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西の戦乱 従の章

 エミリッテは大公国に入り、その内情を詳しく調べた。

 大公国の国民は長い間、帝国からは裏切り者の血、教皇国からは信用できない民族だという偏見を持たれている。そして、そのせいか今回の婚姻には希望と不安がかなりあるようであった。

 希望と不安は時に絶望と狂気に代わる。それこそが創造主様が私に与えた使命だと。

 そのためにも、まずは大公国の内部に入らなければならない。可能なら大公か宰相の近くにいる立場に。

 身元などはいくらでも偽装できるが、それでもある程度の地位の側で働くためには相応の出自がいる。

 どうしたものか。と考えていると幸運は以外に早く現れた。

 

 ――大公陛下の婚姻に際して、侍女武官の募集を行う。

 応募条件

 女性であること。未婚であること。軍務または軍属、傭兵などの戦いの経験があること。出自等は不問。

 報酬、待遇については採用時に説明。


 お触書が大公国領内で貼りだされた。

 エミリッテは笑みを浮かべると、大公宮殿に転移した。

 

 宮殿の天井裏に忍び込んだエミリッテは奥に進んでいった。大公または重臣の誰かがこの件を募集したに違いない。詳しく分かれば内部への潜入がぐっとしやすくなる。

 気配を消しながら進んでいくと話し声が聞こえた。

「宰相閣下が侍女を募集したのはどういう意図なんですかね。」

「さあな。護衛を兼ねたいのだろうが、今いる者でもよかろうが。」

「おーと、宰相殿だ。お役目、お疲れ様です。」

「ふっ。気になるのであれば直接聞いてもよいぞ。」

「あ、いえ。し、失礼します!」

 足音が遠のいていく。

 ――なるほど。宰相がこの件を決めたのか。宰相を調べてみるか…………。

 後ろに気配を感じたが、振り返る前に首筋にひんやりとした感触があった。

「何者じゃ。ことの次第では首と胴が離れ離れになるぞ。」

 声は宰相のものであった。

 エミリッテは思考を張り巡らせた。

 ――いつ気づかれた。いや、これは好機か。

「私は町に貼りだされたお触れを見てきた者です。」

 首筋に当たる力が強くなる。

「ほー。それで何用で天井裏に。応募するなら正面から入るものぞ。」

「そ、それはどのような基準で採用されるか知りたかったのです。どうしても採用されたくて。」

 しばしの沈黙が続くと、首に当てられていた物がなくなり、正面を向かされる。

「ふむ……邪気や殺気はないのお。はて。どのような野心があろうか。」

 宰相の紫の瞳はエミリッテの内面をのぞき込んでくるようである。

「野心はあります。大公様に付いて教皇国に行き、枢機卿どもを誑し込めたいのです。」

 動揺の色を見せず、偽りのない本心を打ち明けた。

 宰相は警戒の色を消し、そして笑みを浮かべた。

「そうか、そうか。よかろうて。人材としては合格のようじゃの。そちは戦いはできるのか。」

「はい。多少の武術と魔法は心得ております。」

「うんうん。よいぞ、よいぞ。詳しいことは後から教えてもらうとして。そちを採用しようではないか。」

 やはり好機であった。思いがけないことで内部にはいることができた。あとの課題は大公と親睦を深めるだけだ。


 宰相とこれまでの経緯や今後の展望、特技について虚実を交えながら伝えると大いに気に入られたようであった。宰相もおそらくは似たような人物なのだろう。

「さて、採用が決まったからには……大公陛下にお会いしようかの。」

「はい。喜んで。」

 宰相に連れられて大公の部屋に行った。

 宰相は部屋にノックをすると、「アンナローゼです。新しい侍女をお連れしました。」と言って中に入っていく。

 大公は美しかった。エミリッテも思わず見とれてしまうような美女であった。

「そなたが新しい侍女か。名を何という。」

「エミリッテにございます。」

「エミリッテか。ここらではあまり聞かん名じゃな。出身はどこか。」

「魔法王国の辺境になります。」

「ふむ、魔法王国にもそなたのような美しく強い女性がおるのだな。」

「滅相もありません。」

「大儀である。宰相、エミリッテには仕事を教えて、婚姻までに間に合うようにしておけ。」

「かしこまりました。では失礼いたします。」

 大公へ一瞥すると、部屋をあとにした。

 部屋の外に出ると、宰相はあとについてくるように言うので進んでいくと、侍女たちの控室についた。

「ここは仕事があるまでのそちの場所になる。先達から学ぶこともあるだろう。聞くようにしなさい。あとは護衛としての仕事はこちらでまとめておくので、おって沙汰を待つように。では精進しなさい。」

 宰相はそういうと去っていった。

 エミリッテはことがうまく進んでいることに喜ぶが、すぐに気持ちを切り替える。

 創造主が求めていることのやっと一歩が進んだに過ぎない。

 ――さて、婚姻までは大人しく粛々と侍女エミリッテとして働くか。

 こうして、この国の破滅は始まった。

 


 

 

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