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ちぇんぢ!!  作者: 草加人太
暗黒大陸編
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船出と優しい龍

 お気に入り件数が50件を超えました!!パソコンを眺めながら、果てしなくニヤニヤしてしまいました。皆様のご期待に沿えますよう頑張りますので、どうかこれからもお楽しみください。

 高速船に到着してみると、船が座礁していた。恐らくディノを乗せる為であろう、大きな鳥かごみたいなものが付いている船は問題ないそうなのだが、様々な意匠の彫り物で彩られた客船が、座礁してしてしまっているそうな。うーむ、なんだか締まらないなぁ。俺達の冒険はここから始まるのだ、みたいな心持ちでいたのだが。出鼻を砕かれた思いだ。


「申し訳ありません、なにぶん暗黒大陸へ着岸する機会自体がそうないものでして…すぐに出航してみせますので、もう少しだけお待ちください!!」


 身長が190cmくらいはあるであろう、水牛のような角の生えた女性が頭を下げながら、そう謝罪してきた。うっわ、何がとは言わないけど、デカイ…。色々とデカイ。関係ないけど、デカメロンって単語が頭に浮かんだ。全くをもって関係ないけど。それと短パンと胸に巻いた布だけという恰好は目にイタイ。というか船員の一人一人が間違いなく平均以上の容姿とは…ガルフレイク、恐ろしい国だ…。


「座礁…というと、船底が岩に引っかかったのですか?」


「いえ、どうやら亜龍か何かの骨が海底にあったようでして…それに引っかかっているようなのです。前の記録では岩などはないということだったので油断してしまいまして…重ねて申し訳ありません…よーし、おめーら引っ張るぞー!!気張れーッ!!」


 おー、とほぼ半裸と称しても良い女性たちが、腰まで海に浸かりながら、船に結び付けられた縄を引っ張る。なにがとは言わないけど透けてる。今日ほど、フルフェイスの兜をかぶっていたことに感謝した日はなかった。多分、俺の今の表情はだらしがなく歪んでしまっていると思うから。この表情を見られてしまったら、エロガッパの誹りを免れんよね。


 10分か、それくらい。船員達の掛け声を聞きながら、浪打際でディノと戯れていたのだが、船は一向に動く気配がなかった。レオナ達は警戒態勢を取りつつも、なんだか焦るような様子でこちらをチラチラと見ている。恐らく、俺が心変わりしないか心配しているのだろう。こちらとしては、そんなつもりなんて欠片もないんだが。この辺りで、ガルフレイクからの招待を嬉しく思ってますよ、という事を行動を以てアピールしておくべきだろう。


「手伝いますよ。力仕事なら自信がありますからね」


 思い立ったら吉日。鎧はディノと遊ぶ為に外していたから、そのままの格好でザブザブと海の中を進む。急な事態に慌てる船員とレオナ達を尻目に、俺は船を持ち上げた。その場にいる全員の目が点になっているのを認識しながら、持ち上げた船を押し進め、そっと海面に下ろした。


「こんなものでよろしいですか?」


 ドヤ顔になりそうになるのを必死で堪えながら、さっき謝罪してきた女性に話しかける。というかチートめいた身体能力だという自覚はあったけど、船を持ち上げられるレベルだったか。なんとか押し出すくらいはできるかな、といった心持ちで挑戦したんだが。


「は、はい!!ありがとうございました!!」


 水牛角の女性が頭を下げると、他の船員たちも一斉に頭を下げた。なんか体育会系を思い出す所作だな。いやその辺を通り越して組事務所の人々、って感じか。砂浜に戻りながら服を絞り、水気を払う。


 レオナ達の感謝の言葉にも鷹揚に頷きながら、船員たちの動きを目で追った。やはりこうした特別な船に乗っているという時点で優れた技能を持っている人たちなのだろう。あっという間に出航準備を整え、甲板から豪奢な紋章が掘り込まれた階段が降りてくる。


「さぁ、どうぞ。商業の都ガルフレイクが誇る、最上級の船旅をお楽しみください!!」


 レオナが誇らしげに、船に向けて手を掲げた。両脇には武器を掲げた聖月騎士団の面々が整然と並んでいる。こういう戴冠式みたいな隊列って、騎士を題材にした映画とかで見たことはあったけど、まさかその中心を自分が歩くことになるとはね。人生とは分からないものだ。


 

 遠ざかっていく暗黒大陸を、船の隣でふよふよと浮遊しているディノと一緒に眺める。あそこに滞在した期間はたったの一か月でしかなかったけど、色々と思い出深い場所だ。


「ディノ、生まれ故郷を離れるのは、寂しくない?」


『少しだけ。でもオニイチャンが一緒なら、そこがディノがいるところなの』


 どこまでも優しい目でこちらをみつめながら、ディノはそう返してきた。うわぁ…なんかこれが愛なのかもしれないとか、らしくないことを考えてしまった。ディノはホンマにええ子や…俺をこの世界に召喚した、あのがっかり姫はディノの爪の垢でも煎じて飲むべきだろう。


「やはり、名残惜しいですか?黒騎士殿」


「えぇ、やはり生まれ故郷ですからね。それなりに、思うことはありますよ」


 後ろからレオナに声をかけられて、すぐさま思考を切り替える。身から出た錆、仕方がない事とはいえ、日常的に嘘をつかなくてはならない、というのは地味にストレスだな。まぁ、今更後悔しても仕方がないことだが。


「しかし、今は新天地へ赴くという喜びが、望郷の念を上回っています。もちろん、貴女方と一緒である、という事も単純に嬉しいですよ」


 そう答えると、レオナは花が咲く様に微笑みながら『嬉しく思います』とだけ呟いて、自分の仕事に戻っていった。どうもこの手の歯の浮く様なセリフは、この世界の女性達には好評らしい。俺も一応は男であるから、美人に好かれて疎ましいなんてことはない。それに宮廷政治なんかにおいては、少し過剰なくらいの美辞麗句を使わないと、失礼な人扱いされるらしいから、今のうちにこういうのに慣れていかなくては。


『オニイチャン、あの人たちには、その…なんで嘘つくの?寂しくない?』


「うん…俺は、少し特殊な人間だからね。仕方がないのさ。でも、ディノがいてくれるお蔭で、寂しくはないよ。ありがとう」


 周囲の人に聞かれても、言葉の趣旨を読み取られない様に気を払いながら、ディノに返答した。これからは、ディノだけが本音を晒した状態で話すことが出来る、唯一の存在になる。そのことに、少しだけ疎外感めいたものを感じながら、ディノに寄り掛かった。嘘をつく事を責めるわけではなく、まず第一に俺の心の中に吹く寂寥感みたいなものを気遣ってくれる。そんな優しい龍を愛おしく思いながら、俺は徐々に小さくなっていく暗黒大陸を、見えなくなるまで見つめ続けた。

 これからはこの欄を使って、本編ではフォローできなかった物や人について説明していきたいと思います。琴線に触れた項目があれば、感想で教えて頂ければ善処します(笑)


【迎賓高速船ワダツミ】

 ガルフレイクが3隻所有している高速魔道船の一つ。高速航行が可能な高速船モードと波による揺れの大部分をカットできる迎賓船モードの2つの側面を持つ船。迎賓という主目的もあって聖月騎士団とは馴染みが深い。乗船する人物によって、船員チームを総入れ替えするという珍しい体制(イケメンばかり、あるいはガチムチばかりの船員チームも存在する)が機能している船でもある。


【ロッカ・ダナント】

 本編で主人公が水牛角の女性と呼んでいた船員チームの班長。茶髪で鳶色の瞳。23歳。身長193cm、バレーボールサイズの胸部という色々と大人物な女性。姉御という言葉がよく似合う、サバサバした性格の持ち主…なのだが、典型的なアジア人の特徴に漏れず、童顔気味だった主人公を見て『やべぇ、組み伏せたい…』とか思っていたのは秘密。主人公の腕力を見て『組み伏せられたい…』とか思ったのはもっと秘密。

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