第一章 第三十三話「彫像の巨人」
扉の向こうの円形の部屋で、俺たちは彫像の巨人と対峙していた。埃と破片が舞う中、俺は剣を構え、隙を伺いながら巨体の動きを見据えた。
「槍の振りが大きすぎる……それが唯一の隙だ。でも、このままじゃ持たないぞ!」
全力で駆け抜けた先、かすかに振り下ろされた槍の影を感じた。その破壊力は絶大で、床を深く削り取る一撃に俺の喉が思わず乾く。
「智也、無理しないで! 二人でやらないと……!」
エリスの声が焦燥に染まりながら響いた。彼女は杖を振り、魔力の波動を送る準備を整えている。しかし、あの巨体に魔法の攻撃がどこまで効くのか、正直自信が持てない。
槍を振るうたびに巨人の動きが一瞬止まる。だが、その隙を突こうとするたび、俺たちは別の恐怖に直面していた。台座から浮かび上がる光の文字――それが俺たちの足を引き留める。
「智也、この文字……意味があるわ!」
「どういうことだ? ただの装飾じゃないのか?」
「違うわ。この彫像と連動しているみたい。文字が浮かぶたび、彫像の動きに変化がある!」
エリスの言葉に目を凝らすと、確かに文字が新しい形に変わるたびに巨人の動きが微妙に変化していた。
「どうにかしてこの文字を読み解ければ、攻略の糸口が見えるかもしれない……!」
「だが、そんな余裕があるか?」
巨人の槍が再び俺たちを狙う。地面に刺さった刹那、衝撃波が部屋全体に広がった。その振動で俺たちは膝をつきそうになる。
「智也!」
エリスが再び声を上げた瞬間、彼女の瞳が文字の一部に釘付けになっていた。
「この文字……おそらく『封印』よ!」
「封印?」
「巨人の力を抑える仕掛けがあるはず。文字を解読しながら時間を稼いで!」
「解読しながらって……そんな簡単に言うな!」
槍の先端が床をなぎ払う。その振動を避けつつ、俺は剣を振るい、一撃を巨人の膝部分に叩き込む。だが、その一撃は硬い岩に吸収されるように効かない。
「くそ……時間を稼ぐなら、俺がもっと攻撃を集中させるしかないか!」
エリスは台座に近づき、文字を必死に読み取ろうとする。その姿に視線を向けた瞬間、巨人の槍がエリスを狙って振り下ろされるのを見てしまった。
「エリス! そこから離れろ!」
俺は叫びながら全速力で駆け寄り、間一髪で彼女を押しのける。槍の先端が床に突き刺さり、埃が巻き上がる中、エリスの顔が驚きに染まっていた。
「危ないだろ!」
「でも、この解読が唯一の鍵なのよ……!」
彼女の声には揺るぎない意志が込められていた。その表情を見て、俺は深く息をつく。
「……わかったよ。守るから、続けてくれ。」
エリスの肩に手を置き、俺は剣を再び握り直した。
巨人がゆっくりと体勢を立て直すのを見て、俺は頭を振って集中を高めた。敵を倒す方法がわからないまま戦い続けるのは無駄だが、エリスの解読が成功すれば突破口が見えるはずだ。
「エリス、文字の変化に合わせて教えてくれ! 俺が動く!」
「わかった!」
その後、俺たちの攻防はさらに激化した。巨人の動きを観察し、エリスが浮かび上がる文字の意味を解読しながら、俺はその隙を作るために全力で動いた。
だが、巨人の動きは次第に速度を増していく。それはまるで、俺たちの行動を学習し、適応しているかのようだった。
「エリス、急いでくれ! こいつ、ただの石像じゃない……!」
「もう少し……! あと少しだけ!」
彼女の声に応えるように、俺は巨人の背後に回り込み、剣で膝裏に連続で攻撃を加えた。わずかにバランスを崩す巨人。だが、それでも決定打にはならない。
「智也! 最後の文字が読めたわ!」
エリスの叫び声に振り返ると、台座から眩い光が放たれていた。その光が部屋全体を包み込み、俺たちの視界を真っ白にする。
「これが……鍵なのか!?」
俺は剣を握り直し、次の一手に備えながらその光の中心を見据えた。
白い光が部屋全体を包み込む中、巨人の槍が床に深々と突き刺さる音が響いた。目を開けると、部屋の中央にあった台座がわずかに沈み込み、円形の床全体がゆっくりと回転を始めていた。
「智也、気をつけて! 何かが……!」
エリスの声が緊張感を帯びている。俺も剣を握り直し、巨人の動きを注視した。だが、それ以上に気になったのは、回転する床とその中央から湧き上がる新たな文字の光だ。
「これは……罠か?」
床の回転がさらに加速し、巨人の動きさえも制御が乱れるように見えた。その巨体は安定を失いながらも、なお俺たちを狙う動きを続けている。
「エリス、あの光の文字、読めるか?」
俺が問いかけると、彼女は焦るように杖を握り直し、目を凝らして文字を追っていた。
「……読める! でも、これって……『試練』を意味している!」
「試練だと? 今の状況が試練だってのか?」
俺の苛立ちをよそに、エリスは眉をひそめてさらに文字を解析するように見つめる。そして、次の瞬間、彼女の表情が険しさを増した。
「智也、巨人を倒す必要はないかもしれない! この空間自体が試練を形作っている。巨人はその一部に過ぎないわ!」
「……ってことは、どうする?」
「台座の中央――あの光の中心を解読すれば、空間が変わるはず!」
「簡単に言うなよ! あの巨人をどうやってかわすってんだ!」
巨人は床の揺れに合わせてふらつきながらも、相変わらず俺たちを執拗に追い詰めようとしている。俺は剣を握りしめ、無謀だとわかりつつも、エリスが台座に近づける隙を作るために前に出た。
「エリス、絶対に無理するな! 俺が時間を稼ぐ!」
言葉にするよりも速く体が動いていた。巨人の槍が横薙ぎに迫る。俺は地を蹴って後退しながら剣を振り上げ、槍の側面を弾いた。衝撃が手に伝わり、体が揺れる。
「くっ……化け物め!」
巨人の槍は力強いが、動きそのものに規則性がある。光の文字が変わるたびに、その動きもわずかに変化するのだ。そのリズムを読み取れば、次の一手を先読みすることができる。
「ここだ!」
俺は巨人の足元に滑り込み、膝裏を狙って剣を叩き込んだ。鋭い音とともにわずかながら巨体が揺れる。その隙にエリスが台座の光へと駆け寄った。
「エリス、何かわかったか?」
「もう少し……この文字、構成が複雑すぎる!」
彼女の額には汗が滲んでいる。俺は振り返りながら巨人の動きを見据え、再び攻撃の間合いを取った。だが、そのとき、台座の光がさらに強く輝き、空間全体に低い振動音が響き渡る。
「これは……!」
突然、床の回転が止まり、巨人の動きもピタリと止まった。その場に立ち尽くす俺たちの目の前で、中央の光から小さな球体が浮かび上がる。
「成功……したのか?」
エリスが慎重にその球体に近づき、手を伸ばす。その瞬間、光の中から低く響く声が聞こえてきた。
「試練を超えし者よ、次なる扉へ進む資格を得たり。」
その声は威厳に満ちており、どこか懐かしささえ感じさせるものだった。そして、部屋の奥に隠されていた扉が静かに開き始める。
「やったのか?」
俺は剣を下ろし、息を整えながらエリスに声をかけた。彼女は振り返り、微笑みを浮かべながら球体を手に取った。
「ええ、これが鍵みたいね。この部屋はただ戦うだけじゃなく、考えることが必要だったのよ。」
「つまり、力押しじゃダメってことか……そういうの、もっと早く教えてほしいもんだな。」
苦笑しながら扉の方を向くと、その先には新たな空間が広がっていた。だが、その先に待つものが何であるのか、俺たちにはまだわからない。
「エリス、この先もこんな感じなのか?」
「きっと、もっと難しくなるわ。でも、一緒なら乗り越えられる。」
彼女の言葉に頷きながら、俺は新たな扉へと足を進めた。
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