何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をしたのかわからなかった
朝起きたら隣にアリアが寝てた。
全裸で。
少々飲みすぎた帰来が頭に重くのしかかり、口の中が渇いてしょうがない。
全身が水を欲しているのを強く感じながら体を起こして気がつく…俺も全裸だった。
確かに最近あったかいけど、裸で寝るとそれはそれで寒いなぁ……とか関係のないことを思いながら、ベッドを見下ろす。
流れる銀髪はベッドの上で乱れ、なぜか俺の分の毛布を全て強奪した挙句にお腹だけにかける、というなんとも贅沢をしている女は、普段の態度からは想像もつかないほど静かに眠っている。
時折その薄い…いや失礼、スレンダーな胸やお腹が上下して、寝息が聞こえてくる辺り、眠りはまだまだ深いようだ。
さて…立ち上がってカーテンを開けて、窓から太陽の明かりを存分に受け取ってもいいが、どうにも頭は覚醒しきらない。
ぼんやりと靄がかかり動くことを拒絶した頭は楽をすることを決意してしまう。
右手を伸ばし、軽く念じると微弱な風魔法を発動、その風圧でしっかりと閉じていたカーテンをわずかにだけ開かせて陽の光をかすかに取り込む。
思い切りシャーッと気持ちよくあけてもいいけど、寝ているコイツを起こすのはなんだか申し訳ない…。
「水…動きたくない、ぅぁー……」
自分で言うのもなんだが、まるで地獄の底から這い上がってきたばかりの死人のような声をあげながら、アリアの髪の毛をなでる。
恐ろしいことにこの女の髪の毛は、昨夜あれだけ乱れたにもかかわらず梳いた指が引っかかることのないサラサラヘアーだった。
そんなどうでも良いことを羨みながら、大きく口を開けて上を向く。
慣れ親しんだ店舗兼住宅の天井が視界いっぱいに広がる中で、何もない空間から水が出てきて、俺の口をいっぱいに満たすイメージを強く持つ。
あとは軽く念じて水魔法を発動。
既に描いていたイメージのとおり俺の口の中は清涼で冷たくてなんとも、身体に染み込んでいくかのような水で満たされた。
喉を鳴らしてそれを飲み込むと、アルコールの分解で体内から激しく失われていた水分が戻ったことに身体が歓喜をあげる。
その歓喜は瞬く間に俺の全身を駆け巡り、寝起きの頭が最初はゆっくりと、すぐに急激に覚醒していく。
つまるところ―――
「んっんー…目が覚めた」
寝癖で大変な事になっているであろう頭をかきむしり、軽く手櫛で整えながらあくびを一つ。
未だ夢の中から戻ってきそうにないアリアを起こすかどうか少しだけ迷い、お腹にだけかけられている毛布をそっとかけなおしてやることに。
そのとき、微かに上下する胸に視線を奪われ、昨夜あれだけ楽しんだその部分を指でぷにり。
大きさはないが適度に柔らかいその部分が楽しくて、続けて何度か指でぷにぷにと触っていく。
「ぁ……んんっ……」
おっと、やりすぎてしまったみたいだ。
寝息だけでアリアから抗議が帰ってくると、しょうがないので手を離す。
ちなみに先端のピンク色の部分までばっちりと眼に焼き付けておいて、今度眼にする日まで脳内メモリに保存する事を決定とした。
さて、それじゃあ着替えて朝ごはんでも作るかぁ……。
「俺というものがありながら、アリアから手を出すなんて最低だよ、今夜枕持参でお泊りしていい?」
「昨晩はお楽しみのようでしたね」
「よしわかった、文句つけに来ただけなら帰れ」
昨日の、特に夜のほうの疲れが色濃く残る俺は朝飯のための調理もそこそこに適当に食事を取っていた。
窓の向こうから聞こえてくる音がBGMで、庭の向こうを歩く人たちの一人一人がテレビの代わり。
この世界に産まれて数年したころの娯楽の足りなさにいやになっていた自分を、ふっと思い出しては一人で微笑。
ああ優雅…朝ごはんが終わり、食後の一服も終わりかけた時に来訪者が二人、突然現れて挨拶もそこそこに、ニヤニヤとした笑顔と恨みがましい視線を向けながら第一にほざいてくれた。
ニヤニヤしてる方がキョウ、完全無欠の平凡人間で、恨めしそうなのがレリクだ。
「なんで俺まで!俺はほら、別に良いだろ、こんなかわいい俺が家にいるとか眼福だよ!」
「うーん、ボクはほら…伝言を届けに来ただけだから、今日はどうせ仕事もなさそうでしょ?」
「あぁ、なるほど……んじゃあキョウには茶でも入れるけど、レリクは帰っていいぞ」
「ボクはいいよー、別にすぐ帰るし…わざわざおもてなししてもらうのも悪いしね」
「おれはなんでーー!?!?」
「…レリク、アリアが寝てるから静かにな」
「……………うん」
「あはははは、仲良いね、ちょっとうらやましいよ」
「お前も俺らの中に入ってんだぞ?あんまりふざけてると、グーで行くよ」
「キョウはあれなの?控えめな場所から見てみる俺カッコ良い病なの?なんなの?」
「……ねぇ、ボクが悪いのかな?…ボクなの?ボクが悪いの?」
うん、お前のせいだ。
俺とレリクの声が重なり苦笑い気味だったキョウの笑顔が更に渋いものになっていく。
人のよさそうな顔つきが苦いものに染まるのが楽しくて、二人で声を押し殺して笑いあう。
次第に仕方ない、といった風に無理やり納得したようにキョウが落としていた肩をあげていく辺りでもうひとつ新しい声が響きだす。
「おはよう…なにやら楽しそうにしているが、どうかしたのか…面白そうな計画を立てているのなら、私も混ぜてくれないかね」
アリアの声だ。
すぐに続いてトン、トン、トンと階段を降りる規則正しい音が響きだし、白銀のキツい瞳の女性が降りてくる。
昨夜、床に脱ぎ散らかした衣類はしっかりと着込まれ、まるで何事もなかったかのような立ち振る舞い。
相変わらずこういう風に振舞わせると完璧を演じきれるアリアは、階段を降りきって、さも当然のように俺の後ろへとたった。
「や、おはようアリア…ごめんね、お邪魔してるよー」
「いやかまわない…そもそもここはヴァルの家でもあるんだからね」
「コラー!アリアー!そこを俺と代われー!あとうらやましいぞこんにゃろー!」
「ははは、じゃあ今度はレリクの番だね?」
にこやかに楽しそうな声で返事をするアリアに向けて、俺は軽く右手を持ち上げる。
アリアもそれをわかっているのか、自分の手をそれに重ねてお互いに簡単に挨拶を交し合う。
と、そこで肩に重みを感じ首の後ろから自分を抱きしめる形で左右の手が回ってくるのが見えた。
「昨日は激しかったねぇ…人間やめて、ケダモノにでもなったんじゃないかと、いまさらながら思うよ」
耳にアリアの息が吹きかかる。
何か暖かい物に耳たぶが包み込まれて、それが彼女の口なのだと気がつく。
視線を動かしてそちらを見ようとするが当然のように届かない。
代わりに正面に眼を向けなおした時に見えた二人の表情がそれぞれ異なっているのになんというか,なんというかだった。
「また、しような…?」
ほかの二人には聞こえない程度の音量で囁かれる言葉は、不思議と魔力をまとっているかのように頭の中へと浸透していく。
背中をゾクゾクとした電流が駆け巡り、頭がとろけたかのようにくらりと無条件でよろけてしまう。
人目を憚らず好意を向けられるのには最近なれてきたがこうして直接的にいわれると、…すごく良い。
何か唇をこじあけ言葉をつむぎ、もう少しだけ今与えられた官能と似ていて決定的に違う感情を楽しもうとした所でするりと腕が解け。
「さて…二人とも何かヴァルに用事があるんじゃないのか?それとも私のほう…というわけでもないか」
俺の背中から離れ、代わりに隣の椅子を引いて座った彼女はすっかり、いつもどおりになっていた。
「アアアアア、アアア、アアリアアアアー!!!ぶぶぶ、ぶっころしてやるのーー!!そこを、そこをかわれ、かわってよう!俺もしたいよぉぉ!」
「うーん……ねぇヴァル…ボク、こんな時どんな顔したらいいかわからないんだけどね」
「笑えばいいんじゃね?」
「……?」
「いや、なんでもない…それよりレリク、キョウが本題入れないから黙れ」
「だってぇ、ううう、だってぇ……」
「はは……えっとね、とりあえずミーニャが一度顔を出してくれて」
「ミーニャが?」
「うん、作ってたモノの説明とかそういうのがしたんだって…また何か面白そうなもの、作る気なのかい?」
「んー……面白いかどうかは、わかんないけど前世での記憶にある道具をいくつか」
「…楽しみにしてるね?」
ミーニャ、キョウとの会話の中に出てきた単語に、なるほど、とわずかに納得を覚えた。
あの発明好きの女には確かにあれこれこういうアイテムがあるってのを教えていたし、その件で何かあったのだろう。
なら今日は仕事も休みの予定だったし、顔を出してのんび――――。
「俺も行くわー」
は?
「俺もヴァルについてくし、別にいいだろ~?」
「え、あ、うん、別にいいけど面白い事ないかんな?」
「かまわないわぁ…あ、しまった…それならもっと良い服買ってくればよかったー!」
そこらの下級貴族なら軽くあこがれるかもしれない、フリル満載のスカートを穿いたレリクがそう一人ごちる。
一人称が俺とかそういった問題のせいで忘れがちだが、そうだ、コイツは女装が趣味の男の娘に分類されるやつなのだ。
…その格好より良い服ってどれだけ気合入ったのだよ…しかもそういう格好が誰よりも似合うのが余計に憎たらしい。
あれ…俺、なんでコイツと付き合ってんだっけ。
「なんか考えた?」
「…いや、何も」
「ふむ、ヴァルさえ良ければ私は別にいいと思うけど、ヴァルに何か問題は?」
「……ないけどな」
「じゃ~決まりだね~……お昼過ぎ頃には顔を出してあげて…ヴァルに見せたくてしょうがないって感じだったし」
「…わかった、じゃあ準備したら出るけど、レリクはいいな」
「ああ!…でもちょっと待って、やっぱり下着だけでも取替えに家に帰っていいかな!」
「おいてくわ」
「うわぁぁぁ、はい、大丈夫です!このままついていきます!!」
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