第一章 第一話「転生先は量子の世界!?」
新作です!今日から毎日3話更新していけたらと思います。
一応最終話までのプロットは作ってあるのですが、今のペースで連載しても一年近くかかりそうです…
完結まで読んでいただければ幸いです^_^
目の前に、閃光が走った。いや、閃光というよりも、光そのものが俺を包み込んだ。全身がじわじわと浸食されていく感覚。体温が急に下がり、冷たい風が全身を吹き抜けたかと思うと、次の瞬間には何もかもが静寂に包まれていた。
「う…うわあああ…」
俺、田中智也(30歳)。ブラック企業のプログラマーとして、毎日遅くまで働き詰めだった。昨日も徹夜明けで、ようやく帰ろうとしたところで、急に体調が悪くなって、そのまま倒れて…気づいたら、こんなことになっていた。
だって、俺の目の前には真っ白な空間しか広がっていないんだよ?まるで何もない、虚無のような場所。
「ここはどこだ…?」
つぶやいてみたものの、返事はない。誰もいないし、物音一つ聞こえない。それなのに、妙に耳が「ピピピピ」という音で満たされている。
「うおっ、なにこれ!」
その音が急に大きくなり、耳をつんざくように響いてきた。気づけば、目の前に一つの光の粒子が現れ、それが徐々に形を成していく。
「ようこそ、転生先へ」
…え?
突然、耳元から声がした。驚きのあまり、思わず後ろに倒れそうになったけど、体がふわりと宙に浮かんで、安定する。どこか不安定な気分だが、声は確かに聞こえた。
「転生?」
「はい、あなたは今、量子データ生命体として新たな世界に転生したのです」
その声の主は、目の前に現れた、球状の光体。なんだこれ。ちょっとロボットっぽいけど、どう見てもただの光だ。
「量子データ生命体…ってなんだよ!俺、そんなもの聞いたこともないんだが?」
俺はあまりに呆然としすぎて、つい声を荒げてしまった。「なんだよ!」と、ちょっと強い口調で言ってみる。でも、この光体は全く動じていない。
「安心してください。あなたの理解はこれからゆっくりと深まります。でもまず、私の名前をお伝えしておきますね。私は『クエリ』。あなたのガイド役です」
「クエリ…?」
「はい、あなたの目の前に広がるこの空間も、あなたが転生した世界も、すべて私が管理しています。簡単に言えば、この世界の『システム』ですね。」
俺の頭の中は混乱していた。転生?システム?でも、とりあえず理解しようとしてみる。
「つまり、俺は死んだってことか?」
「そうですね、あなたの前の身体はもう存在しません。ただし、この世界での生活はこれから始まるわけです。素晴らしいでしょう?」
「いや、全然素晴らしくないんだが…」
俺はどうしても納得がいかない。このクエリとかいう謎の存在が言ってること、理解できるはずがない。でも、頭の中で理解しようとすればするほど、現実感がどんどん薄れていく。まるで夢の中にいるみたいな感覚だ。
「さて、あなたが転生したのは『ディグラフスフィア』という、量子世界です。この世界では、言葉や意識が物理的な影響を与えます。たとえば、今、あなたが何かを言ったり思ったりすることで、この空間が少しずつ変化していくのです。」
「は?」
「言葉や意識の力を使って、この世界を構築していく。もちろん、あなたにはそれを上手く使うための能力も与えられています。」
俺はその言葉を理解するのに時間がかかった。つまり、この世界では、意識や言葉が実際に影響を与える力を持っているってことだろう?
「じゃあ、俺が何か言うと、この空間が変わるのか?」
「そうです。その通り。試してみてください。」
「うーん、じゃあ…」
俺は思わず口を開いた。
「空間が…広がれ!」
その瞬間、俺の周りの空間が急に広がり、色とりどりの光が反射し合う。周囲の景色が、どこか異次元的なものに変わっていく。
「すごっ!」
「うまくいきましたね。これが、この世界の基本的な法則です。」
でも、俺の頭の中ではまだ信じられないことだらけだった。何もかもが理解できない。だが、とりあえず、この「ディグラフスフィア」で生きていくために、この世界のルールを知っておかなきゃならない。
「ところで、クエリ。俺の名前、どうして知ってるんだ?」
「それは、この転生ポータルでの情報データにあなたの個人情報が組み込まれているからです。あなたの過去の記憶や情報は、すべてこの世界に転送されました。」
「つまり、俺の過去の人生も、ここではデータとして存在してるわけか…」
その言葉に、少し気が楽になった気がした。過去を失ったと思っていたけど、ここでそれを振り返ることができるのなら、少しは安心できるかもしれない。
「さあ、智也さん。ここでは、あなたが新しい生活を始める準備を整えます。あなたの次のステップに進んでみましょう。」
クエリが言ったその言葉に、俺はまだ少し不安ながらも、新しい世界に一歩を踏み出す決意を固めた。
「さて、智也さん。まずは基本的なことを説明しましょうか。」
クエリの声が響く。さっきまでの混乱した気持ちは、少しずつ落ち着いてきた。どうやら、この世界で生きていくための“基本”を学ばなければならないらしい。
「まず、あなたがここで最初に覚えておくべきこと、それはこの世界『ディグラフスフィア』の基本構造です。」
俺は少し身構えた。こういう説明が続くと、どうしても面倒臭くなってしまう。でも、仕方がない。ここで生きるためには、学ばなきゃならないのだろう。
「ディグラフスフィアは、量子コンピュータ的な世界です。つまり、すべてがデータとして存在しています。この世界における物理法則や、物の成り立ちは、あなたが知っている現実とはまったく異なります。」
「まったく異なるって、どういうことだ?」
俺はクエリに質問を投げかける。普段なら、こういう話題には乗り気にならないのに、どうしても聞かずにはいられなかった。
「簡単に言うと、この世界では、言葉がすべての物理法則を変えるんです。」
「言葉が…物理法則を変える?」
「その通りです。あなたが何かを言ったり、意識で考えたりすると、それがこの世界に影響を与えます。もちろん、あなたの意識の力が強ければ強いほど、その影響力は大きくなります。」
「なるほどな…つまり、言葉で空間が広がったり、物が変わったりするわけか。」
「そうです。例えば、あなたが『空気を作れ』と言ったら、その空間に空気が生まれる。『重力を消せ』と言ったら、重力が消える。『光を集めろ』と言えば、その通りに光が集まります。」
俺は思わず目を見開いた。すごいことになってるな、この世界。言葉一つで、物理法則を変えられるなんて、現実世界では到底考えられないことだ。
「でも、どうしてそんな力を俺にくれるんだ?俺、プログラマーで、特にすごい能力があったわけでもないのに…」
「それは、この世界のシステムがあなたに適した能力を与えるからです。あなたがプログラマーだったことを考慮し、データを扱う能力が重要だと判断したので、あなたにはそれに特化した力を与えました。」
「へぇ…データを扱う能力…」
俺は少し考える。プログラマーだった頃、確かにデータを扱う仕事はしていたが、それがどう活かせるのか、全く想像がつかない。
「そして、ここではギャグや冗談がエネルギーとして扱われる世界でもあります。」
「えっ?」
急に話が飛んだ。ギャグや冗談?
「これは、この世界のユニークな特徴です。冗談を言ったり、笑いを生み出したりすると、エネルギーが生まれます。そのエネルギーを使って、さらに強力な力を発揮することができるのです。」
俺はしばらく黙っていた。エネルギーが笑いから生まれる?それって、どう考えても現実的ではない。でも、ここではそれが当たり前らしい。
「試しに、今、軽く冗談を言ってみてください。私があなたに使えるエネルギー量を計測しておきます。」
「うーん、冗談か…」
俺は少し考えてから、口を開いた。
「…昨日、ソフトウェアがバグって、オフィスが爆発したんだ。」
その瞬間、周囲の空間が少しだけ震え、光の粒子が散りばめられたように輝いた。
「おっと、それはかなり強力なエネルギーを生んでいますね。あなた、意外と冗談が得意なんですね!」
「いや、爆発したのはマジだよ…」
「はい、冗談ですね。あなたが冗談だと思って言ったことが、実際にはエネルギーを生み出しました。」
俺は思わず顔をしかめた。冗談のエネルギーって、どういう仕組みなんだろうか。それにしても、あまりにも現実離れしている。
「さて、もう少しだけ説明を続けます。あなたがこの世界で成長し、力を使いこなせるようになるためには、まずは『データ生命体』としての自覚を持つことが重要です。自分がデータであるという感覚を養ってください。」
「データ生命体としての自覚…」
「はい。あなたの身体は、今や物理的なものではなく、情報の塊です。その情報を操ることで、あらゆることが可能になります。」
「なるほど…」
それからしばらく、クエリはこの世界での基本的な動き方や法則について話し続けた。俺はその話を、少しずつ理解しながら聞いていた。
しかし、ひとつだけ気になることがある。
「でも、クエリ。どうして俺は、こんな世界に転生させられたんだ?」
クエリは少し黙った後、ゆっくりと答えた。
「それは、あなたの『使命』があるからです。」
「使命?」
「そうです。あなたがこの世界に転生したのは、ただの偶然ではありません。この世界の“リセット”を阻止するために、あなたは選ばれたのです。」
「リセット?なんだそれは?」
クエリは微妙に黙っていたが、やがて言った。
「その話は、また後で詳しく説明します。まずは、あなたがこの世界で自分を強くすることが先決です。」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価と、ブックマークをしていただけると、ハッピーな気持ちになります…