第一章 第二十五話「霧」
タイトルを、スローライフ革命から、ハードライフ革命に変更しました。全然スローライフしてないので…
霧が視界を覆う中、俺たちは全身を緊張で包まれていた。この空間で何かが目覚めようとしているのは明らかだった。
「智也、この霧…ただの煙じゃない。何かが混じってる。」
エリスがそう言うと同時に、俺の体がずっしりと重く感じられる。酸欠のような息苦しさが全身を締め付けるように襲いかかってきた。
「なんだよ…これは…」
まるで空気そのものが生きているかのような感覚だった。目には見えないが、霧の中に無数の小さな意識が潜んでいるように思える。
「おそらく、この空間そのものが敵なのよ…。」
「空間が敵だって?冗談じゃない!」
俺は剣を構えながら霧をかき分けるが、何の感触も得られない。ただ視界がぼやけ、次第に自分の位置感覚さえも狂い始める。
「このままじゃマズいな…。エリス、何か方法はないか?」
「考えてる。でも、この霧の性質を完全に理解しないと何もできない…!」
エリスが焦りを隠せない様子で文書を広げる。彼女の指先は震えているが、それでも集中して解読を続ける姿に、俺は胸が締め付けられる思いだった。
「大丈夫だ。エリス、お前を信じてる。」
「…ありがとう。でも時間がないわ。」
その瞬間、霧の中から鋭い音が響いた。まるで何かが裂けるような音――そして、それに続く足音。
「来たか…!」
俺は剣を握り直す。霧の中から徐々に形を現したのは、さっきの黒い騎士たちとはまるで異なる存在だった。
それは人型ではあったが、どこか歪で不気味だった。腕は異常に長く、全身が黒い鎧に覆われているわけではなく、部分的に露出したその体には霧のようなものが絡みついている。目に当たる部分からは淡い光が漏れ出しており、こちらをじっと見つめていた。
「新手かよ…」
俺は呆れをこらえながら、そいつと向き合う。だが、その異様な気配に言い知れぬ恐怖を感じたのも事実だった。
「エリス、時間を稼ぐ!」
「分かった。でも、気をつけて!」
俺はそいつとの間合いを詰め、まず一撃を見舞おうとした。だが、その剣が触れる直前で、そいつの体が霧となって消えた。
「なっ…!」
振り返ると、そいつは俺の背後に回り込んでいた。
「速い…!」
俺はとっさに剣を振り返し、間一髪でその攻撃を受け止める。衝撃が体に伝わり、足元が揺らぐ。その攻撃の重さは、先ほどの騎士たちとはまるで別物だった。
「こいつ…強い…!」
一進一退の攻防が続く中で、俺はあることに気づき始めた。そいつの攻撃には一定の「間」がある。それは単に隙を突くためのものではなく、むしろこちらの動きを観察するためのものだった。
「まさか…」
「智也、分かったわ!」
エリスが叫ぶ。
「その霧の化物は、この空間の『管理者』みたいな存在よ。空間全体と連動して動いてる!」
「つまり、こいつを倒せば…?」
「ええ。この霧も弱まるはず。でも、簡単にはいかないわ。その動きには法則性があるけど、それを解読するにはもっと時間が必要…!」
「時間稼ぎなら任せろ!」
俺はそう言うと、わざとそいつの間合いを広げるように動き始めた。相手がこちらを追い詰めようとする動きにあわせて、逆にその動きを観察する。
「よし…見えてきた…」
そいつの攻撃は、一見すると無秩序に見えるが、実際には霧の濃淡と連動している。霧が濃くなるときには防御的な動きを、薄くなるときには攻撃的な動きを取る。そのリズムを掴めれば、反撃のチャンスが見えてくるはずだ。
「エリス、もう少しだ!こいつの動きが分かり始めた!」
「分かった、急ぐわ!」
彼女の言葉が背中を押す。俺は自分の体力の限界を感じながらも、相手のリズムを読み解き、次の一手を考えていた。
霧の化物の動きが一瞬、止まる。そのわずかな間隙を見逃すことなく、俺は全力で斬撃を振り下ろした。だが、刃は空を切り裂くだけで、奴の身体を捉えることはできなかった。
「クソッ…また霧に紛れたか!」
苛立ちが声に滲むが、すぐに冷静を取り戻す。この霧が奴の盾であり、武器でもあるならば、それを逆手に取る術を見つけなければ勝ち目はない。
「智也!」
エリスの声が霧の中から響く。その中には、焦燥と確信が混ざり合ったような響きがあった。
「霧の動きと奴の攻撃には一定の法則がある。間合いを詰めるタイミングで霧が薄くなる瞬間があるはず!」
「その瞬間を狙えってことか!」
「ええ。ただし…その間に奴も隙を狙ってくるわ。慎重に!」
エリスの言葉を胸に刻みながら、俺は再び剣を構えた。周囲の霧の流れを注意深く観察する。
奴がゆっくりとした動きで霧の中から姿を現した。その異様に長い腕が音もなく宙を掻き、次第にこちらへと迫ってくる。その動きは一見、無秩序のようでいて、明確な意図が隠されている。
「ここだ…!」
奴が間合いを詰める一瞬のタイミング、霧が薄くなるその瞬間を狙い、全力で突き込んだ。
刃は奴の体に直撃し、わずかに霧のような表面を削り取る。しかし、致命傷には至らない。むしろ奴の動きは一層激しさを増し、反撃の一撃が俺を襲う。
「智也、下がって!」
エリスの声が飛び込むと同時に、彼女の持つ杖から光が放たれた。光が霧を一瞬弾き飛ばし、視界が開ける。
「その杖…そんなこともできるのか?」
「この空間の性質を利用して、霧を一時的に中和してるだけ。でも長くは持たない…!」
そのわずかな間に、奴の動きが鈍ったのを見逃さない。
「ここが勝負どころだな!」
俺は再び剣を構え直し、奴との距離を詰める。
間近で見ると、その異様な姿が一層不気味に感じられる。霧に覆われた体から放たれる冷たい光が、空間全体を照らしている。その光に触れるだけで、全身が凍りつくような錯覚に陥った。
「近づくな…!」
頭の中でそんな声が響いたような気がしたが、俺はそれを振り払い、さらに一歩踏み込む。
「これで終わりだ…!」
剣を振り下ろした瞬間、奴が再び霧となって姿を消した。しかし、霧全体が揺らぐような感覚が伝わる。それは、奴自身が霧そのものに溶け込んだ証拠だった。
「まずい…!」
俺は即座に後退するが、霧の中から無数の黒い腕が伸びてきて、こちらを捕らえようとする。
「智也!」
エリスが呪文を唱えると、再び光が放たれ、腕の一部を弾き飛ばした。
「もう少し…時間を稼いで!」
エリスの声に応えるべく、俺は霧の腕を剣で払いながら、必死に耐えた。
「分かった!あの光を…!」
エリスが叫ぶと同時に、杖を高く掲げる。その瞬間、霧の中に裂け目が生まれた。
「その裂け目が奴の弱点だ…!」
俺はエリスの言葉を信じ、裂け目に向かって全力で突撃する。その瞬間、奴が再び姿を現し、凄まじい力で反撃を試みた。
剣と奴の腕が交錯し、衝撃が全身に走る。しかし、俺は怯まず、その勢いを利用して剣を押し込んだ。
霧が一気に晴れ、空間が静寂に包まれる。奴の体は崩れ落ち、やがて消えていった。
「これで…終わったのか…?」
俺は剣を収めながら、息を整えた。
「終わったわけじゃない。これが…始まりよ。」
エリスのその言葉が、不安をかき立てるように響いた。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価と、ブックマークをしていただけると、ハッピーな気持ちになります!




