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第六話 打ち合わせ

教室の扉が開くと、入ってきたのは吉野部長だった。


「あ、のぞちゃん来た~。他の二人はまだ来てない?」


そう言って、雛宮先輩は吉野部長の元へ駆け寄っていく。


「遅くなってごめんね、樹里ちゃん。二人からさっきちょうど連絡をもらってね、今日は予定があって来れないみたいなの」


あれ、吉野部長この前とは違って普通に話せてるな。

でも、雛宮先輩とは友達なんだろうし緊張する方がおかしいか。


「そうなんだ。でも、今日は特にやることもないし。適当に雑談でもしてよっか」

「そうだね。でも私はパソコンで写真整理しないとだし……あ、そうだ。樹里ちゃんはさ、来てくれた子たちと一緒に遠征のこと話しておいてよ」

「確かに!そうしよっか」


ん?今遠征って言ったか?

確か、長期休みに合宿があるって話は聞いたけど、それは夏休みとかの話だよな?


「あの、遠征っていうのは合宿とは別なんですか?」


と、俺が聞こうとしていたことを代わりに服部が言ってくれた。


「ふふーん。よく聞いてくれましたねぼたんちゃん!」


自慢げに答えるのはもちろん雛宮先輩だ。


「実はですねー。我々写真部は、夏休みの合宿とは別に、ゴールデンウィークに遠征に行くことが決まりましたー!!」

「「お、おおぉぉーーー」」


小さい声ながらも、歓声を上げるのは吉野部長と服部。

その様子を見て、雛宮先輩は不満そうにこちらを見てくる。


「ほら、凪ちゃんもだよ!いくよ。遠征が決まりましたー!!」

「「「おぉぉぉーーー!!!」」」


俺たちの反応に満足したのか、雛宮先輩は腕を組みながらうんうんと頷く。

なんだか、もうこの環境に慣れてきたかもしれない。


「それで、その遠征っていうのはどこに行くんですか?」

「今回我々が向かうのは、簡単に言えば海と山です」

「海と……山?」


本来なら二項対立である海と山を、同時に?

そんな欲張りセットみたいなものが、果たしてあってもいいのだろうか?


「でも、遊びに行くわけではありません。写真部らしく、いろんなところでいろんな写真を撮ってもらいます」


いろんないろんなって、随分とふわふわした説明だな。


「ではここで、ぼたんちゃんに問題です!」


雛宮先輩は服部に向けてビシッと指を指す。


「はい、なんでしょう?」

「今回の遠征、一番大きな目標ってなーんだ」


雛宮先輩の問いに、服部は意外にも真剣に考え始める。

腕を組み、上を向き、うーんと首をかしげること約30秒。

服部はやっと口を開いた。


「んー。正直全くわかりません。やっぱり、楽しむこと!でしょうか」


あれこれと考えた割にはしょうもない、服部らしい答えだ。

そもそも、遊びに行くわけじゃないってさっき言っていたのを聞いていなかったのだろうか?

しかし、だからと言って俺もいまいちピンときていないのも事実である。

迂闊にツッコまないでおこう。


雛宮先輩は服部の方へ向き直り、どんどんと距離を詰めていく。

一歩、二歩と進んでいき……それにしても距離近いな。

もう少しでぶつかってしまうのではないかというところで、雛宮先輩は一歩引いてから両手で大きな丸を作る。


「ぼたんちゃんのその答え!大正解でーす!!!」


ええ!?嘘だろ?そんな単純な理由で遠征を?

いや、でも楽しむのが一番なのは当然のことでもあるのか……

隣では、正解したおかげで上機嫌の服部がアホ毛をぴょこぴょことさせている。

いったいどういう原理で動いているんだこれは。


「こら、樹里ちゃん。一年生をだましちゃだめでしょ」


と言いながら、ポッキーを差し出してくるのは吉野部長。

それを受け取った雛宮先輩が俺たちにも一つずつ回してくれる。

ふと部室を見回すと、部屋の一角にはお菓子コーナーが作られていた。


それにしても、部長の言ってる騙すってのはどういうことだ?


「騙すなんて人聞きの悪いこと言わないでよのぞちゃん。私がいつこの子たちを騙したの?」

「確かに言い方は悪かったかもね。でも、本来の目標はちゃんと伝えておかないとでしょ?」


なるほど。吉野部長が言うには、やはり遠征には別の目標があるみたいだ。


「それで、結局目標ってのはなんなんですか?」

「じゃあここは、部長の私が責任をもって答えるね。今回の遠征の目標は、文化祭に展示する写真を撮ってくることだよ」


文化祭に展示する写真か。確かに、いかにもな遠征の目標だ。


「まあ、それも目標の一つだよね。でもやっぱり、私は楽しむことが一番大事だと思うんだ」


なかなか意見を曲げない雛宮先輩。

正直、目標なんて人によって違うのが当たり前なんだしなんでもいいと思うが……

そんなことより、文化祭って言ってたよな。


「文化祭に展示する用の写真を撮ることはわかったんですけど、文化祭って秋ですよね?まだ四月ですし、そういうのはてっきり夏休みの合宿とかで撮るもんだと思ってたんですが」


もしかしたら、今の季節の景色を夏に撮ることはできないから、撮り貯めておくという可能性も考えられるな。


「ああ、そっか。一年生はまだ知らなくても当然だよね。うちの高校は、文化祭は六月に開催されるの」

「え?そうなんですか?」

「うん。なんでもね、うちの高校にはこだわりというか、伝統があるの。まず、文化祭の名前が紫陽祭しゅようさいっていって、漢字で書くと紫陽花あじさいをもじった形になってるんだよね。それで、『さい』の文字だけが花から祭に変わってるんだよ」


へえー。この椿つばき高にそんな伝統が……あ、つまりそういうことなのか?

ここで俺は、ピンときた。


「紫陽花は梅雨の時期に咲く。だから、椿高の文化祭は六月なんですね」

「おー。青柳君、流石だね」


吉野部長はぱちぱちと拍手をしてくれる。

なぜだか、部長からの素直な言葉には照れてしまうな。


「でもね、椿高の紫陽花推しはそれだけじゃないんだよ。二人はわかるかな?」


さっきとは違い、全くピンときていない。

ちらりと隣を見てみると、真剣に考えている様子の服部ぼたん。そのまま少し眺めていると──


「スクールカラー」


ポツリと呟いたのは服部だ。

そして、この言葉を聞いても俺には何のことだがさっぱりわからない。


「正解。服部ちゃんよくわかったね」


スクールカラー?高校にはそんなものがあったのか。高校のイメージカラー的なものだろうか。


「今、どうして椿高校なのにスクールカラーが紫なんだろうって思ったでしょ」


そう聞いてくるのは吉野部長。


「はは、そうですね。それで、どうしてなんですか?」


ごめんなさい。正直全く思ってないです。

そもそも、椿が花なのはわかるんだが、それが何色なのかを知らない。

たぶん、文脈から紫色でないことだけはわかる。

俺の問いに、先輩たちは顔を合わせて苦笑い。一瞬の静寂が訪れる。

あれ、もしかして、俺が適当に返事をしたのがバレたのか?いや、違ってくれ。頼む。


「実は、それがこの学校の不思議なところなんだよね」


ええ!?まさか、先輩たちも知らないのか。

それよりも、結局椿の色が何色なのかは分からずじまいだ。

まあ、適当に返事をしたのがバレなかっただけで良しとしよう。



いきなり、パンと雛宮先輩が手をたたく。


「はい。ここで一旦話を戻すんだけど。遠征に行く詳しい場所について、ここにいる二人には先に教えちゃおうかなーって。秘密にできる?」


たかだか部活の遠征。秘密にするべき内容なのかはよくわからないが、俺たちは黙って頷く。


「それでは、発表します」


雛宮先輩はコホンと咳払いをする。


「私たちが行く場所は、ゆいちゃん一家の別荘です!!」

「「おおぉぉー!!!」」


別荘か!確かに、別荘と聞くと海と山が共存するリゾート施設なんかに通ずるところがあるのかもしれない。

しかし、この遠征で一番のポイントは白雪しらゆき先輩一家の所有する別荘というところだ。

流石のお嬢様といったところである。


「更にですよ!今回の遠征はなんと、合宿同様一泊二日で行います!!」

「泊まりなんですか」

「うん。そうだよ。でも、一年生はまだこの環境にも慣れてないだろうし、行くか行かないかは各自で決めてもらって大丈夫だよ」


確かにそうだよな。いきなりでお泊まりとなると、人によってはかなりハードルが高いだろう。


「服部はどうする?」

「ん?私はもちろん行くぞ。せっかくだしな」


服部が来るのは予想通りだな。楽しいこととか、思い出作りとか、そういうの一番好きそうだし。


「青柳はこないのか?」

「いや、俺も行こうと思っている。文化祭に必要な準備をしに行くわけだし、なにより楽しそうだ」

「そうか、なら一緒だな」


ふにゃりと笑う服部。

その笑顔に不覚にもドキリとしてしまう。


「え!ぼたんちゃんも凪ちゃんも来てくれるの⁉︎いいねいいねー。私嬉しいよー!」


雛宮先輩が駆け寄ってきて、服部に抱きつく。

服部は少し苦しそうにしているが、笑顔なのでたぶん嫌ではないのだろう。


「それじゃあ早いけど、今日はこの辺で一応解散ということにしよっか」


と、吉野部長。

さっきも思ったけど、吉野部長普通に話せてるよな。でも、本人に聞くのはちょっと憚られるし……俺は隣をチラリと見る。


「なあ服部、吉野部長のことだけど」

「ああ、普通に話してることでしょ?私もそれ思ってたんだよね」


ぼそぼそと話す俺たちの声が届いたのか、雛宮先輩がやってくる。


「もう気がついてるかもしれないけど、のぞちゃんはね、別に人と話すのが苦手って訳じゃないんだよ。人前に立って話すのが、ちょっと緊張しちゃうみたいなの」

「そうだったんですね。わざわざ教えてくれてありがとうございます」

「いやいや、気にしないで。それじゃ私たちはお先にー」


そういうと、雛宮先輩は吉野部長を連れて教室を後にする。

そうか。だから昨日とは違って普通に話せているのか。思ったより話しやすくて良かったな。


「じゃあ、俺らも帰るか」

「そうしようか」


俺たちも先輩たちの後を追うように教室を出る。

ゴールデンウィークまでに、一年生は後何人増えるだろうか。今日鏑木さんは来なかった。

もしかしたら、一年生はこのまま服部と二人なのかもしれない。

俺は、今日一日を振り返ってみる。

まあ、それはそれで悪くはないのかもしれないな。

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