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飼いならされた狼

「と、いうことがあったりした訳だ」

「うん、爆発すれば良いと思うよ?」


いきなりキョウから、きつい一言を承ってしまった。

というか俺がたまに使用する前の世界の言葉を会話に混ぜてくる辺り流石だな。

もっともその使い方もいまいち中途半端というか…人並み、なところがやはりこの歩く平凡、ミスター人並みらしくはある。


「大体ね…ヴァルはボクが店番してたのに、レリクとデートっていうのがずるいんだよ」

「レリクは男だが?」

「でも、見かけは可愛いし…考えなくもないよね?」


その辺りの価値観まで人並みに持ってるの!?

いや、まてまてまて、これは人並みか、そうなのか?

…理解できない側と理解できる側の両方の人並みをとって、今の発言だったと思うことにしよう!

結論がつければとりあえず手元にあるジョッキを傾けて麦酒、或いは麦汁とも呼ばれる…まぁ、ビールでもエールでも良い。

主原料が麦とかの、炭酸系アルコール飲料を喉に流し込む…苦味と炭酸が一気に口に広がりそれを飲み込んでいく。


「……美味い…」

「あはは、ただの安物の麦汁なのに…ヴァルって科学?っていうのが凄い進んだ世界の人なんだよね?」

「そうだな…少なくとも、こんな樽で買わなくても気軽に家で酒が飲める世界ではあったけど…」

「うーん…じゃあその世界と、ヴァルが今飲んでるお酒ってどっちが美味しいのかなぁ、って少し気になったかなー」


キョウからそんな質問をされれば、ふと考え込んでしまう。

サラリーマンをしていた時代は二十歳になった直後は酒があまり美味しいとは思えなかった、それも特にビールの類がだ。

しかし俺があの神様に殺される頃になると…ちょうどその日も、結構飲んでたような気がする。

あの缶から直接流し込む感覚と、今の手に持った木製のコップから飲む味を比べてみると……。


「甲乙つけがたい」

「なにそれ~?」

「どっちも良いって事だよ、甲乙丙で1番2番3番って感じでな…どっちが甲でどっちが乙か、判断できないと今みたいに言ってた」

「ふぅん……龍勇相打つみたいなもの?」

「そうそう、それだよ」

「なるほどぉ~、あ…でもボクはヴァルの言ってた甲乙っていうのの方が好きかな、誰も死なないしー」


確かになぁ龍勇相打つは、勇者が長いときを経て竜から龍へと進化した敵に致命傷を受けるが、勇者が振り絞った最後の一撃で相打ちになる、っていう古典的な物語からくることわざの一つだ。

これを考えたやつはもうちょっと何かなかったのかよ、とか最初は思ったが…何百年も前の実話を元にした言葉だ、と両親から教わって驚いた記憶がある。


「ボクもさぁ」

「ん?」

「君の所のお嫁さんたち程じゃないけど、それなりに興味あるし…帰るぞーって時は連れて行ってね~?」

「俺の国に?」

「うん、勿論」

「帰るぞー…ねぇ」


お嫁さん達と、何気なくとんでもない事を言われたような気もするが、その事についての文句は酒と一緒に流し込む。

喉仏の裏側を苦々しいアルコールの飲み物が流れていくのを心地よく思いながら、つまみにと用意した炒った豆を口に放り込み、考える。

………よし。


「みんなで行くか、ミーニャとか凄いぞ、きっと二度と家から出なくなる、レリクなんかは絶対にドはまりする場所を知ってるぜ」

「うん約束~ボクだけ仲間外れで置いてけぼりとかなしだよー」

「おっけー、んじゃ観光大使は任せろ…つっても、多分戻れないと思うけどな、ははは!」

「そんな夢のないことを言ったらダメだってば」

「いや、だって…い――――」


異世界だぜ、行けるもんかよ。

言葉にしようとした瞬間、音が鳴り響いた。


――ドンドンドン――


テーブルの真ん中に置いた、魔力を受けて輝くランプだけが証明の部屋に響く乱雑な音。


「こんな時間に誰だろうね?」

「さぁ……」



家が明かりをつけてから、扉を叩いて訪問を告げるのは失礼である。

この世界で暮らす者なら大体が理解している条件。

証明器具といえば、安価で手に入る油や安物の蝋燭、或いは今使っていた魔道具に近いランプ。

とにかく夜に起きているだけ、でも金がかかる世界で金をかける時間を長引かせる行為をするからには、それなりの理由があるはずだ。


さて、来訪者は誰かなぁ、と若干だが酒に酔った頭で重たい腰を持ち上げる。

――ガチャリ――

静かな夜の世界、そして多少うるさいが、それでもやはり夜の気配に包まれた俺の家に鍵の開く音がした。


余談だが、この家は万屋も兼ねているせいか結構大きく広い。

そして俺が酒を大好きという事もあり、小さいけれど酒専用の保管質なんか用意したりしていて、それなりの数を常備している。

そのせいか、ウチを酒場か何かと勘違いして、酒を飲んだり宿屋代わりに使ったりする相手は多いのだが、では家の鍵を持っている人物が多いかといえば、話は別だ。

家の主はどうせ酒を飲み夜を楽しむ時間になれば家にいるし、仕事で出る日がある昼間だって、そこまで複雑に動いていない。


俺が何かあって寝ていたり、手が離せなくても家に入ってこれる人物の為の、合鍵。

鍵、という事で数ある候補の中から適当に選んで作った鍵があけられたとなれば、きっと俺の知り合いの誰かが入ってきたのだろう。

盗人がピッキングを成功させた、という例もあるが、それはあまり考えたくないな。



「わぁぁぁぁぁぅ~~~ヴァァルゥ!ヴァル!ヴァールゥ!ヴァルゥゥゥゥーーー!」

「ああー、この声は…」

「メリアだなぁ…相変わらず凄い元気だわ」

「あはは、ちょっとボクわかったかも」

「奇遇だな、俺もだ」



さぁ犯人は誰だ!とか思っていた所に聞こえたきた気の抜けた、それでいて愛嬌のある声に思わず肩をすくめつつ苦笑を浮かべる。

持ち上げた肩が降りる頃には、我が家の廊下をずんずんと突き進んだ幻獣様は俺の部屋にたどり着き。


「私もヴァルとデートしたいのですよー!アリアやレリクばかりはずるいと思います!!」


扉を開け放つと同時にそう宣言しやがった。

ついでに結構な勢いで俺めがけて飛び掛ってくる、何となくその仕草がまんま犬だよなぁ、と思ったりしたのは彼女の名誉のために伏せておこう。

いや、この場合は伏せない方が良いのかな…だってほら、メリアってば結構アレだし…。


「はいはい、わかったからご近所さん迷惑になる前に静かにな~?」

「わふん…はーい、それで私とは明日デートしようか、それとも今晩しっぽり?」


「ボク…お邪魔だよね、帰った方が良い?」

「お邪魔ではないけどキョウでも、私たちのプレイには混ぜてあげないからね~?」

「ああ、プレイってそういう…やっぱボク帰った方が良いね」

「いや待て待て、先客はキョウなんだから遠慮する事はないだろ!?」

「わう!ヴァルは三人が良いの!? …しょうがないにゃぁ、私なら良いよ……」

「ちげぇ、そういう意味じゃねぇよ!!」


「…あははは、とりあえず一日お留守番してたし、明日はボクお休みもらうね?」

「んっ、あぁ悪かったな…助かったよサンキュ」

「良いってことよ~、お土産に一本もらってくね」

「りょーかい、あんまり高いの持ってくなよー」

「うん…普通のを持ってくよ」

「お前ってそんな所まで平凡なんだな」


お互いに軽く笑いあいながら手をあげればキョウは応接室という名の酒盛り部屋へと一旦戻っていく。

さて、そうなると残されてしまったのは俺と、俺にしがみつくように抱きついている犬娘なのだが。


「お前って本当、狼っていうより犬だよな」

「えへへ…♪なんだか知らないけど褒められた♪」

「褒めたように聞こえるか?」

「うんっ!私はヴァルの忠犬なのです…飼ってくれたら番犬にもなるよ~?」

「……お前を飼うと毎晩夜鳴きが酷そうだなぁ」


きっとコイツが犬になって俺の家で飼い始めたら、こういうことだろう。

わうーヴァルのベッドで一緒に寝かせるのだぁ~……うん、普通にありそうだった。


「?」

「いや、なんでもない」


少しばかり乱暴気味にメリアの頭を撫でまわし、その髪の毛をくしゃくしゃにしてやる。

しかし彼女はそれも嬉しいのか、むしろもっとしろと言わんばかりに身体を擦りつけてきたので、今度は両手で頭をわしゃわしゃ。

わしゃわしゃ、わしゃわしゃ、わしゃわしゃ。

そういえばコイツの本体って昨日乗ったアレなんだよなぁ、もう少しサイズ小さかったら寝る時とか、もふもふしたりとか出来ないかなぁ。


「…少し目を離した隙にボクの幼馴染二人が玄関で、おっぱじめてた件なんだけど」

「誤解だ」

「えへへへ、恍惚なの…」

「やっぱり」

「誤解だ!」

「私はもうすっかりびしょぬれなのだー!」


「ボクが帰ってからして欲しかったなぁ」

「メリア、誤解をとかないと外に放り出すぞ!!」

「私の色気にヴァルはもうムラムラが……えっとね、撫でてもらってただけだよー…これで良い?」


片手に木の酒樽を持ったキョウは、納得がいったのかいってないのか生暖かい視線を向けてきている。

一方メリアはといえば、誤解は解いたぞーさぁベッドに行こうー、なんて視線を向けてきている。

アレか、俺なんか悪いことしたっけ………。


本気でため息をつきたくなりつつ、取り合えずポンッと最後にメリアの頭を一撫で。

それを笑顔で受けた彼女の純粋な視線を外しつつ。


「メリアって犬みたいだよなって話をしてたんだよ、もって帰るのはそれで良いのか?」

「あー…ぁぁぁー…凄い納得したよ、確かにメリアってヴァル限定で犬っぽいよね~」

「キョウ!アナタ失礼ね!私は犬じゃないよ!!」

「ご、ごめん確かに狼に犬なんていうのは、ちょっと失礼だったかな?」

「ううん、違うの!私はヴァルの、忠実な犬、なんだから!!」


メリアさんそれ逆効果です。

その言い方だと余計にキョウに誤解を与えてしまいそうじゃないか!

なんて思ってたら、意外とキョウは納得したのか数度頷くと気安く片手をあげて微笑んだ。


「うん、仲が良いのは良いことだよね…ボクもクロウやディード達と恋人いない同盟でも組んだ方が良いかな、ははっ…それじゃあ帰るねー」

「あぁ…んじゃまた今度な、飲みすぎんなよ」

「君にだけは言われたくなかった!」


最後にそういうと、平凡なキョウの姿が開けっ放しだった扉の向こうに消えていく。

明かりが無くて大丈夫か、と一瞬思ったが木樽を持っていないほうの指先がほんのりと輝くのが見える。

灯火の呪文を使ったらしい後姿を見送ると扉を閉めて、鍵をかけ振り返った。


「わぅ…ごめんね、もしかして迷惑だった、かも…」

「いいよ別に、後一つあけたらお開きにしようかどうか考えてたくらいだ…でも、アイツの代わりに少しだけ付き合えよ?」

「うんっ♪」


返事と同時に殆ど密着状態なのにも関わらずメリアがもう一度俺に飛び掛ってくるのを抱きとめてやる。

胸にやわらかい衝撃を感じながら、それなりに相手をしてから二人でもう一度軽く飲みなおした。

それで思ったけど、乱暴に頭をなでるアレはダメだ、やっちゃいかん。

全部終わった後に手で梳くのがあれだけ大変だとは思わなかった、次からはやらないようにしよう。

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