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タイムマシーン方程式

作者: 猪口

「タイムマシーンがあったらなぁ」

 僕は一人つぶやく。

 大概の小説はこれを言った50ページ以内にタイムマシーンが現れる。


 僕は方程式を編み出した。その発案から構築までの所要時間なんと10秒。

 それだけの貴重な時間を用してまで僕は方程式を編み出した。


 その名はタイムマシーン方程式。

 実際に使ってみる。学問とはトライ&エラーなのだ。


《t=5p》t=時間(分) p=ページ


 これに先に述べた50ページを代入するとt=250。つまり約4時間ほどでタイムマシーンがばばーんと登場するのだ。


 一応解説を挟むとpに係る5は5分。

 僕の生涯読んできたタイムマシーン小説、約5冊の1ページあたりに流れる時間の中央値を用いている。

 ちなみに、50ページという数字もこの方法によって導き出された。


 僕の知り得るタイムマシーン業界の全知識を投入して作られた方程式。

 最新鋭の文字式技術を2つも用いた最高傑作の完成に興奮が抑えられない。


 なんにせよ、あとは4時間待つだけだ。

 今僕のすべきことは余韻に浸ることではない。タイムマシーンの利用法を考えておくことだ。


 僕の戻りたい過去を思い浮かべる。

 ない。いや、タイムマシーンで修正したいほどの出来事でないのだ。

 せいぜいドブに落ちるのを防ぐことや、気になるあの子にアタックすべきという助言をするくらいしかない。


 そんなしょーもない事にこだわるほど、僕は小さくないのだ。

 例えば1942年に行ってトイレに行った日本軍人を呼び戻し、盧溝橋事件を回避するとか、

 例えばビザンツ帝国の門の錠前を掛けてやり、帝国滅亡を防ぐとか。


 そういったことに使うべきなのだ。

 自分のために使うのはもったいないとか利己的だ!とかではなく、ただ単につまらないと僕は思う。


 なにより僕は僕にできることはない。

 さっき言ったようなしょーもない事をいくら解決しようが、僕は死ぬのだから。


 死ぬ。病気で。僕はこの白いベッドの上で死ぬ。

 16になってKindleで揃え始めた5冊の小説。やっと巡り会えた、SF小説という素晴らしい娯楽にこの身を捧げる間もなく。


 僕は死ぬ。

 

 父に電話を入れ、電子マネーに1000円を振り込んでもらった。

 合計3,000円分の割引ができる初心者向けのクーポンを使い切ることはないと思う。

 読めるのはせいぜいあと1冊。

 1冊の、50ページまで。


 タイムマシーンが到着する頃には、呼び出した本人はもういないのだ。

 ならば僕は何をすべきか。


 一つ、一つ。


 悪用を避けるため、タイムマシーンを断ることだ。


「タイムマシーンが、あってもなぁ」

 目尻から涙が一粒流れる。

 会えるはずなのに、それに乗って、僕は世界をもっとおもしろくできるのに、そのための方程式も編み出したのに、


 悔しさで涙が止まらない。


 僕は涙を強く拭う。

 泣いている場合じゃない。


 僕は選ばなくてはならない。

 最後の一冊を、最後の50ページを。


 一つの小説を見つけた。

 名前も見ずに購入する。

 アプリを開き、表紙をめくり、その1行目を読む。

「タイムマシーンに乗って、俺は盧溝橋事件を阻止した。」


 良かった。僕の代わりのヒーローは居た。


 でもこれのせいで、また方程式が変わっちゃうな。計算すると…あぁ。

 これならちゃんと、タイムマシーンに会えたのにな。


 もったいない、しょーもない断りをしてしまった。

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