第一章 第二十三話「祭壇の謎」
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目の前に広がる異世界の光景に、俺は言葉を失った。暗闇を切り裂くように配置された無数の石灯篭が、まるで星座を描くように光を放っている。それらが中央の祭壇を取り囲み、石板を神秘的に照らし出していた。
「なんて場所だ…」
エリスもまた、この空間の荘厳さに息を呑んでいる。だが、そんな悠長な時間はなかった。背後の扉が鈍い音を立てて閉まり、俺たちを閉じ込めたからだ。
「ここから先、後戻りはできないってことね。」
エリスがその場にしゃがみ込み、再び石板を注意深く観察し始めた。俺も周囲を警戒しながら、彼女の背後に立つ。
「文字が多すぎるな。何か手がかりは…」
俺が呟くと、エリスが石板の一部を指差した。そこには複雑な模様が刻まれており、その周囲に古代文字らしきものが並んでいる。
「これ、前に見た石板の記号と一致してるわ。だけど意味を解読するにはもっと時間が必要…」
彼女が言葉を切った瞬間、空間全体が低い振動音を立て始めた。俺たちが振り返ると、壁一面に刻まれた文字がゆっくりと光り始める。それはまるでこの場所自体が生きているかのようだった。
「…待て。この光のパターン、何か伝えてきているのかもしれない。」
俺は自分の直感を信じ、壁の光の動きを観察する。パターンは規則的に繰り返され、石板の模様とどこかリンクしているように見えた。
「石板と壁、これが鍵だな。」
エリスも頷きながら、光の変化を記録していく。だがその時、空間全体が再び揺れ、祭壇の周囲に黒い霧のようなものが立ち込め始めた。その霧からは、低いうなり声とともに人影のようなものが浮かび上がってくる。
「敵だ!」
俺はすぐさま剣を構えたが、エリスがそれを制する。
「待って、これまでの敵とは違う。もしかしたら…」
彼女が言葉を紡ぐ間もなく、黒い影が一斉にこちらへ向かってくる。その姿は人間のようだが、目には生気がなく、操られているようにしか見えなかった。
「意思がないなら、戦うしかない!」
俺は剣を振るい、一体の影を切り裂いたが、手応えがない。剣が影を貫いた瞬間、抵抗もなく霧散し、すぐに別の場所から再生する。
「くそっ、どうすれば…!」
苦戦の中で、俺たちは次第に追い詰められていく。だがエリスは冷静だった。
「智也、この祭壇が敵を生み出している可能性があるわ!」
「じゃあ祭壇をどうにかすればいいのか?」
「そのはず。でも祭壇を壊すのはまずいわ…この空間全体に影響を与える可能性がある。」
俺は咄嗟にエリスの言葉を理解し、敵の動きを封じる方法を考え始めた。石板の模様、壁の光、そして祭壇の仕組み。それらが何か一つの答えに繋がっているはずだ。
「分かった。この石板を使うんだな?」
エリスは頷きながら、石板を祭壇にかざす。だが敵はそれを阻止しようと動き始めた。
「時間を稼ぐ!お前は集中しろ!」
俺は再び剣を構え、影たちを引き付けるように動いた。攻撃は効かないが、動きを妨害することはできる。
「これで…どうかしら!」
エリスが石板を祭壇に嵌め込むと、再び空間全体が振動した。影たちはその場に立ち止まり、一瞬の静寂が訪れる。そして、闇が次第に消え去り、祭壇の周囲に清らかな光が戻ってきた。
「成功したのか?」
俺が確認すると、エリスが小さく頷く。
「ええ。おそらく…」
エリスが祭壇に嵌め込んだ石板が、淡い光を放ち始める。彼女の手から離れると、それは祭壇の中央に吸い込まれるように沈み込み、まるで鍵が回されるような機械的な音が響いた。
だが、光が完全に消えるよりも先に、新たな異変が空間に広がり始めた。
「エリス!これは…!」
俺の声を遮るように、祭壇を覆っていた模様が一斉に輝き、黒い霧が激しくうねりを上げる。その中心に現れたのは、これまでの影とは明らかに異なる存在だった。
巨大な人型の影が浮かび上がり、目の部分が燃えるように赤く光る。その姿は威圧感そのもので、明らかにただの守護者ではない。「何かを試そうとしている」、そんな意図すら感じられる冷たい視線がこちらに向けられていた。
「どうする?こいつもさっきみたいに…」
「智也、これは違うわ。倒すだけじゃ解決しない…」
エリスは冷静に敵の動きを観察しながら答える。だが、奴は待ってはくれない。両腕をゆっくりと上げると、空間全体が震え、石板や壁に刻まれた模様が次々と砕け散っていく音がした。
「祭壇が崩れたらまずいんだろ?」
俺は咄嗟に剣を構えたが、その一撃を簡単に受け止められた。衝撃で弾き飛ばされる俺を見て、エリスが叫ぶ。
「智也、無理に力を使わないで!まずは奴の動きを分析するわ。」
「そんな時間、あるかよ!」
影は俺の方へと近づいてくる。剣を振るうたびに、一瞬だけ形を崩すが、すぐに再生する。攻撃は効かない。
「待て…この空間全体が奴の力に繋がってるのか?」
俺は周囲を見渡しながら、先ほどの石板の模様と壁の文字を思い出す。光が揺れた場所、崩れた部分、そして再び点滅する祭壇の中心。そこに何らかの「制御」が存在するのだと確信した。
「エリス、祭壇をもう一度使えないか?奴の力を無効化する方法があるはずだ!」
「でも、石板が砕けて…待って、まだ使えるかもしれないわ。」
エリスが再び祭壇に近づき、懐から取り出した古い文書を広げる。その中には、かつて解読した記号と似たパターンが描かれている。彼女はその文書を頼りに、再び祭壇に触れ始めた。
「時間を稼ぐ!俺が引き付ける!」
敵の攻撃は重く、剣を受け止めるたびに腕が痺れる。奴の動きは鈍いが、その一撃一撃には凄まじい力が込められていた。だが、その巨体のために死角も多い。俺はその隙を突き、できるだけ奴を翻弄するように立ち回った。
「エリス、あとどれくらいだ!」
「もう少しよ…このパターンを正確に合わせないと!」
彼女が必死に祭壇を操作する間、俺の体力は限界に近づいていた。影は俺の動きを完全に捉え、巨大な腕を振り下ろしてくる。剣で防ぐが、その衝撃で地面に叩きつけられ、息が詰まる。
「智也!」
エリスが叫ぶのが聞こえる。だが、俺は意識を失いかけながらも、剣を握る手を離さなかった。このままではエリスも危ない。
「くそっ…まだ終わらせられないんだよ!」
俺は全力で立ち上がり、再び影に向かって突撃する。だが、その時、祭壇が再び光を放ち始めた。
「成功した…!智也、後ろに下がって!」
エリスが声を張り上げると同時に、祭壇から放たれた光が影を包み込んだ。奴はもがき、形を変えながら抵抗するが、次第にその存在が薄れていく。そして、光とともに完全に消え去った。
空間に静寂が戻る。エリスが肩を落として祭壇の前に座り込むのを見て、俺もようやく剣を地面に突き立て、膝をついた。
「やったな…」
「ええ、でも…」
エリスの表情は晴れない。祭壇の光が完全に消え去り、文様も跡形もなくなってしまったからだ。
「これでよかったのか、分からないわ。もしかすると、この祭壇にはもっと重要な意味があったかもしれない。」
「でも、俺たちは生き残った。それだけで十分だろ。」
俺の言葉に、エリスは小さく微笑む。それでも、彼女の目はこの空間が抱える謎の先を見据えていた。
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