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ちぇんぢ!!  作者: 草加人太
暗黒大陸編
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ディノ

 ヒロイン登場回です。主人公は彼女にくびったけです(笑)

 被異世界召喚者の朝は早い。夜明けと共に起床し、顔を洗うために厨房に向かう。痛いほどに冷たい水で顔を洗えば、眠気はほとんど吹き飛んでくれる。顔を洗い終わったら、朝食だ。今日はホカホカの白米と、辛子明太子、そして日本茶を作成した。昨日まで読み進めた本を読みながら、それらを食べ始める。


「いただきます」


 白米と辛子明太が奏でる味の合唱を楽しみつつ、窓の外に視線を遣った。俺が異世界に召喚されて、早いものでもう1か月の月日が流れていた。この一か月の間、俺はひたすら本棚に仕舞われた本や書類の類を読み進めていた。そのお蔭でこの世界に関することが、徐々にではあるが分かり始めていた。


 この世界はメリクリウスと呼ばれる世界らしい。一言でいうなら、本州が肥大化した日本列島みたいな大陸で構成された世界で、魔術や魔物というファンタジーな存在が当然のように存在する世界でもあるようだ。文明の発展具合は国によって違いがあるものの、概ね中世ヨーロッパからルネサンス期くらいまで、といった感じ。しかし、魔術というものが存在するお蔭で、生活水準はそれほど悪くはないようだ。現実世界における中世暗黒時代のカオスっぷりはドン引きものだから、その点はありがたい。


 ちなみに、今俺がいる場所はリントガイア暗黒大陸と呼ばれている場所だ。リントガイア暗黒大陸はさっきの例えで行くなら、九州の位置に存在する大陸で、多くの強力な魔物が生息している人外魔境だ。しかしその反面、豊かな鉱物資源や高価な素材の元となる動植物も数多く存在しているフロンティアでもある。


 その為、今まで数多くの国々がこの大陸に開拓団を送っているようなのだが、成功したことは一度もなかったようだ。この砦も、日本でいえば四国にあたる大陸を支配する、ガルフレイク亜人商業連合という国が開拓団を守る為に建築した砦だったらしい。ある程度完成させた建築材を艱難辛苦の果てに輸送し、高価な嫌忌薬品を湯水のように使い、1日である程度の形にしたということが誇らしげに作戦報告書に記されていた。


 しかし、暗黒大陸の異名は伊達ではなかったらしい。日記の類を見てみると、順調に進むかのように思われた開拓は、ヴァイオレントマンティスと呼ばれる大型の昆虫型魔獣に執拗に襲われるようになり頓挫、最終的には撤退を余儀なくされたようだ。武器や食料がまるまる残されていたところをみると、相当切羽詰まっていたのだろう。


 本州にあたる部分はフィルレウス栄光大陸と呼ばれ、人類…といってもエルフやドワーフ、犬人、蜥蜴人なんかもいるらしい…が最も繁栄している大陸なのだそうだ。ただし、各種族間に色々と確執があるらしく、長く戦乱が続いている。フィルレウス栄光大陸に存在する国々は大きく分けて4つの勢力にまとまっており、現在は小康状態が続いているようだ。


 多神教であるレーム教を国教とする国々がまとまった神聖レーム同盟。強力な軍事力を背景に、数多くの植民国を抱えるヘラクレア帝国。緩やかな同盟関係で結ばれたグリーングラス都市国家連合。そして人間至上主義を唱え、亜人排斥運動の急先鋒であるルビー流麗王国を核とする人間同盟。


 それらの勢力が少しでも自分たちの支配領域を広げようと鎬を削っているらしい。なんともご苦労なことである。ちなみに、この砦の持ち主であるガルフレイク亜人商業連合は、建国以来大陸の戦乱には中立的な態度を保っており、十分な金銭と引き換えなら、ルビー流麗王国陣営にも物資を売りつけているらしい。いやぁ、どこの世界においても商人ってのは強かだね。


 最後に、北海道にあたる場所。ここは魔王領と呼ばれている。年中、猛烈な吹雪が吹き荒れている白骨大雪原と、広大な砂漠と急峻な山岳地帯が混在するディアボロス大枯渇領域という、両極端で過酷な自然環境に育まれた魔物は、暗黒大陸に生息する魔物を上回るほど強力であり、その魔物達を力で支配する魔王という存在は一国の軍隊すら上回る実力を誇るのだそうだ。


 この魔王は周期的にフィルレウス栄光大陸に遠征を仕掛けてくるらしく、この時ばかりは普段殺しあっている勢力同士も轡を並べて、魔王軍と相対するらしい。ただ、魔王軍の遠征による被害は凄まじいものがあり、その侵攻をなんとか防ぎきっても、数十年は国力の回復に傾注する必要が発生するとか。…なんかこの魔王ってもしかしたら大陸のパワーバランスに介入してる感じの存在なんじゃないか?まぁ、ただ単純に人類絶滅計画を何度も失敗してる残念さんの可能性もあるけど。


 まだ見ぬ大陸に思いを馳せていると、手元の日本茶に波紋が発生していた。なにか巨大な生き物がこちらに向かってきているような…足跡のような振動が、辺りを揺らす。何かから逃げるように鳥たちが鳴き、木々が押し倒されるような破砕音が響く。


「またかよ…めんどくさいなぁ…」


 俺はすぐさまフルプレートを装着すると、ハルバートを持ち、AKを腰の辺りにベルトで固定して、2階から外に飛び出した。



「今度はキングコングか…いやはや、飽きないね、この森は」


 目の前には、10m超の屈強な体躯をほこるゴリラめいた魔物が敵意を隠すことなく、佇んでいた。体に刻まれた幾つもの傷は歴戦の強者であることの証明か。空気を振動させるような雄叫びを発したキングコングは、その巨体から想像もつかない速度で突っ込んできた。しかし、この暗黒大陸で1か月生き抜いてきた俺からすれば、その動きは遅すぎた。


「せいやあああああ!!」


 裂帛の気合を込め、キングコングの懐に飛び込む。助走の勢いを殺さずに跳躍し、一瞬でキングコングの胸元あたりまで肉薄した。そして独楽のように回転し、空気を切り裂く音と共にハルバートを振う。刹那、ズドン、という爆発にも似た音が響く。キングコングの肩口辺りを蹴って更に跳躍し、着地する。それから俺は、キングコングの首が吹き飛んで、砦の中庭に転がるのを横目で確認した。残された体はピクピクと痙攣した後に、轟音を立てながら倒れ伏す。


「うーん。37点ってところだな。腕力は強いんだろうけどさ」


 ハルバートをヘリのローターのように回転させ、刀身に付着した血液を飛ばす。この砦に住み始めてからというものの初日以外、毎日巨大な魔物が襲撃を仕掛けてきていた。電車ほどのサイズがある大蛇や、5mほどのクモとカマキリを足して2で割ったような奇妙な昆虫。


 しかし、俺はその全てを一撃で叩きのめしていた。最初の遭遇戦こそ恐怖と絶望のあまり、吐きそうになりながら、膝をガクガクと震わせて戦ったのだが、まーこいつらが弱い弱い。どうやら俺の肉体は、テンプレな無双系ステータスを保有しているらしく、おそらく先程のキングコングが全力で俺を殴りつけたとしても、幼稚園児に殴られるのよりも効かないだろう。鎧が歪むかもしれないから、避けるけど。


「おーい!!ディノー!!ごはんだぞー!!」


 ハルバートに付着した血液を飛ばし終わった俺は、森林に向けて叫んだ。すると、先程と同じように木々を押し倒す音と鳥の悲鳴めいたさえずりが響く。


「おー、来たか。今日はお猿さんだ。たーんと食べるんだぞ」


 目の前に真紅の角や棘に覆われ、逞しい腕と鋭い爪を持ったティラノサウルスのような魔物が現れた。体長は15mほどだろうか。しかし、ディノと呼ばれた魔物の目に敵意はなく、それどころか親愛の情が宿っている。この魔物は異世界生活2日目に砦の中庭に逃げ込んできた魔物だ。


 傷を負っていたこいつを捕食する為にやってきた、ムカデとカマキリに悪意を混ぜて合成したような魔物を俺が倒したことが縁になって、半ばペットのように世話を見ている。名前は恐竜っぽいからディノ。倒した魔物を貪るように食べている最中に名付けてみたら、喜んでいたので、そのまま呼び名にしている。ここに逃げ込んできた当時は8mほどの体長だったが、俺が討伐した魔物を食べているせいなのか、急激に成長していた。


「よしよし、お前は本当にかわいいなぁ…」


 角の辺りを中心に、頭をなでてやる。するとディノはくすぐったそうに眼を閉じると、甘えるような声をあげた。うむ、本当にかわいいヤツである。しかも少年のロマンを結晶化したようなかっこよさだし。一通りなで回して気が済んだ俺は、キングコングの死体までディノと一緒に歩いた。


「よし、食べていいぞ」


 そう許可すると、ディノは一際嬉しそうな声を上げた後にガブリ、とキングコングをむさぼり始めた。白木を折るような音と、肉を貪る音が聞こえてくるが、なんかもう慣れた。ディノがキングコングの死体を食べ終わるまで、俺は砦の入口辺りに生えている木に背を預け、読書をすることにした。第三者からみたら、魔物が捕食活動をしている横で呑気に読書をしているというシュールな光景なんだろうが、俺たちにとってはとても心穏やかな一時だった。


「んー?どうした、ディノ?」


 骨の一本すら残さずにキングコングを食べ終えたディノは、赤色の宝石をこちらに投げてよこした。あの腕、物を投げたりも出来るんだなーと思いつつ、宝石を手にしてみる。ルビーのようだが、見る角度を変えてみると、七色に輝いている。


「これは?綺麗な宝石に見えるけど…」


 小首をかしげる様な仕草をしてみると、ディノは手を握ったり、開いたりを繰り返した。握りつぶせ、って言いたいんだろうか。宝石を握り、力を込めるような仕草をする。ディノはうんうん、とうなづいた。なにこのかわいい生き物。言われるままに、俺は赤い宝石を握りつぶした。ガラスを砕いたような音が手のひらから聞こえ、砕けた赤い破片は溶けるように赤い光へと変わった。その光は少しだけ空中を泳いだかと思うと、俺の体に吸収されていく。


「えーと。今のなに?」


 再度小首を傾げてみると、ディノはうんうん、と頷いた後に一鳴きすると、森の中へ帰って行った。うーん。なんだったんだろう。心なしか、体の調子が良くなったというか…力が漲るような感覚がある。なんというか、レベルアップみたいな効果がある宝石だったのかもしれない。かわいい上に、主人思い。しかもこんなのを探してくるあたり、とても賢い。かわいいよ、ディノかわいいよ。

 恐竜って男のロマンだと思うの。さて、主人公はいつになったら普通の人に出会えるのでしょうか。

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