はぴばすで
気がつくと高速道路を走っていた。
両手は十時十分の間隔でハンドルを握り、右足はアクセルを踏み込み、左足はクラッチの上に触れる程度に乗せてある。
シートベルトを着用し、座席は目一杯うしろに下げ、リクライニングは少し倒した状態。
私は、いつから運転をしているのだろう。
思い出せない。まったく思い出せない。
夢、だろうか。
私は、夢を見ているのだろうか。
隣の車線を、圧倒的なスピードで車が走り抜けていく。一台―― 二台―― 三台。
きっと、夢だろう。きっと、夢だろう。
でなければ。
そうでなければ。
私は、たった今、生まれたのだ。
母の胎内からではなく。この車から。生まれたのだ。
なるほど。そうなのだ。
自分は、今。
たった今、生まれたのだ。
アクセルを限界まで踏み込むと、産声のようなエンジン音が辺りにこだました。
了