第一章 第三十話「守護者」
三十話で一章分と思って書いていたのですが、どうやらあと十話ほど伸びそうです…
台座の上で淡い光を放っていた古びた本が、徐々に空中に浮かび上がる。その周囲に光の渦が巻き起こり、俺たちの周囲に異様な圧力がかかる。
「これは……本当にただの本なのか?」
俺はエリスに視線を向けたが、彼女も答えを持っていないようだった。その表情には明らかな警戒心が浮かんでいる。
「智也、この本、私たちを呼んでる……」
「呼んでる?」
エリスの言葉に、俺は戸惑いを隠せなかった。だが、確かにこの空間全体が俺たちを誘導し、試しているような感覚はずっとあった。
「何かを選ばせようとしているのか……?」
俺たちは慎重に本へと近づいていく。そのたびに光の渦が強くなり、空間全体が微かに震え始める。
突然、本が激しく光を放つ。それと同時に、俺たちの足元から複雑な文様が広がり、床全体に刻まれていく。
「気をつけろ!」
俺はエリスの手を引き、即座に後退する。しかし、後ろに退いたところで空間全体がゆがみ、再び足元が光り始める。逃げ場はない。
「智也、ここは……もう逃げられないみたいね。」
エリスの言葉にうなずきながらも、俺は周囲を見渡し、突破口を探る。だが、その瞬間、光の中から何かが形を成し始めた。それは人の形をしているが、明らかに人間ではない。
全身が白い霧に包まれ、顔や体の輪郭がぼやけている。しかし、その瞳だけは赤く光り、冷たく鋭い敵意を感じさせた。
「これは……守護者か?」
俺は本能的に身構えた。この空間を守る存在。俺たちがここにたどり着いたことに対する試練だと直感する。
守護者は言葉を発しない。ただ、無音のまま手を上げ、その場の空気を切り裂くような動きを見せる。その手から放たれた刃のような光が、俺たちに向かって襲いかかる。
「くっ!」
俺たちは咄嗟に散開し、それを避けた。だが、光の刃が壁に当たった瞬間、爆発的な衝撃波が広がり、空間全体がさらに歪む。
「こんなのどうやって戦えばいいのよ!」
エリスの叫びが響く。だが、俺も答えを持っていない。ただ必死に動き続けるしかなかった。
守護者の攻撃は次々と放たれ、その度に空間全体が激しく揺れる。避けるたびに体力が削られていくのがわかる。
「智也、このままじゃ……!」
エリスの声に俺は歯を食いしばる。どうすればいい?ただ避け続けるだけではいずれ力尽きる。だが、攻撃の隙を見つけられるほどの余裕もない。
「待て……あいつ、本当に倒さないといけないのか?」
ふと、俺の頭にひらめきが走る。この試練の目的は、力を示すことではない。これまでの扉や謎解きがそうだったように、何か別の方法があるはずだ。
「エリス!あいつの動きをよく見ろ!攻撃の狙いが俺たちを仕留めるためじゃない気がする!」
「え?どういうこと?」
俺の言葉に戸惑うエリス。だが、守護者の攻撃を再び避けながら、俺はその動きに集中する。確かに、攻撃は俺たちを直接狙っているようで、実際には空間全体を包むような軌跡を描いている。
「これは……封印を描いているのか?」
守護者の動きが意図的であることに気づいた俺は、次の一手を考える。
「智也!気をつけて!」
エリスの叫び声とともに、再び光の刃が俺に向かって放たれる。しかし、今回はそれをわずかに横へずらすように動き、壁へと誘導した。その結果、壁に描かれた文様が一瞬だけ輝きを失う。
「やっぱり……!」
この空間を守護しているのは守護者ではない。空間そのものだ。守護者の動きはそれを保つための儀式の一環に過ぎない。
「エリス!あの光を意図的に誘導して文様を壊すんだ!」
「わかった!」
彼女もすぐに俺の意図を理解し、守護者の攻撃を避けながら、それを周囲の文様へと誘導していく。
だが、守護者もそれを察したのか、動きがさらに激しくなる。その攻撃の精度が増し、俺たちに迫る。
「くっ、間に合うか……!」
必死に動き続ける中で、俺は自身の限界を感じ始めていた。だが、それでも足を止めるわけにはいかない。この試練を乗り越えなければ、俺たちは進むことができない。
光の渦がさらに激しくなり、空間全体が一瞬で暗闇に包まれる。
「智也……!」
全身を包む暗闇の中、俺の意識は深い迷宮の中に迷い込んだようだった。光も、音も、すべてが切り離され、エリスの声すら遠くに感じる。
「ここで終わりなのか……」
否応なしに脳裏をよぎる弱気な思考。しかし、それが現実になることを拒むように、心の奥底からエリスの顔が浮かび上がる。彼女の必死な表情、信じてくれる瞳。それが俺を支えている。
「まだだ……まだ終わらせるわけにはいかない!」
俺は暗闇の中で必死に拳を握りしめる。すると、不思議なことに体の奥から微かな熱が広がり、それが全身へと伝播していくのを感じた。
暗闇が徐々に霧散していく。視界を取り戻した先に見えたのは、守護者が中央に立ち、両腕を天へと突き上げる姿。空間全体に新たな文様が描かれ、守護者の動きはそれを完成させるかのようだった。
「奴を止めるには、この文様を完全に壊さなければならない……だがどうすれば?」
考えを巡らせる間にも、守護者の動きが加速する。エリスは必死に攻撃を誘導し続けているが、守護者のスピードが上回ってきている。
「エリス!」
俺は叫びながら駆け寄る。彼女が振り向いた瞬間、俺たちの視線が交差する。その目には疲労と焦りが浮かんでいた。
「智也、もう限界よ……!」
彼女の声が痛々しい。だが、俺は首を振ることで否定する。
「まだだ、諦めるな!奴の動きを逆手に取るんだ!」
俺は守護者の動きに集中する。奴は一定のリズムで文様を描きながら攻撃している。まるで完成を急いでいるかのようだ。
「エリス、次の攻撃を見計らって、奴の動きを一瞬だけ止める。俺が突っ込む!」
「何をするつもり?」
「文様の中心――そこに何かあるはずだ!」
エリスは驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な顔つきに戻る。
「わかった……でも、無茶しないで!」
彼女の言葉に頷きながら、俺は守護者の攻撃に合わせて動き出す。
守護者が再び手を振り下ろし、光の刃を放つ。エリスがその一撃を受け流し、壁に誘導する。それが守護者の注意を一瞬だけそらせた。
「今だ!」
俺は全速力で守護者の懐へ飛び込む。周囲の空間が揺れる中、文様の中心へと手を伸ばす。そこには小さな円形の装置が埋め込まれており、淡い光を放っている。
「これが鍵か……!」
装置に触れた瞬間、激しい光が弾け、守護者の動きが一瞬止まる。その隙に、エリスが最後の力を振り絞り、守護者の攻撃を完全に無力化するように誘導する。
「エリス、今だ!」
彼女が頷き、全力で装置にエネルギーを注ぎ込む。
空間全体が一瞬で静寂に包まれる。守護者の姿が徐々に消え、文様も光を失い始めた。
「やった……!」
俺たちは互いに息を切らしながらその場に座り込む。だが、安心する暇もなく、新たな光が装置から放たれる。それはまるで新たな道筋を示すようだった。
「これが……次の試練?」
エリスが疲れた声で呟く。その声に、俺は黙って頷くしかなかった。だが、この試練を乗り越えたことで得たものも確かにある。
「智也、ありがとう……私、もう少しで諦めるところだった。」
エリスの言葉に、俺は小さく微笑む。
「俺も同じさ。でも、君がいたからここまで来られたんだ。」
俺たちは互いに笑い合いながら、光の中へと足を踏み出す。まだ終わりではない。だが、次へ進むための覚悟はもうできている。
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