表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先は量子の彼方!?次元を超えたハードライフ革命  作者: 成瀬アイ
[第一章]俺、データになりました!?
4/37

第一章 第四話「データ荒野の入り口」

おでんがうまい季節

村を出た俺たちを待ち受けていたのは、広がる未知の世界だった。足元にはデータの粒が霧のように漂い、遠くには奇妙な形の地形が連なっている。空には三角形の太陽が静かに輝き、まるで幾何学図形がそのまま世界の構成要素になっているようだった。


「これがデータの荒野か…見渡す限り、現実の法則なんて微塵も感じないな。」


俺は呆然と立ち尽くしていた。周囲の風景は確かに壮観だが、それ以上に不気味だった。足を一歩踏み出すたびに地面がわずかに震え、まるでデータの波紋が広がっていくようだった。


「怖いわけじゃないけど…いや、やっぱり怖いな。」


「智也、怖がるのは当然よ。この荒野は、普通の人間には到底理解できない場所だから。けれど、あなたは“普通”じゃない。だからこそ、ここを越えられる。」


エリスの声は柔らかかったが、どこか冷静すぎて安心しきれない。彼女は先を歩きながら、データの流れのようなものを解析しているのか、時折目を細めては頷いていた。その様子が妙に頼もしい反面、俺の中には不安が増すばかりだ。


「俺、こう見えてただの会社員だったんだけどな…。こんな異世界でやっていける気がしないんだが。」


エリスは振り返り、小さく笑った。


「智也、あなたの心配はわかるわ。でも、ここで諦めるわけにはいかない。少なくとも、あなた自身がこの世界の“意味”を知るまでは。」


「意味か…。それを知るために命を張るってのも、何だかなぁ…。」


そうつぶやきながら歩いていると、突然、目の前に奇妙な構造物が現れた。それは巨大な壁だった。高さは十数メートルにも達し、表面は無数のデータの線が縦横無尽に走っている。近づくだけで圧倒されるような威圧感があり、肌にビリビリとした感触が伝わってきた。


「これが、“量子の結界”なの?」


エリスが頷く。


「そうよ。この結界を越えないと、この先には進めないわ。」


「越えるって、どうやるんだよ!?」


声が自然と大きくなった。目の前の壁はただの障害物ではない。触れるたびに無数のデータが反応し、触手のように絡みついてくる。それだけで、ここを越えるのがいかに困難かは一目瞭然だった。


「智也、この結界を越えるためには、あなたの力が必要なの。」


「俺の力って…そんなの、まだ何もわかってないんだけど!」


エリスは一歩、俺の側に近づいた。そして、静かな声で言った。


「だからこそ試すのよ。あなたの中には、この世界を動かす特別な力が宿っている。それを解き放つための第一歩が、この結界を越えることなの。」


俺はエリスの目を見つめた。彼女の言葉には迷いがない。だが、俺にはそんな自信はどこにもない。自分の手をじっと見つめる。


「俺が…この壁を越えさせる力を持ってるって、本当にそう信じてるのか?」


「信じてるわ。あなたがこの世界に来た意味を、私が信じてるから。」


その言葉に、俺は息を呑んだ。目の前の壁はただの壁じゃない。俺自身の力を試すための試練だと、エリスは言う。それならば、やるしかないのだろう。


俺は拳を握り、壁の前に立った。冷たい風が吹き、体に無数のデータが絡みつく。目を閉じ、深く息を吸い込む。


「よし…やってみるか。」


俺は目の前の結界に手をかざした。すると、壁に走るデータの線が激しく明滅を始める。まるで俺の存在を拒絶するかのように、壁が低く唸り声を上げた。


「うわっ、なんだこれ!?」


俺は思わず手を引っ込めたが、データの触手が絡みつき、引き戻されそうになる。その冷たい感触は直接脳にまで響いてくるようだった。


「智也!恐れる必要はないわ!」


エリスが叫ぶ。その声に勇気づけられ、俺はもう一度、手を壁に近づけた。


「恐れるなって…簡単に言うけどな!」


俺は再び拳を握り直し、全身に力を込めた。この壁を越えるには、ただの力ではなく、何か“意思”のようなものが必要なのだろう。俺はそれを感じ取った。


「俺の…意思か。」


そう呟いた瞬間、頭の中にある映像が浮かび上がった。それはこの異世界に来る前の、現実世界での自分の姿だった。デスクに向かい、深夜まで働き続けたあの頃。何のために働いているのか、何を目指しているのかも分からず、ただ目の前のタスクをこなすだけの日々。


「あの頃の俺は…何も考えてなかった。でも、今は違う。」


俺は心の奥底から沸き上がる感情を感じ取った。それは怒りや悲しみ、あるいは希望といった複雑な感情の入り混じったものだった。それが、この壁を越えるための“鍵”になると直感的に理解した。


「俺は、この世界で生きるんだ!ただ流されるだけじゃなくて、自分の意思で!」


拳を振り上げ、壁に叩きつけた瞬間、眩い光が弾けた。結界に走るデータの線が一斉に消え去り、壁がゆっくりと崩れていく。


「やった…のか?」


呆然と立ち尽くす俺に、エリスが近づいてきた。彼女の顔には穏やかな微笑みが浮かんでいる。


「智也、よくやったわ。これで、次のステップに進める。」


「次のステップ…?」


俺がそう呟くと、崩れた壁の向こうに広がる新たな景色が目に飛び込んできた。それは、さらに広大な荒野だったが、ところどころに光の柱が立ち上っており、そこに何かが待っていることを予感させた。


「さあ、進みましょう。この先には、きっとあなたの“力”の真実が待っているわ。」


エリスが俺に向かって手を差し出す。その手には、どこか不思議な温かみがあった。俺は迷うことなくその手を握りしめた。


「行こう。どんな真実が待っていようと、俺はもう逃げない。」


結界の向こうに足を踏み入れると、空気が一気に変わった。冷たく鋭い風が俺たちを包み込む。光の柱が立ち並ぶ広大な荒野は、一見して無機質で静かだが、その奥には何かが脈打っているような感覚があった。


「ここは…?」


「『データの大河原』よ。」エリスの声が静かに響く。「この場所は、この世界の根幹にある情報が流れ込む中心地。あらゆるデータがここで交錯し、世界の基盤を支えているの。」


俺は柱の近くに歩み寄り、その中を覗き込んだ。光の柱の中には、膨大な数の文字や記号、映像が流れている。それはどれも、この世界の歴史や記録を形作っているように見えた。


「まるで…データベースの中みたいだな。」


「正確にはその通りよ。だけど、それ以上に重要なことがあるわ。この場所には、あなた自身の記憶や感情、そして“可能性”も流れ込んでいるの。」


「俺の…可能性?」


エリスが頷くと、彼女の手から小さな光の粒が飛び出した。それは、柱の中に吸い込まれると同時に、一瞬で俺の目の前に映像を作り出した。


そこに映っていたのは、俺がこの世界に来る前の姿だった。必死に働き続け、空虚な目でモニターを見つめる俺の姿だ。


「これは…」


「この場所では、自分がどうしてここにいるのか、何を目指すべきなのかを見つけられるの。智也、あなたがここに転生した意味を理解するために、この光の柱を通じて自分自身を探してみて。」


エリスの言葉に促されるまま、俺は柱に向き直り、そっと手を触れた。瞬間、頭の中に激しい光が差し込んだ。


映像の中の俺は、仕事に追われるだけの生活から抜け出すことを願い続けていた。しかしその思いはいつも、どこかで踏みつぶされていた。家族や友人とのつながりを疎かにし、ただ“働くだけ”の日々を繰り返していた。


「俺…こんなだったのか。」


光の柱が一層激しく輝き出し、次の映像が流れ込んできた。それは、この世界での俺の未来だ。荒野を駆け抜け、仲間とともに新しい世界を切り開く俺の姿。


「これが…俺の可能性?」


柱から放たれる光は次第に収まり、俺の手元に小さな球体を残した。それは、輝く結晶のように見えるが、手に取るとどこか温かい。


「それは、あなたの“可能性の結晶”よ。これを持っていれば、あなたはどんな状況でも自分を信じる力を得られるわ。」


エリスが優しく微笑む。俺は結晶をしっかりと握りしめた。


「よし…行こう。この先に何があっても、俺は自分を信じる。」


俺たちは光の柱の間を抜け、さらにその奥へと進んでいったのだった。

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価と、ブックマークをしていただけると、ハッピーな気持ちになります…!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ