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転生先は量子の彼方!?次元を超えたハードライフ革命  作者: 成瀬アイ
[第一章]俺、データになりました!?
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第一章 第二十六話「崩れた均衡」

霧が晴れていく中、俺は膝をついたまま剣を杖代わりに立ち上がった。倒したはずの敵の残滓はどこにも見当たらない。しかし、その安堵を得る暇すらないほど、体力は限界に近かった。


「智也、大丈夫?」


エリスが駆け寄り、手を貸してくれる。その手は冷たいが、不思議と心を落ち着かせる温もりがあった。


「なんとか…だが、次が来ると正直厳しいかもな。」


言葉を絞り出すと、エリスは小さく眉をしかめた。


「時間がないわ。ここで一旦、体勢を整えるしかない。」


彼女はそう言いながら、杖の先を地面に押し付けた。すると杖が淡い光を放ち、周囲の空間がゆっくりと変化していく。霧の気配がわずかに後退し、冷え切っていた空間に少しだけ暖かみが戻った気がした。


「何をしたんだ?」


「簡単な結界を張ったの。これでしばらくは安全だけど…長くは持たないわ。」


エリスの顔には疲労の色が濃い。これまで何度も彼女に助けられてきたが、負担をかけすぎているのは明らかだった。


「エリス、無理はするな。俺たちはここで倒れるわけにはいかない。」


俺の言葉に、彼女は小さく頷いた。その目にはまだ強い意志が宿っている。


結界内に腰を下ろし、短い休息を取る間、俺たちは次の一手を考える。あの霧の化物がどうしてここに現れたのか、そして次は何が待っているのか。


「一つ気になることがあるわ。」


エリスが口を開く。その声にはいつも以上の緊張が滲んでいた。


「この霧…単なる敵じゃない。空間そのものが敵意を持って動いているように感じるの。」


「空間そのもの?どういうことだ?」


「私も確信があるわけじゃない。でも、この空間の法則や感覚が変わるたびに、何かが私たちを観察しているような気配を感じるの。」


言われてみれば、確かに戦闘中も妙な視線を感じたことがあった。それが敵から発せられたものではないとするなら…。


「ここがただの異空間じゃないとしたら?」


俺の言葉に、エリスは目を伏せた。考え込むような仕草だが、その表情には恐怖も混じっているように見えた。


「でも、今は深く考えても仕方ない。」


俺はそう結論づけ、剣を手に立ち上がった。短い休息で全快とはいかないが、少しは体力が戻った気がする。


「エリス、結界を解除してくれ。進もう。」


「わかったわ。」


彼女が杖を軽く振ると、光の結界が消え去る。途端に冷気が戻り、再び霧が立ち込めてくる。


「今度は気をつけて。霧の流れを読むのよ。」


エリスの忠告を胸に、俺たちは慎重に進んだ。しかし、数歩進むごとに霧が濃くなり、足元さえも見えなくなっていく。


「こんな状況で次の敵が現れたら、逃げ場もないぞ…!」


不安が募る中、霧の中からかすかな音が聞こえた。それは金属が擦れ合うような、不気味な音だった。


音の正体を探ろうと目を凝らすが、霧が視界を遮るばかりで何も見えない。しかし、音は確実に近づいてきていた。


「来るぞ…!」


警戒を強める中、霧の中から現れたのは、前の敵とはまるで異なる姿をした存在だった。全身を鎧で覆われたその影は、剣を携え、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。


「また新手か…!」


剣を構え直し、俺は影と対峙する。しかし、その存在から感じる威圧感は、これまでの敵とは比べ物にならない。


「智也、気をつけて…あれはただの霧じゃない。何か…もっと恐ろしい力が込められているわ。」


エリスの警告を耳に、俺は影の動きに集中した。そして、影が剣を振り上げた瞬間、俺は本能的に身を翻して回避した。


刹那、影の剣が地面を切り裂き、鋭い衝撃波が周囲に広がる。その威力に、俺は目を見開いた。


「クソッ、なんてパワーだ…!」


影はそのまま剣を振り下ろし、連続して攻撃を仕掛けてくる。その動きは重厚でありながら、隙がない。


「智也、動きを封じる方法を考えて!」


エリスの声が飛び込むが、次々と迫る攻撃に応じるだけで精一杯だった。しかし、このままではいずれ力尽きるのは目に見えている。


「なんとかして突破口を見つけないと…!」


影の動きには一定のリズムがあることに気づいた。攻撃の合間にわずかな隙間が生じる。それを突くしかない。


「エリス、奴の背後を狙え!俺が正面から引きつける!」


「わかった!」


俺たちは息を合わせ、攻撃のタイミングを狙った。しかし、次の瞬間、影が突然、動きを変えた。


「なに…?」


影は霧と一体化し、再びその姿を消した。そして、霧全体が蠢くように動き出す。


「まずい…これじゃどこから攻撃が来るかわからない!」


俺たちは再び霧に翻弄される状況に陥った。次の手を考える時間は、もはや残されていなかった…。


霧が不気味に蠢き、俺たちを取り囲むように広がっていく。あの鎧の影が姿を消したことで一瞬の静寂が訪れたが、むしろそれがより不安を煽る。


「まずい…このままじゃ奴の動きが全く読めない。」


霧の中に潜む影がどこから襲いかかってくるのか、予測すらできない状況だ。しかも、この空間そのものが敵の支配下にあるような錯覚を覚える。


「エリス、何か分かるか?」


俺は焦りを抑えながら彼女に問いかけた。だが、エリスは眉間に皺を寄せて周囲を睨むだけで、すぐには答えなかった。その表情から察するに、彼女もこの状況を完全には理解していないようだ。


「霧が…ただの障害じゃない。智也、この霧は意識を持ってるかもしれないわ。」


「意識を持つ霧だって?そんな馬鹿な…!」


俺は思わず叫んでしまったが、エリスの言葉に根拠がないわけではない。霧の動きには確かに意図的なものを感じる。俺たちの注意を逸らし、じわじわと追い詰めるような知性が隠されているのだとしたら…。


「もしこの霧が意識を持っているなら、私たちの動きを読み取ってる可能性がある。迂闊に動くと逆に隙を突かれるわ。」


「じゃあ、どうすればいい?ここに留まってるだけじゃ、いずれ奴に飲み込まれる。」


焦燥感が胸を締め付ける。状況を打破する方法が見つからない中で、時間だけが過ぎていく。


「一つ試してみる価値があるかもしれない。」


エリスが突然口を開いた。その声には、かすかな不安と同時に決意が混じっている。


「この霧が私たちの行動を読んでいるなら、逆にそれを利用するの。」


「利用する?どういうことだ?」


「私が囮になるわ。その間に智也が霧の中心を探るのよ。」


その提案を聞いて、俺の心はざわめいた。彼女を囮にするなど、到底受け入れられない。しかし、反論する前にエリスはさらに続けた。


「ここでじっとしていても何も変わらない。この霧は動きに反応する。だから、私が目立つ行動をすれば、霧も私に集中するはずよ。」


「だが、それじゃお前が危険にさらされる!」


「私なら大丈夫。魔力で防御を固めるから、少しの間なら耐えられる。」


その言葉に説得力がないわけではない。だが、それでも俺の心は葛藤に揺れた。彼女にすべてを任せるのは気が引ける。しかし、他に選択肢がないのもまた事実だった。


「…わかった。だが、絶対に無茶をするなよ。」


俺はそう言って、剣を握り直した。エリスも頷き、杖を構える。その姿に不安と同時に頼もしさを感じる。


「いくわよ。」


エリスが呪文を唱えると、杖の先から眩い光が放たれた。それが霧を切り裂くように広がり、周囲を照らす。同時に彼女は全力で走り出し、意図的に大きな音を立てながら動き回る。


「来い!こっちよ!」


彼女の声が響き渡り、それに呼応するように霧が一斉に蠢いた。その動きはまるで、生き物が餌に飛びつくような凶暴さを帯びている。


「今だ!」


俺は彼女が作り出した隙を逃さず、霧の奥へと足を踏み入れた。霧の中心に何があるのか、それを探り出すために全神経を集中させる。


霧の中はさらに冷たく、視界はほとんどゼロだ。だが、霧の流れには一定の規則性があることに気づいた。まるで、何かが呼吸しているような動きだった。


「これが中心に向かう道筋か…?」


俺はその流れを辿りながら進む。やがて、霧の中に奇妙な光が見えた。それは青白く、脈動しているように見える。


「これが…霧の正体か?」


近づくと、それは一つの結晶のようなものだった。結晶の内部には渦巻くような霧が閉じ込められており、それが全体を支配している源のように見える。


「これを破壊すれば…!」


俺は剣を振り上げた。しかし、その瞬間、結晶が反応した。周囲の霧が一気に濃くなり、俺の動きを封じるかのように押し寄せてくる。


「くそっ…!」


全身に重圧を感じながらも、俺は剣を振り下ろした。結晶に剣が触れると、眩い光が放たれ、霧が一瞬だけ消失する。


「やったか…?」


しかし、安堵する暇もなく、霧が再び集結し、さらに凶暴な形で俺に襲いかかってきた。


「これじゃキリがない…!」


その時、遠くからエリスの声が聞こえた。


「智也、結晶を壊すだけじゃダメ!その中に隠された核を破壊しないと!」


「核だと…?」


彼女の言葉に従い、俺は結晶の表面を観察した。よく見ると、内部にわずかながら異質な光が存在している。それが核に違いない。


「分かった。これが最後の一撃だ!」


俺は全力で剣を振り上げ、結晶の中心を目指して突き刺した。その瞬間、周囲の霧が一気に消失し、空間全体が静寂に包まれた。

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