うんこ漏れた
うんこ漏れた。
何てことだ、俺は恐怖に固まった。
俺の名は池面太郎。池面・太郎ではなく池・面太郎な。
高学歴・高収入・高身長と超お得物件でルックスは当然のようにイケメンだ。足も長いぞ。
まさしく 完璧超人といえよう。
そんな俺が。
何の因果か。
うんこ漏らしてしまった。
あわわエライこっちゃ。
やばいやばい。
何がヤバイって今から見合いなのがやばい。
俺は生まれつき全てを持ってる男なので恋愛結婚とかに夢を持っていないので見合い結婚大いに有り派だ。
てか恋愛なんてのは結婚を前提とせずに合体行為を前提としてするもんだ。
ブサイクでデブでチビでハゲで低所得者で居なくなっても社会的に問題にならないお前らにはわからんだろうが俺のように身分あるイケメンは見合い結婚で見合った相手と結婚するのが一番なのだ。
ちなみに見合いの相手は……まぁ名前は良いとして。かなりなんてもんじゃないレベルのスーパー金持ちの家の娘とだけ言っておく。長女だが上に男兄弟が二人居るので結婚したら向こうの家の家族はオプションとして付いてこない。
ルックスはブサイクだ。整形とかしてるみたいだがそれでようやく人並みくらい。良い服を着て合わせてもらっているのでそれらを総合すれば若干見れるかもってレベル。
性格は調査した限り悪くなく、着飾る事に散財したり本気で世話をしてないらしい犬を何匹も飼ってたりするくらいで金持ちとしては若干趣味が大人しいのが気になるがそこら辺は結婚してからもうちょい派手にしていけば良い。
固定の友人はそこそこだがそれらにあまり好かれていないとか。
全ての条件を総合して言えば、めっちゃ好みだ。
一生を添い遂げる相手としてこれ以上は望めまい。
そんな相手との見合いで柄にも無く緊張してたのか、そういえば昨日の夜も今日の朝もウンコしてなかったなぁ。
今更に思い出したよタハハ。
どうしよう。
せっかく見合いを申し込んで受けてもらえて、上手くいけば完璧な人生に更に一歩近づけるところだったのに。
あぁ、パンツ脱ぎたい。
しかし俺はゴルゴの次に時間に正確な男。
それが裏目に出てしまいパンツ脱いで捨てる時間なんてありゃしない。
だって見合い相手が来るのを待ってるところだもん。
横に居る仲介人は相手の人、将来の俺のお嫁さんになったら良いのになぁって思う人の親戚で俺の上司。
ウンコ漏れた瞬間は幸運にも電話で少し離れていてくれたので音は聞こえていないがばれたらヤバイ。
イヤむしろ知っててくれたら俺がパンツ脱ぐためにちょっと席を離れてもフォローしてくれたかもと思うがもうそんなタイミングではない。
だって向こう方も今到着したみたいでこの部屋に入るまで1分切ってるらしいし。
オッサンが電話で聞いてそうだといってた。
とりあえず紳士の身嗜みとしてにおい消しのスプレーの一つくらい持っているがこいつはあくまで体臭消し、汗に対応したものでしかなくウンコのにおいには勝てまい。
まぁ俺は健康に気を使いまくりでベジタリアンなところもある男。
人に比べてウンコは臭くないはず。
そう考えて、目の前にやってきたドストライクの女性との見合いに本気で取り組む。
予定では今回のお見合いで勝負を決めるつもりだったが仕方ない。予定変更だ。
下手なやり方だが今回は「あなたも緊張しているようですし」とか爽やかに言って早めに切り上げる流れにして3~4回目のお見合いで勝負をつけるようにしよう。
俺がそんな相手の顔色伺うようなブサイクみたいな真似をするのは屈辱だがウンコバレの危険に比べればな。
隣でオッサンが俺を紹介してくれてるので俺もそれに合わせて頭を下げる。
俺が着ている服はスーツだがこの部屋は和室で現在は正座中。
クソを潰さないように左右のケツ肉を踵にのせケツの真ん中に遊びのスペースを空けるように座る事ができるのは不幸中の幸いといえよう。
椅子に座ってたらベチャベチャして気持ち悪いからなぁ。
足がスゲエしびれる座り方だが俺は我慢も出来るイケメンなのだ。
仲介人及び付き添いからの紹介も終わりようやくお互いの挨拶だ。
手早く切り上げつつ良い印象も与え次もよろしくという流れにしなくてはな。
ウンコこそ漏らしたが今日の俺はすごく頑張った。
果たして俺以外の誰に出来よう。
ウンコ漏らしてなお、お見合いを綺麗に済ませる事なんて。
一般的なお見合いの流れを多少逸脱したが早めに二人きりになり匂いがばれるとやばいので常に風下をキープしながら体の接触も最低限に抑え散歩しながらの談笑。
正直な話、一瞬ウンコの事も忘れて心を奪われるほどの楽しさもあったがキリッと引き締めなんとか早めに切り上げてくれたわ。
ウンコさえなければこの後二人だけでどうですか、とかそんな流れも出来たのに。惜しい。
しかし今日の俺はウンコ漏らし野郎だ。
深追いは禁物よ。
相手方もとても楽しかったと言ってくれたし良い印象を与えまくりのはず。
ウンコさえなければと思う反面、ウンコというハンデを抱えたからこそここまでのパフォーマンスを発揮できたのではと思う部分もある。
まぁ二度と漏らさんがな。
そしてお見合いを終え週をあけた月曜。
仕事を終え家に帰ってきたら手紙が来ていた。
差出人はお見合いの相手からだ。
次の日曜にもう一度と約束しているのにこんなに早く手紙のやり取りをしてくるなんて、という思いと俺からも出した方が好印象だったかもとか、そんな思いもあるがさっそく開けてみたら。
『先日はとても楽しいひと時でしたがウンコのにおいする人は生理的に無理です。この事は誰にも言うつもりはありませんが私達の関係はなかった事にしたいと思います』
……うーん、こんな筈じゃなかったのになぁ! くそー!