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ちぇんぢ!!  作者: 草加人太
ガルフレイク編
14/37

ディノはおねーさん

 この前、投稿した時はお気に入り数が60くらいだった記憶があるのですが…仕事から帰ってきて確認してみたら、1000をオーバーしていました。リアルに『あばばばばばば…!!』と取り乱してしまいました。まさにポルナレフ状態(笑)


 沢山の応援の言葉、感謝します。これからも、皆様に楽しんでいただけるようなお話を作れるよう、頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします!!

  

 今回は主人公の身体能力についての説明回でもあり、前回自覚するようになったレオナの好意に対して主人公が思い悩むお話です。

「黒騎士様、どうぞ、タオルになります。それと、もうそろそろ昼食の準備が整いますが、いかがいたしますか?」


「あ、これはありがとうございます…もうそんな時間でしたか。部屋で湯を浴びた後、すぐに向かいますので、ディアナさんとレオナさんにそうお伝えください」


 船旅2日目から行うようになった鍛練を終え、俺はタオルで額の汗をぬぐった。鍛練は夜明けから正午に至るまで、甲板の上で行うようにしている。自分自身の身体能力がどの程度のものなのか。そして鍛練方法はどのようなものが最適なのか。そういった諸々の事柄を模索すると同時に、船員や騎士団の人々に『こうした鍛練を重ねているが故に、黒騎士殿は強いのだな』とアピールする良い機会だと思ったのだ。


 一応、俺は暗黒大陸で『老師』と呼ばれる武人によって、子供の頃からみっちりと鍛練されていたという設定だから、全く運動しないというのはおかしいし、元々運動は好きな方である。更に言えば、毎日美味しい物を食べているのに動かないとか、メタボリック一直線だ。それだけは避けたい。


「かしこまりました。お着替えはいつも通り、ベッドの上に置いておきますので」


「はい、お願いしますね。それでは、また」


 そう返して、俺は自室として割り振られている部屋に向かった。歩きながら、自分の身体能力について考える。今のところ、身体能力の限界というものは全く見えてこない。ディノを背中に乗せたまま、片手小指腕立てを5時間ずっと行っても、ダラダラと準備体操を行ったくらいの疲労しか感じないのだ。さすがにエキセントリックすぎる鍛練方法だったようで、その夜の晩餐会でレオナに『驚きを通り越して笑ってしまいました。ごめんなさい』と非常に正直な感想を言われてしまった。


 それと、この異常ともいえる身体能力を十全な状態で発揮する為に、どうも俺の周囲だけ物理法則そのものが歪んでいるらしい、ということも分かった。俺がメイン武器として使用している『鉄槌の王』あれ、重さがおよそ1tあるのだそうだ。そんな代物を俺は、木の棒か何かの様に振り回していたわけである。


 これは、物理的にあり得ない。どんなに力があったとしても、俺の体重が1t以下である以上は、どう頑張ってもバランスを崩してしまうはずなのだ。マネキンの腕の部分に、鉄骨を取り付ける光景を想像してみれば分かりやすい。


 初代皇帝ガルフレアはその問題を武器や鎧の重量を軽減する魔術…恐らく重力制御系魔術だと思われる…を使用することで解決していたらしいが、当然、俺にそんな技術はない。まだ推測の域を出ない話ではあるが、単純な馬鹿力でないことは、確かなようだ。


 それと一番の謎は、これだけの身体能力がありながら、日常生活は普通に送れるという事だろう。俺の腕力なら、ドアノブをねじ切ってしまったり、食事中にスプーン曲げ(物理)という事態を引き起こしてしまいそうなものだが、そういった事は起きていない。リアルスーパーマン状態とか、凄い孤独を感じそうだから、ありがたくはあるのだが。


 ちなみに今のところ、一番疲労を感じる鍛練方法は、ひたすら強く拳を握りしめる、という絵的に大変地味なものだ。どうも俺の図抜けた腕力と耐久力が拮抗しているお蔭で、一番肉体を酷使している、という事になるらしい。しかし、これはあまりにもアピール力というものに欠けているので、たまに行うだけに留めている。


 部屋に帰り着いたので、ササッと衣服を脱ぎ捨てて、部屋に隣接した浴場に入る。この浴場だけで俺が現実世界で住んでいた部屋の3倍近い広さなのだから、最初は笑ってしまった。しかも、水の温度を常に一定に保つ魔道具がタイルのように埋め込まれいて、いつでも適温のお風呂に入ることができるのだ。日本人として、これほど嬉しいことはなかった。中世ヨーロッパでは3か月に1回風呂に入れば清潔扱いだったなんて話を聞いたことがあったので、内心恐れていたのだが、少なくともガルフレイクでは風呂という習慣は大事にされているらしい。


 木製の桶にお湯を汲み、頭からかぶる。粗い繊維で編まれたタオルで、全身をガシガシと磨きながら、鏡に映った自分を見た。誰だ、この特殊部隊員は、といった体躯が鏡には映しだされている。この世界に来てからというものの、背丈は10cm以上伸びたように思うし、人並みでしかなかった体格が、今はバトル漫画めいた厳めしいものに成長している。よく漫画雑誌の裏に『これを飲めばムキムキに!!』みたいな、いかがわしい広告が載せられていたけど、異世界に来ればそんなものを飲まなくてもムキムキになれるようだ。



 昼食が終わり、午後になった。昼食の後は、読書の時間に充てている。まだまだこの世界については分からないことだらけだ。知らないのは仕方がないことだが、知ろうとしないことは恥ずかしい事だ、と昔の偉い人も言っていた。これからどのような異世界生活を送るにしても、知識というものはとても重要になってくるだろう。なので、レオナに頼み込んで、船に積まれていた様々な書物を集めてもらい、ひたすらそれを読みふけるようにしていた。


 一度、レオナから『その…家庭教師、とかご所望ではありませんか…?』とありがたい申し出があったのだが、人から教わるというのは、どうしてもその人の主観というものが混ざってしまう。なので、その申し出は丁寧に断りつつも、分からない点があったらすぐに聞きに行きます、という形でおさめた。


『オニイチャン、なんだか沢山の匂いが、風に乗ってきたよ。もう少しで着くのかな』


「そうだね、今日の夕方には大陸に到着するそうだよ。その後は沿岸部を航行しながら進んで行って、帝都ワークスブルグには明日の朝に到着するんだってさ」


 机の後ろにある窓から覗く、大きな瞳。レオナの家庭教師を断った、もう一つの理由がこれだった。ディノとゆっくりと話す時間をどうしても確保したかったのだ。最近はそうでもないのだが、丁寧言葉だけで話すというのは結構疲れる。その点ディノとの会話では、言葉使いを気にしなくても良いし、好意というものに思い悩む必要もない。


 レオナから寄せられる好意はとても嬉しい。しかし、もし仮にガルフレイクにおける交渉が様々な理由から失敗してしまったとしたら。どんなに好き合っていたとしても、別れざるを得ないだろう。それが怖いのだ。まだよくは分からないのだが、人を好きになる、人の好意に応える、というのは自分の心の一部を、相手に捧げることなのだと思う。もしも、心を捧げた相手とどうしようもなく別れることになり、10年後に彼女が、別の男性と歩いている所を見てしまったら…とても嫌なモノが胸に込み上げてくるのを感じて、慌てて思考をカットする。


 こんな、後ろ向きな思考を延々と繰り返しながら、結局は現状維持を目的にしてしまっている。もしかしたら、俺はとても卑怯な行いを、自覚を持って行っているのかもしれない。ただ、そうだとしても…そこまで考えて、思考がループしてしまっていることに気が付いた。読書が手に付かない。読み進めていた本に栞を挟み、腕を組みながら、背もたれに寄り掛かる。


『オニイチャン、どうしたの?とってもつらそうなお顔をしているよ?悩みがあるなら、ディノにお話してほしいの…』


 どうも、考えていた内容が全て表情に表れていたらしい。ディノがその瞳に気遣うような色を混ぜて、こちらをみつめている。心配させてしまった上に、私事を相談するというのは、正直心苦しかったが、俺は悩みをディノに打ち明けてみることにした。


「うん…あのさ、ディノ。レオナを、どう思う?」


『かわいい人なの。オニイチャンが気が付いてるかは分からないけど、鍛練をしている時とか、物陰からそっとみつめてるの。今日も、オニイチャンにタオルを渡そうとしてたけど、メイドのおねーさんが先に渡しちゃって、しょんぼりしてたの』


 えっ。そうだったのか…全然気が付かなかった。これは、かなり好かれていると考えて良いんじゃないだろうか。いよいよをもって、現状を維持するのが凄まじい悪行の様に思えてくる。


『オニイチャン、もしかしてレオナちゃんが好きなの?』


 確信を突く様なディノの一言に、息が詰まった。分からない。異性を好いたことも、また好かれたこともない俺はその問いに対する答えを持ち合わせていなかった。それでも何かを言おうと、口を開いてはみたが、言葉が出ない。そんな情けない様子の俺を見ても、ディノは優しさに満ちた瞳でこちらを見る。


『焦らなくて、いいと思うの。前にシロディールちゃんが話してた。恋はするもの、愛は育てるものだって。ディノは龍だから、恋とか、愛とかが分からないの。でも、多分オニイチャンもレオナちゃんも、恋をしているんだと思うの。でも、それを愛にしていくのには、まだまだ時間がかかると思うの』


 だから、ゆっくりと歩く様な速さで、触れ合っていけば良いと思うの。そう言葉を結ぶディノ。少しだけ、涙が出てしまった。


「俺は…このままでいいのかな?」


『それを決めるのはオニイチャンなの。というよりも、好意を寄せられたからって、必ずしもそれに答えなきゃならないなんて決まりはないと思うの。ディノのお母さんは、気に食わない男が言い寄って来たら、モグモグしてたの』


 眉根を動かして、微笑むような表情を浮かべるディノ。それはそれでどうなんだろう、と思いつつも、俺の心は凪のように静まっていた。そっか。不義理を行う訳でもなし、すぐに答えを出す必要なんて、ないのかもしれない。俺がレオナに抱いている好意は恋心と言えるようなものなのか、それとも悪い気はしない、程度の物なのか。まだモヤモヤするところはあるけど…ディノが言うように、歩く様な速さで少しずつ理解していこう。


「ありがとー、ディノー!!お前のお蔭で悩みが吹き飛んだよ」


『えへへ、ディノこう見えておねーさんなの。これからもたくさん相談するといいの』


 ティラノサウルスのドヤ顔なんて初めて見るけど、それ以外に表現しようがない表情で、ディノはうんうん、とうなずいた。かわいい。抱きしめたい、このドラゴン。


「ディノ!!今すぐ抱きしめに行くから、甲板で待っててくれ!!」


『きゃー。ディノ、嬉しいの。角をたくさん撫でてほしいの』


 任せとけ、と答えてから俺は部屋を飛び出し、甲板の辺りで浮遊していたディノをひたすら抱きしめ、角を撫で回した。そんな姿を、船員や騎士団の人々が苦笑を浮かべながら見守る。少しだけ、成長できたかもしれない。そんな気がした、昼下がりであった。

 寄せられる好意に対して、ゆっくりと対応していくことにした主人公。この主人公の決断については、様々なご意見があるかとは思いますが、見守ってもらえると嬉しいです。


 本来は主人公が様々な人に恋愛相談をする、というエピソードだったのですが、ディノの人気高騰をうけて、急遽プロットを変更し、ディノ成分を濃くしてみました。


【鉄槌の王】

 主人公のメイン武器。漆黒のハルバードであり、先端に斧と槍が取り付けられているような形状。槍の部分には『変革』の神代文字が刻まれている。特殊な技術によって鋳造されており『たとえ天が降り注ぎ、大地が割れ砕けたとしても、この武具が壊れることはない』と伝承されている程の頑強さを誇る。しかし、その重さも図抜けており、この武器の点検清掃はガルフレイクの新人兵士達が最も嫌がる仕事の一つである。

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