喧嘩無双
真砂にとある文房具店がある。そこは高校からも近く客はほぼ無限に沸いてくると立地としても申し分ない。この土地に誰よりも先に目をつけたのが「文房つくし」の店長正子。昼は学生の相手をしている気のいいおばさんだが裏の顔がある。
真砂だけでなく近隣の不良を集め戦わせてる地下施設を運営している顔が夜の顔。昼では真砂の母と言われ夜は女帝と言われた正子は今日も若い肉と血を見ながらワインが進む。
「あの坊や動きはいいけど育つ前に潰されそうね」
金網の囲まれた六角形のリングで若者同士が素手で殴りあって血を散らす。その光景に観客は湧き上がり興奮していく。当然賭けも発生し連日闘技場は大盛況であるが正子に唯一の悩みがあった。
「まったくあの男だけさえいなければもう少しバランスとれるのに」
闘技場で戦う者は十代から年上でも三十手前。街の喧嘩自慢や元格闘家。たまに噂を聞きつけた本物の格闘家もくるが、この闘技場で長い間チャンピオンに君臨している男が強すぎて賭けが成立しなくなっている。
「話題性も強さもあるんだけど、対抗できる選手がいないのも考え物ね」
前座の試合も終わりメインの試合に入るとリングに一人の男が出てくる。背丈は二メートル近くあり熊のような男だった。歳は二十代後半で調子に乗っている若者を捻じ伏せてきた猛者……その正面に現れたのは胴着姿の男。
「あんたがチャンピオンか。チビだな」
熊のような男が馬鹿にすると胴着の男は目元まて伸びた髪の隙間から瞳を光らせ構える。この試合に審判はいなく双方が納得いくまで戦う完全決着ルール。
熊のような男が丸太のような太い腕を振り回し殴りかかってくると動きが止まる。観客がその巨体に隠れた胴着の男が何をしたのかを確認したのは熊が倒れた後だった。
「まったくあいつも少しは盛り上げってのを考えてほしいわ」
鍵突きで熊の脇腹を貫き骨まで破壊した胴着の男はどこか退屈そうに溜息を吐き去っていく。リングには観客達の溜息だけが残る。
「まったくその名に恥じない強さね喧嘩無双」
その男は喧嘩無双と呼ばれている。空手の使い手で今まで一度として負けを知らない。総合格闘技ブームもあり喧嘩無双に挑む組み技系の相手もいたが組む前に拳で沈んでしまう。あらゆる格闘技に精通していて相手のする事に最善の返しで返す。
「まったく所詮は素人集団の集まりなのにここは、誰よあんな悪魔連れてきたの」
無論喧嘩無双も素人には変わりない。ただ強すぎる、素人のレベルを遥かに超えていた。何より驚くのは実年齢四十八。
若者だらけの闘技場で老人手前の男がチャンピオンをしている。真砂だけではなく近隣の不良達には許せなかった。ただえさせ大人に反抗したい年頃なのに爺がチャンピオン……挑戦者は後を耐えないが今夜も悲鳴が響く。
「やれやれ最近の餓鬼は体が細い。俺と喧嘩したきゃまず飯をちゃんと食え」
数人倒した後喧嘩無双はそう言い去っていく。