんな当たり前の事も失念しちまうなんて、俺も年をとったもんだ」


 かつて、絶壁めいた道を選んだ先達は、過ぎ去った道程を懐かしむように。そして、今からその道を歩きだそうとする若人を祝福するように、微笑んだ。


「良いだろう。ガルフレイク陸軍省将軍、レオン・ラインハルトの名において。クロノ、お前に陸軍省が手に入れた情報の全てを提供することを、ここに誓おう」


 力強い首肯が嬉しくて、自然、笑みを浮かべていた。そんな俺の表情を見て、レオンはその微笑みを深くする。俺のチート能力は、スタンドプレーが可能なほどに、強力なものではある。だけど、人が持つ最大の強みは、腕力でもなければ、強力な兵器でもないと思う。協力し合える事こそが、きっと最強なのだ。

 というわけで流麗王国争乱についての説明回でした。


 そして、クロノは協力という第一義を踏まえながら行動していくことにしたようです。……この物語において、調子に乗った主人公が痛い目を見たり、信頼を失ったりする様な展開はありません、ってことです(笑)

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