第一章 第十五話「砂時計の謎」
美味しいご飯が食べたい。
目の前に現れたのは、不気味な静けさをたたえた円形の部屋だった。壁には無数の歯車が埋め込まれ、それぞれが複雑な音を立てながら回転している。天井には巨大な砂時計が吊るされ、砂が細い流れとなって下のガラスに落ちていた。その光景はどこか時間そのものの流れを具現化したような、不思議な威圧感を持っていた。
「また新しい場所か…」
俺は足を止め、周囲を見回した。目立った敵や罠の兆候はないが、この静けさが逆に不安を煽る。エリスはその場で膝をつき、空間の魔力の流れを探っているようだった。
「智也、この空間…どうやら時間そのものが鍵になっているみたい。砂時計はただの飾りじゃないわ。」
「時間が鍵か…具体的には?」
「まだ確証はないけど、この砂時計が部屋全体の仕組みに連動しているのかもしれない。あの砂が全部落ちた時、何かが起きる可能性が高いわ。」
エリスの言葉に、俺は砂時計を見上げた。その中を流れる砂の速度は驚くほど一定で、残りの時間が視覚的に分かる仕組みになっている。
「ってことは、時間切れになる前に解決しなきゃならないってことか…焦らせてくれるじゃないか。」
部屋の中央には、円形の台座があり、その上には六つのボタンが並んでいる。それぞれのボタンには異なる模様が彫られており、どれも見たことのない複雑な記号だった。
「エリス、このボタンたちは?」
「恐らくこれが仕掛けの一部ね。模様を見て、何か気づくことはない?」
模様をじっと見つめながら、俺は考えを巡らせた。その記号には、何か規則性があるように思える。六つの模様は、それぞれ太陽、月、星、歯車、砂時計、そして時計の針を示しているようだった。
「太陽、月、星…それに時間を表すものか。これ、順番が関係してるんじゃないか?」
「その可能性は高いわね。」
エリスが頷きながら、自分の杖で模様を指し示す。
「この順番を間違えると罠が発動するかもしれないから慎重にいきましょう。でも、ヒントがどこかにあるはず。」
俺たちは部屋を隅々まで調べ始めた。歯車が動く音が響く中、壁にはいくつもの古い文字が刻まれているのを見つけた。それはまるで、部屋の秘密を示す手掛かりのようだった。
「エリス、これを見てくれ。文字が壁一面に刻まれてる。」
エリスが駆け寄り、文字を指でなぞる。その表情が徐々に真剣さを増していく。
「この文字…古代語だわ。翻訳するから少し待って。」
彼女が呪文を唱え始めると、文字が青白く光り、次第に現代語へと変わっていく。
『太陽の昇る時、始まりが生まれ、星が輝く夜に終わりが訪れる。時間の守護者はその間を繋ぎし者』
「なるほど、これがヒントか…!」
「つまり、この順番ってことか?」
「ええ、太陽、月、星が時間の流れの指標になってる。最後に時計の針や砂時計が来るのも筋が通るわ。」
俺たちは台座に戻り、模様を一つずつ確認した。まずは太陽のボタンを押し、その後に月のボタンを押す。そして、星の模様に手を伸ばそうとした時、不意に砂時計の中の砂の流れが速くなり始めた。
「ちょっと待って、砂が…!なんで加速してるんだ!?」
「分からないわ!でも急いで!」
焦りながらも冷静に模様を押していく。星、歯車、砂時計、そして最後に時計の針の模様を押した瞬間、部屋全体が振動を始めた。
「何かが動き出した…?」
床が徐々に沈み込み、中心部分に新たな階段が現れた。歯車の動きが音を立てて止まり、砂時計の流れも完全に停止した。
「やったのか?」
「ええ、これで先に進めるわね。」
安堵の息をつきながら階段を見下ろすと、薄暗い光がその奥へと続いているのが見えた。しかし、そこに何が待ち受けているのかは、まだ分からない。
「次はどんな試練だろうな…」
「分からないけど、これまでのより簡単だとは思えないわ。」
慎重に階段を降り始める。背後には部屋の光景が静かに閉じられ、再び闇に包まれていった。
歯車の音が遠ざかり、俺たちは階段を慎重に降りていった。階段の先には薄暗い通路が続いており、壁には微弱な光を放つ青いクリスタルが等間隔に埋め込まれていた。その光が不気味な陰影を作り出し、通路全体に奇妙な雰囲気を与えている。
「この先には何があるのかしら…」
エリスの声には不安が混じっていた。今までの部屋とは異なる静寂が、逆に異様な緊張感を生んでいた。
「何があってもおかしくないな。気を引き締めていこう。」
俺たちは慎重に歩を進めたが、数分もしないうちに道は行き止まりにぶつかった。そこには円形の扉があり、扉の中央には歯車の模様が彫られていた。その周囲には円形の溝がいくつも掘られ、まるでパズルのような構造をしている。
「また仕掛けか…」
エリスが扉に近づき、模様を丹念に観察する。
「これ、どうやら扉を開けるには正しい順番で歯車を回す必要があるみたいね。でも、どの順番が正しいのかは分からないわ。」
「順番を示すヒントはないのか?」
俺は壁や床を調べ始めた。すると、扉の左側に小さな文字が刻まれているのを見つけた。
『時間の流れを遡れ、そして未来を見よ』
「また時間が鍵か…」
エリスが呟きながら、扉の模様を指でなぞる。その指先が、中央の歯車の近くで止まった。
「智也、この模様、砂時計の部屋で見た記号に似てるわ。多分、あれがヒントかもしれない。」
俺たちは再び頭を悩ませ始めた。時間の流れを遡れという言葉が意味するものを考え、過去の仕掛けを思い返す。
「時間を遡れ…つまり、これまでに解いた順番を逆にするのか?」
「あり得るわね。つまり、時計の針、砂時計、歯車、星、月、太陽の順番で歯車を回せばいいのかも。」
俺たちは慎重にその順番で歯車を回していった。最初に時計の針の模様を回し、その後、砂時計、歯車…と進めていく。
しかし、最後の太陽の模様を回した瞬間、突然扉全体が赤く光り、耳をつんざくような警告音が響いた。
「ダメだったか!」
「失敗すると、何かが発動するかも!逃げて!」
エリスが叫ぶと同時に、床が震え始めた。壁のクリスタルが赤い光を放ち、通路全体に何かが迫ってくるような不気味な音が響く。
「時間がない!でも、もう一度試すしかない!」
俺は慌てて歯車の模様を再度確認した。そしてふと、砂時計の部屋でのヒントを思い出した。
「待て、順番を逆にするだけじゃなくて、歯車を回す方向も逆にしなきゃいけないんじゃないか?」
「そうかもしれないわ!急いで!」
俺たちは再び歯車を回し始めた。今度はそれぞれの歯車を逆方向に回す。時計の針、砂時計、歯車、星、月、太陽…。最後の太陽を回し終えた瞬間、赤い光と警告音がピタリと止まった。
扉が重々しい音を立てて開き、先へ進む道が現れた。
「ふぅ…ギリギリだったな。」
「これ以上のトラップがないといいけど…」
エリスは安堵のため息をつきながらも、まだ警戒を解いていない。扉の先にはまた新たな空間が広がっている。それは広大なドーム型の部屋で、天井には夜空を模したような光景が映し出されていた。
「ここが…次の試練の場かしら。」
部屋の中央にはまたもや円形の台座があり、その上には奇妙な立体パズルのようなものが浮かんでいた。そのパズルは、何層もの立体構造が複雑に絡み合い、まるで星座をかたどったように見えた。
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