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転生先は量子の彼方!?次元を超えたハードライフ革命  作者: 成瀬アイ
[第一章]俺、データになりました!?
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第一章 第三十一話「感情」

「道が広がっているわね……でも、油断しちゃダメ。」


エリスの声に、俺は慎重に頷いた。目の前に広がるのは、霧が晴れたことで姿を現した、巨大な石造りの廊下だった。柱には何かの文字が刻まれているが、その意味は俺にはわからない。


「この文字……どこかで見た気がする。」


エリスがつぶやきながら指で文字をなぞる。その動きは慎重だが、どこか懐かしさを感じさせるものだった。


「見たことがあるのか?」


「ええ、でもどこでかはっきりと思い出せない……それに、あの時はこんなに古びた感じじゃなかった気がするわ。」


エリスの言葉に、俺は胸の奥がざわつくのを感じた。まるで、目に見えない糸で何かに引き寄せられるような感覚だった。


「進むしかないな。ここに留まっても意味はない。」


俺は剣を腰に収め、彼女の肩を軽く叩いて前進を促した。


歩みを進めるごとに、廊下の空気が変わっていくのを感じた。石壁はひび割れが目立つものの、不思議な光がそれを覆うように輝いている。どこからともなく聞こえる低い音が、足元の振動と共鳴していた。


「気持ち悪いくらい静かだな……」


俺がつぶやくと、エリスは頷きながらも耳を澄ませていた。


「静かすぎるのよ。自然の音もない。普通なら、何かしらの風や水の流れる音があってもいいはずだけど……。」


確かに、ここには生命の気配がまるで感じられない。石造りの空間に漂うのは、無機質な静寂だけだった。


廊下の奥に進むと、大きな扉が現れた。重厚な石の扉には奇妙な文様が刻まれ、中央には手形のような凹みがあった。


「これ……まるで、誰かに押させるための仕掛けみたいだ。」


エリスが慎重に扉を調べる。その間、俺は周囲を警戒しながら、剣を抜いたまま見張っていた。


「智也、この凹み、多分手を当てる必要があるわ。ただ……」


「ただ?」


「何かを捧げないと動かない気がする。」


彼女の指が指し示した先には、凹みの周囲に刻まれた円形の模様があった。それは、まるで血のような色をした赤い石が埋め込まれている。


俺たちはしばらく考え込んだが、結論が出る気配はなかった。


「くそ……こういう時、誰かに聞けるなら楽なんだけどな。」


俺が愚痴をこぼすと、エリスはふっと笑った。


「でも、それじゃ成長しないでしょ?」


「皮肉に聞こえるけど、まあそうだな。」


俺も苦笑しつつ、再び扉を見上げた。


そんな中、エリスが小声で何かをつぶやいた。


「……もしかして。」


「どうした?」


「智也、これ……“何かを捧げる”って、命とかじゃなくて、たぶん心に近いものだと思う。」


「心?」


「ええ。見て、この模様。円形に配置されている石、それぞれが異なる色をしてるけど、全部どこかで感情を象徴する意味を持ってるのよ。赤なら情熱、青なら冷静……」


彼女の説明を聞いて、俺はようやく理解した。


「つまり、俺たちが何かしらの感情を捧げないと、この扉は開かないってことか。」


「そうだと思う。ただ、それをどうやって捧げればいいのか……。」


俺たちは扉の前に立ったまま、次の行動を模索し続けた。全身に緊張感が張り詰める中、俺はふと剣を手に取り、その刃をじっと見つめた。


「捧げる感情……これまでの戦いで感じたものを思い出せばいいのか?」


俺の独り言にエリスが頷いた。


「ええ。今まで私たちが何を守り、何を目指してきたのか、それを考えれば……答えは見つかるはずよ。」


俺は扉の凹みに手を当て、目を閉じた。頭に浮かぶのはこれまでの出来事、そしてエリスの存在だ。


感情があふれ出しそうになる中、石の扉がかすかに振動し始めた。


扉の振動が次第に大きくなる。だが、それは心地よいものではなく、まるで自分の奥底に隠された感情をむりやり引きずり出されるような不快感を伴っていた。


「智也……大丈夫?」


エリスの心配そうな声が聞こえたが、俺は振り返る余裕すらなかった。凹みに手を当てた瞬間から、身体の中で何かが渦巻いているのがわかる。それは怒りや悲しみ、喜びといった明確な感情ではなく、もっと原始的で、本能に近いものだ。


「平気だ……いや、たぶん平気じゃない。でも、これをやらなきゃいけないんだろ?」


そう言いながらも、俺の声は震えていた。額に汗がにじみ、手のひらに押し返すような抵抗感が伝わってくる。


「無理しないで! 一度手を離しても……」


「駄目だ、離したら……たぶん、もっとひどいことになる。」


俺は歯を食いしばりながら凹みに手を押し付け続けた。すると、胸の奥から浮かび上がってきたのは、俺がこの旅の中で避けてきた記憶だった。


両親を失った時のこと。友人を守れなかった無力感。そして、ここに来る前の、何もかもが中途半端だった自分。


それらの記憶が次々と再生され、俺を責め立てるように襲いかかってきた。


「こんなこと……今さらだろ……」


俺は苦しみながらも声を漏らした。だが、扉はそれに反応するかのように、さらに振動を強めた。


「智也!」


エリスの声が遠くに聞こえる。彼女の手が俺の肩に触れた瞬間、俺の意識は一瞬だけ現実に引き戻された。


「お前が手を出したら……危険だろ……」


そう言いながらも、彼女のぬくもりに一瞬だけ安心感を覚える。


だが、その刹那、凹みの部分から何かが弾けたような音がした。強烈な光があたりを包み込み、俺の手は自然と離れてしまった。


「くっ……!」


思わず目を閉じる俺。その隙に、扉が重々しい音を立ててゆっくりと開き始めた。


「智也、大丈夫?」


エリスの手が再び肩を支えてくれる。彼女の瞳には心配と安堵の入り混じった感情が浮かんでいた。


「何とかな……だが、これは……一体どういう仕組みなんだ?」


俺は扉の先を見つめながらつぶやいた。そこに広がっていたのは、さらに異様な空間だった。


扉の向こうには広大な円形の部屋が広がっていた。天井には無数の光の球体が浮かび、それらが淡い青白い光を放っている。床には複雑な文様が刻まれており、その中心には大きな石の台座があった。


「これ……何かの儀式に使われていたのかしら?」


エリスが言いながら台座に近づく。その動きは慎重そのものだったが、彼女の好奇心が隠しきれないのがわかる。


「でも、ただの儀式じゃなさそうだな。」


俺は周囲を見渡しながら答えた。台座の周囲には無数の彫像が立ち並んでいたが、そのどれもが不気味な表情を浮かべている。


「まるで……何かを守っているみたいだな。」


「そうね。でも、守っているものが何なのか……」


エリスの言葉が終わる前に、台座がかすかに振動を始めた。そして、その上に何かが浮かび上がる。


「これ……文字?」


それは、光の粒子で形成された文字だった。エリスがその文字を読み取ろうとするが、彼女の表情はすぐに険しくなる。


「読めるか?」


「……少しだけ。たぶん、『選ばれし者』とか、『試練』とか、そんな感じ。」


「試練、ね……」


俺は剣を握り直しながら、部屋の中央を見据えた。試練という言葉が出てくる以上、何かが起こるのは確実だ。


その時、彫像の一体がゆっくりと動き始めた。その音は石と石が擦れるような鈍い音で、俺たちの鼓膜を震わせた。


「来るぞ!」


俺はエリスの腕を引き、台座から距離を取った。すると、彫像の目に赤い光が灯り、その身体が完全に動き出す。


「……本当に動くなんて!」


エリスの声に焦りが混じる。


「こいつら、全員動き出す可能性があるぞ!」


俺は剣を構えながら、台座の周囲を警戒する。


動き出した彫像は巨大な槍を手にしており、その槍を俺たちに向けて構えてきた。


「くそ、でかすぎだろ……!」


俺は槍の一撃を避けるために素早く横に飛び、エリスも別方向へと飛び退く。その一撃が床を砕く音が響き、部屋全体に震動が走った。


「智也、ただ避けてるだけじゃ無理よ!」


「わかってるさ! でも、どうやって攻略すればいいんだ!?」


俺たちは互いに叫び合いながらも、動きを観察し続けた。すると、彫像の動きにわずかな隙があることに気づいた。


「エリス、あいつ、槍を振りかぶった直後に動きが止まる!」


「その隙を狙うのね……でも、二人で連携しなきゃ無理!」


「わかった。俺が囮になる。お前はその隙に攻撃しろ!」


俺はエリスにそう告げると、意を決して彫像に向かって走り出した。


彫像の槍が再び振り下ろされる。俺はそれをギリギリで避け、さらに距離を詰めた。その間にエリスが背後から攻撃を仕掛ける。


「今だ!」


エリスが持つ杖が輝き、その一撃が彫像の背中に炸裂する。


「やったか!?」


だが、その瞬間、彫像はさらに赤い光を強く放ち、再び槍を振り上げた。


「嘘でしょ……!」


「まだだ……終わらせる!」


俺たちは再び立ち向かう決意を固めた。

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