第一章 第二十一話「封じられた記憶の石板」
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「これが鍵だとしたら、次の扉がどこにあるのかも同時に分かればいいんだけどな。」
石板を持ちながら俺はため息をついた。手の中にあるそれは、驚くほどひんやりとしていて、指先にわずかな振動を感じる。まるで生きているかのようだった。
「智也、石板をじっくり見てみて。何か隠されたヒントがあるかもしれない。」
エリスが慎重にアドバイスをくれる。彼女の目は真剣そのもので、今この場で全てを解き明かそうとする意気込みが伝わってくる。
俺は石板を手のひらに乗せ、細部までじっくりと眺めた。表面には独特の模様が刻まれており、その間に埋め込まれた文字のようなものが浮かび上がっている。それは言葉というより、まるで音や感情そのものを表現しているかのようだった。
「あのイメージ…やっぱりこれが鍵か。」
俺は思わず呟く。頭の中に流れ込んだ記憶の断片が、徐々に形を成し始めていた。それはただの情報ではなく、まるで誰かが残した強い願いのようなものだった。
エリスが小型の解析装置を取り出し、石板に向けて光を照射する。
「…これはデータではなく、エネルギーのようね。でもただのエネルギーじゃない。何かを伝えるために精巧に作られている。」
エリスの顔には困惑と興味が混ざり合った表情が浮かぶ。その言葉が意味するところを理解するには、もう少し手がかりが必要だった。
「これが空間の仕掛けの一部なら、次のステップがあるはずだ。ここで終わりというのは考えにくい。」
俺たちは再び周囲を見回しながら、光の柱が立ち上る中心部分を観察した。柱の光は穏やかになり、揺らぎの中に何かを映し出している。
「見て!」
エリスが指差した先には、光の柱の中に浮かび上がる紋様があった。それは石板に刻まれている模様と酷似しており、何かを示しているように見える。
「これって…方向を示しているのか?」
俺は石板を柱に向け、模様が一致する角度を探った。すると、石板全体が強く発光し、柱から新たなラインが床に向かって伸びていった。そのラインは部屋の奥にある壁まで続き、そこに新たな模様が浮かび上がる。
「どうやら進むべき道が見えてきたみたいね。」
エリスが微笑みながら言うが、その目は依然として警戒を怠らない。俺も気を抜くつもりはなかった。この空間に隠された仕掛けは、どれも油断すれば命取りになるようなものばかりだ。
「行こう。だけど、慎重にな。」
俺たちは新たに現れた模様の前に立ち止まり、それがどう動作するのかを観察する。模様は次第に変化し、扉の形を形作り始めた。そして扉の中央部分には、石板をはめ込むような凹みが現れる。
「これで合ってるんだろうか。」
石板を持つ手に少し汗が滲む。間違えればまた新たな罠が作動する可能性がある。
「大丈夫、これまでの仕掛けと同じロジックよ。進むべき道を開くために石板が必要なだけ。」
エリスの声に励まされ、俺は石板を凹みにゆっくりと差し込む。瞬間、扉全体が低い振動音を立てながら開き始めた。
扉の向こうには暗闇が広がっていたが、ほんのかすかに光が漏れ出している。その光は穏やかで、まるで道を示してくれているかのようだった。
「準備はいいか、エリス。」
「もちろんよ。何があっても冷静に対処するわ。」
俺たちは再び気を引き締め、暗闇の中へと一歩を踏み出した。
暗闇に足を踏み入れた瞬間、温度が変わったことに気づいた。周囲の空気は湿り気を帯び、微かな香りが鼻をくすぐる。それは植物が密集している森のような匂いで、ここが人工物の空間だとは思えないほどだった。
「…不思議な感覚ね。」
エリスが小声で呟いた。その声が闇に吸い込まれるように消え、俺たちの進む足音だけが響く。
「でも何かいる。」
俺は低く言い、剣の柄に手を掛けた。目が闇に慣れ始めると、前方にぼんやりとした光の点がいくつも浮かび上がる。それらは規則的に揺れ、まるで俺たちを誘うようだった。
「罠の可能性が高い。」
エリスが言い、彼女も腰の短剣に手を添える。二人で光源に近づくと、それは石柱に取り付けられたランプであることが分かった。古びた装飾が施されており、ここがただの廃墟ではないことを示している。
「ここは…かつて何かの聖域だったのかもしれないな。」
俺がそう言ったのは、柱の根元に彫られた文字群を見たからだ。それは俺たちの持つ言語の一部と似ているが、完全には一致しない。
「古代文字…私たちがいる場所の歴史を知る手掛かりかもしれないわね。」
エリスがランプの明かりを頼りに文字を読み取ろうとするが、すぐに何かに気づき、顔を上げた。
「…何かが動いている。」
彼女の声が鋭くなった次の瞬間、遠くから低い唸り声が聞こえてきた。それは風の音とは違い、まるで生き物の咆哮のようだった。
「来るぞ!」
俺は剣を引き抜き、背後をエリスに守るよう指示した。暗闇の中、足音が重なり、複数の影が近づいてくるのが分かる。光源に照らし出されたそれらは、鋭い牙と巨大な体を持つ異形の獣だった。
「どう見ても普通の生き物じゃないな。」
「注意して!体が硬そう…。」
エリスの警告通り、その獣たちは岩のような皮膚を持っており、普通の攻撃では傷つけられないことがすぐに分かった。俺は試しに一体に剣を振り下ろしたが、剣先が弾かれ、火花を散らすだけだった。
「くそっ、こいつらどうすれば…!」
俺が苛立ちを隠せない中、エリスが後ろで呟くように何かを唱え始めた。彼女の手元には石板があり、それが再び光を発している。
「智也、石板を使うわ。この空間そのものが仕掛けられているみたい。」
エリスの言葉に、俺は咄嗟に防御に専念し、彼女が集中できるよう時間を稼ぐことにした。
「早く頼む!」
俺の声が焦りを帯びる中、獣たちは次第に包囲の輪を狭めてくる。だがその時、エリスの手元から眩い光が放たれ、石板が共鳴する音が響き渡った。
「これでどうかしら!」
彼女が石板を高く掲げると、獣たちは一斉に動きを止めた。まるでその光に怯えるように後退し始める。
「効いてる…!」
俺たちは息を合わせて光を中心に進み、獣たちを退けながら奥へと進んだ。その先にはまた別の扉があり、石板の光がそれを照らしている。
「ここも同じ仕掛けか…?」
俺は石板を扉の中央にかざしながら、エリスの意見を求めた。
「ええ。でも今度は石板だけじゃなく、周囲のランプも何か関係がありそう。」
彼女の指摘を受け、俺たちは扉周囲のランプを点検する。それらはすべて異なる位置に設置されており、光の色も微妙に異なっていることに気づく。
「順番を示しているのか?」
「その可能性が高いわ。けどどれが正しい順番か分からない。」
俺たちは再び石板を観察し、そこに刻まれた模様とランプの配置を照らし合わせる。しばらくの試行錯誤の末、ある順番でランプを操作すると扉がゆっくりと開き始めた。
その先には広大な空間が広がっていた。天井が高く、壁には無数の文字と図形が刻まれている。中央には円形の祭壇があり、その上にはまた別の石板が置かれていた。
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